十一話
「よくも好き勝手やってくれたな!」
その「なにか」がエドガーの左足に当たり、巨体がぐらりと傾いた。
「このチビ……!」
飛んできたのはアルだ。双葉に回復してもらったのだろうが、すぐに動き出すのは軽率すぎる。
とは言っても、その行動力には頭が上がらない。なぜなら、ようやく勝機が生まれたからだ。
動けずにいるアルに掴みかかろうとするエドガー。手を伸ばし、その身を屈めた。
「そうくるだろうなと思ったよ」
今までもそうだった。エドガーは目に映った獲物をしつこく追いかける習性がある。バカだからだとか、頭が悪いからというわけじゃない。自分に絶対的な自信があるから敵に背を向けようが関係ないと思っているのだ。慢心と言えばそれまでだが、きっとコイツはずっとそうやってやってきた。やってこれたから、周りに注意をする必要がなかったんだ。
だったら教えてやる。この俺が。お前に。
屈んだエドガーめがけて駆けていく。俺が持っている魔力すべてを移動に注ぎ込む、それくらいの勢いだった。
右腕を引き、狙いを定める。
コイツと戦っていてもう一つわかったことがある。周りに注意を払わないからこそ、不意打ちに対しての耐性がほとんどないのだ。これもまた、周囲からの攻撃も今までは気にしなくてよかったのだろう。それを象徴するかのように、エドガーの攻撃を避けて脚を攻撃してもヤツの脚は鋼のように硬かった。
では、どうして俺の爆炎やフレイアの電撃、アルのスライディングなんかがヤツにヒットし、ダメージとなったのか。
「これでも――」
打擲の寸前に拳を前に突き出した。そのデカイ顔面に向けて、魔力を全部集中した。
「喰らえ!」
俺の拳がエドガーの横っ面を捉えた。そして爆発。今まで鋼のようだと思っていた肉体。巨岩のように動かなかった体が不思議と吹き飛んでいた。空中でで幾度となく回転し、めり込む勢いで壁面にぶち当たった。
土煙が高く高く立ち上る。すぐに立ち上がってくる様子はない。
本当は一人で倒せればカッコよかったんだろう。でも、無理なものは無理だと最初から諦めてしまった方が早い。
だから俺は、エドガーと女性陣の間に割って入った際にフレイアとアイコンタクトを取った。たぶんだけど、あの時はまだ理解してくれてなかったんだと思う。でも俺が吹き飛ばされてエドガーが背を向けた時に気づいたんだ。
この男は目の前の獲物を執拗に追いかける。そういう性質を持っているのだ、と。
「どうだよクソ野郎。魔法に対してだけは、その防御力は極端に低いみたいじゃねーか」
エドガーの防御力は物理攻撃に特化したものであって、魔法に対しては弱いようだ。だから俺の爆炎だって通ったし、フレイアの電撃だって食らっていた。
魔力も尽きた。体力ももう限界だ。思わず尻もちをついてしまった。
そんな時だった。土煙の中で、大きな体がゆらりと揺れた。
「俺は……」
そんなことを言いながら、エドガーが立ち上がってきた。
「嘘だろ」
「まだ終わってねーだろ。まだ、まだ……」
そこで巨体が前方に傾く。そのまま、エドガーがうつ伏せで倒れてしまった。
「ビビらせんなよ……」
気力だけで立ち上がったがそれ以上のことはできなかったらしい。これで立ち上がってこられても困る。
「頑張ったね、イツキ」
フレイアが手を差し伸べてくれた。
「ああ、気づいてくれてありがとうな」
「目を合わせた瞬間になんで頷いたんだろうって思ったけど、その理由があとからわかってね。なにはともあれ、倒せてよかった」
「そうだな。よかった。よかったよ」
フッと全身から力が抜けていく。なんかこんなのばっかりだな、なんて思いながらも目を閉じた。
今日はぐっすり眠れそうだ。
心配するフレイアや双葉の声を聞きながら、俺はそんなことを考えていた。




