四話〈ビューポイント:アルセイナ=ヒュンタイク〉
エドガーの家の前に立ち、シンドリアの方を見た。シンドリアは小さく頷き、視線を小屋へと向けた。
ヒルシュ、元上司がエドガーと繋がっていると言われた時、当然最初は戸惑った。そんなわけはないと大声をあげた。しかしイツキは言った。もし間違いなら死んで詫びると。同時にグランツが集めた情報を見せられた。最終的には協力してくれると言ってくれたイツキの熱意に折れた。なにもなければそれでいいのだ。
小屋の周囲にはゲーニッツ、メディア、メリルが待機していた。非常事態に対応できるようにとイツキが手配した。フレイアと双葉はイツキの助勢をするのだと彼自身から聞いた。
ようやくここまで来た。失敗すれば二度目はないかもしれない。なぜならば何年も捕まらずに生きてきた男だ、逃がせば雲隠れするに違いない。
「いくよ、リア」
「ええ、大丈夫ですよアル」
アルは鎌を両手で握り、リアがライフルを構えた。
ドアノブを掴んだ。震えた手がカタカタとドアノブを揺らす。すると、リアの手が上から支えてくれた。ここでようやく覚悟が決まったような気がした。
ゆっくりとドアを開けた。心臓が大きく脈打っていたが、そんなことに気をとられてはいけないとかぶりを振った。
部屋は明るかった。けれど室内には誰もいない。
「これは、どういうこと?」
昨日の夜ヒルシュと会話した時には、エドガーは夜は家から出ないと聞いていた。だから今日踏み込むことを決めたのだ。
二人が室内に足を踏み入れた。その時、ものすごい勢いでドアが閉まった。
迂闊だと気付くまでに時間はいらなかった。ドアを開けようと、強く引いたり押したりをしてみるがびくともしなかった。
ガチャリと、どこかのドアが開くような音がした。
「いやー、こんなに上手くいくとは思わなかったなあ」
振り向くと床に真四角の穴が空いていた。地下室であるとすぐにわかった。そこからヌッと手が出てきて穴の縁を掴む。そして頭が出てきた。二人が追い続けてきたエドガーだった。
今ならば首を刎ねることもできる。しかしエドガーの動きは予想以上に俊敏で、地下室から全身が出てくるのは一瞬だった。
「ホントに似てるな。最高だ、俺好みだよ」
イヤラシイ視線に全身を舐められる。ぞわりと全身の毛が逆立つようだった。
「もう逃げられないぞ」
「そうか、そりゃ残念だ。ホントは逃げようと思ったんだが、あの野郎が今日絶対来るって言うもんでよ。首を長くして待ってたってわけだ」
「あの野郎って誰よ」
「お前ら、何年も連絡取ってるくせにまだわからないのか? ヒルシュだよ。最高のパートナーだ。俺の好みを完璧に理解してやがる」
痛いほどに奥歯を噛み締めた。イツキに言われた時は実感がなかった。絶対になにかの間違いだ。あのヒルシュがエドガーとグルだなんてありえない。
しかし蓋を開けてみればどうだ。信じていた人間には裏切られ、姉妹共に窮地に立たされている。どこで間違えて、どこで道を踏み外したのか。
「アル、考え事はあとにして」
リアが前に出た。まるで自分を守っているようだなと思った。
「ヒルシュがアナタの味方だったってことは、私たちの姉妹を殺した時もヒルシュが手引きしたんですか?」
「いい質問だな」
エドガーは人差し指と親指で顎を触りながら天井を見つめた。ニンマリと笑顔を浮かべたあとで、再度二人に視線を戻した。
「お前らが考えてる通りさ。俺はヒルシュの手引きでお前らの姉妹を殺した。お前らの姉妹だけじゃないぜ? アイツが転勤して、転勤先で俺好みの女を教えてくれるのさ。俺は好き放題できるしアイツには金が入る。今回だってこうして俺に協力してくれてる」
「アナタが私の姉妹にしたことは知ってる。物みたいに扱って、欲望をぶつけて、彼女を殺した。きっと泣き叫んで命乞いをしたでしょう。私たちにもそうするつもりなんですか?」
「そりゃ間違いだ。あの子は嫌がってなかったぞ? 命乞いをしてたのは最初だけでな、途中からは殺して、殺してって壊れた人形みたいだったぜ。ああ、壊れた人間の間違いか」
エドガーが大声で笑った。心底楽しいと思っているのだろう、目には涙を溜め、腹を抱えて笑っていた。
一気に頭に血が登った。足と腕に全神経を集中させて勢いよく飛び出した。
はずだった。
眼の前にはリアの腕があり、自分の身体を支えていた。
「言っておきますが、私はそんな口車には乗せられませんよ。感情で突っ込めば力でねじ伏せられてしまう。そうならないためには常に冷静でいなければいけません」
「ほー、ガキにしちゃ図太いな。突っ込んできたら一発でのしてやろうと思ったんだがな」
「アナタの方がレベルが高く腕力も上でしょう。正面からぶつかっても勝機はありません。ですから、私たちは搦手を使う以外に方法がない」
「いいぜ、やってみろよ。でも失敗したらどうなるかわかってるよな?」
「さあ、失敗しないのでわかりませんね」
「じゃあ教えておいてやるよ。お前ら姉妹、全員俺の慰み者になってボロボロになって死ぬ。腕も足ももいでやる。目を潰して口を縫い付けてやる。さあ、恐怖しながらかかってこいよ」
「アル、行きなさい」
リアの合図で飛び出した。今まで我慢させられた分、目一杯暴れなければ気が済まない。リアだって何度も汚い言葉を浴びせようと考えただろう。でもそうしなかった。理由は一つ。リアが冷静でなくなったらこの計画は終わってしまうからだ。
「その怒り、私がぶつける!」
エドガーのような大男が生活しても苦にならないほどに小屋は大きめだ。だが好き勝手に鎌を振るえるかといわれると難しい。壁があるということは、戦闘中に鎌が壁に刺さる可能性もあるからだ。つまり勢いに任せて鎌を振るうわけにはいかない。考え、コンパクトに攻撃する必要がある。




