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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 5-2〉 truth obligation
125/252

二話

 ドアを四回ノックして「俺だ、イツキだ」と言った。


 ドアを開けてくれたのはリアだった。これは夢と一緒だ。だがそんなことはどうでもよくなるくらい、胸にこみ上げてくるものがあった。


「なんで泣きそうなんですか?」

「いや、なんでもない。あくびしただけだ」

「それならいんですが。どうぞ、入ってください」


 部屋に入り、近くのイスに腰掛ける。リアがコーヒーを出してくれた。


 ベッドの上では、アルが座って眠っていた。こんなアンニュイな顔がもう一度見れるだけで飛び上がるほど嬉しい。


「アル、起きてください。ねえアル」


 揺すられて、アルが起きた。あくびをして、視線が交わる。


「なんでアンタがいるのよ。っていうかなんか泣きそうになってない?」

「目にゴミが入ったんだよ。気にすんな。それより昨日はなにか見つかったか?」

「で、昨日はどうだったんだ? なにか見つかったのか?」


 二人は顔を見合わせたあとで首を傾げて見せた。だがそこまで気にしなかったのだろう、早々に話を始めた。


 話の内容は夢の通り。一語一句覚えてるわけじゃないけど、二人が尾行してエドガーの居所を突き止めたという話だ。


 地図の説明も同じだった。だが、今日はここで切り上げるわけにはいかなかった。なぜならば双子がいつエドガーの元に行ったのか、正確な時間がわからないからだ。歯止めをかけられる場所があるとすればここしかない。


「ところで一つ訊きたいんだけど、この地図はなんで方位記号がついてないんだ?」


 俺がそう言うと、急に空気が重くなった。沈黙だけじゃない、顔から柔らかさが消えた。


「そりゃ、こっちが北でしょ」と、アルが地図の上部を指さした。

「そうか? 俺にはこっちが北に見えるぞ? この地図はどっちが港で、どっちが街道側か書いてない。それに町の造りが大きな十字になってるから、方位記号がなくなるとどっちがどっちだかわからなくなる。本当に、こっちが北なんだな?」


 俺も地図に指を立てた。同時に、アルの瞳を覗き込む。怯えはないが、動揺は見てとれた。


「今日、ここに来るまでに俺がなにやってきたか知ってるか? 時間目いっぱい使って、散歩してきたんだ。もう一度訊くぞ、本当に、こっちが、北なんだな?」


 当然ハッタリだ。町を見て回るほどの時間はなかった。二人の様子を確認したくてすっ飛んできたんだからそれも当然だ。


 アルはをれでも目を逸らさなかった。唇をっキュッと真一文字に結って、それが決意の表れであることはよくわかった。


「もういいですよアル。正直に話しましょう」

「でもリア――」

「無理です」


 今度はリアと目が合った。

「騙すような真似をしてしまい申し訳ありませんでした。しかしこれはイツキを守るためでもあるのです」

「俺を守るってどういうことだよ」

「エドガーは強敵です。凶悪で残忍です。レベル100にも満たないイツキが対峙したらどうなるかわかりません。協力してくれるのは非常にありがたい。でも、アナタを傷つけたくはないんです」

「だからって、お前らが傷ついていい理由にはならないだろ」


 二人の泣き顔を思い出す。痛かっただろう、悔しかっただろう、辛かっただろう。たとえあれが夢であったとしても、あんな結果だけはあっちゃいけないんだ。


「これは私たち二人で始めたことなので」

「始めたのは二人でも、今は三人じゃないのかよ。エドガーを追う理由だけを言えば、お前たち二人と俺は考え方が違うだろうさ。メイのことも知らないよ。でもお前らの、メイの無念を晴らしたいって思うのは俺も同じだ。それに俺がいることで少しでも危険が減ればそれでいい。危険なヤツだってわかってるのに、二人きりで行かせたくないんだ。これが偽善だって言われたって別にいいよ。罵られたって謗られたっていい。それでもいいからさ、頼むから俺を切り捨てないでくれよ」

「別に切り捨てたつもりは、ないけど……」


 と、アルが不安そうに言った。


「なら、俺を騙すようなことはやめてくれ」


 眼と眼が合うと、アルが小さく口を開けて、キュッと閉じた。なにをどうやって言おうとしているのか、なんとなくだが想像はつく。接してきた時間は短いかもしれないが、このアルセイナという少女は必要以上の嘘をつくような人間ではない。シンドリアという少女も例外ではなく、この双子は素直で、正直な人間だ。


「私たちが危険な目に遭うのは仕方ないことだけど、巻き込まれたアンタが危険な目に遭うのは違うから。だから、二人でやろうとしただけだ」

「そういうのは気にしなくていい。俺は自分から巻き込まれたんだ。それに危険だってわかってるならその危険を減らそう」

「減らすって、どうやって?」

「決まってるだろ。戦える人数を増やす」

「それはダメだ」とアルがテーブルを叩く。

「これは私たちの戦いだ。私たちがケリをつける」

「もうイツキを巻き込んでますけどね」

「リアは黙ってて」

「お姉ちゃんに対してキツイ言い方ですね」

「うるさい!」


 いきなり姉妹喧嘩が始まってしまい、少々面食らってしまった。


「まあまあ落ち着け。戦うのも決着をつけるのも二人でやる、それはいい。だから予防線だけ張ろう。ちょうどいい人たちがこの町にいるだろ?」

「困った時に駆けつけてくれるようにしろ、ということですね」

「ああ、話は俺がつけるよ。極力危険を抑えて、それでいて願いを叶えられるようにしたいんだ。俺はお前らが殺されるところなんて見たくない。でも俺にはまだ力がない。乗ってくれないか?」

「まるで私たちが失敗するような言い方ですね」

「そういうわけじゃないけど、俺の言っていることが正当かどうかがわからないほどのぼせ上がってるわけじゃないだろ?」

「棘がある言い方ではありますが一理ありますね。アルはどう思いますか?」

「そりゃ、人でがあれば助かることは助かるけど……」

「であれば話を進めましょう。ただし、エドガーとは私とアルが戦います。それは譲れません」

「わかってる。言ったろ、あくまで予防線だ」

「人員の方はアナタに任せます。それでは、作戦会議といきましょう」


 なんとかやり込むことができたらしい。突っぱねられる可能性も十分あったし、そうなれば彼女たちとの関係も悪くなったはずだ。しかし、勝算はあると踏んでいた。彼女たちであれば説得すれば応じてくれる。説明すれば理解してくれる。そう思ったのだ。


 こうして夢の内容から逸れるように話が進んでいった。基本的な作戦は変わらず、二人でエドガーの根城に乗り込む。あとは俺が上手くやればいい。きっとやれると、妙な自信があった。

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