最終話
アッパーをぶち込み、顔面を掴んで爆炎をお見舞いしてやった。
最期に蹴りをくれて、横にふっとばした。
エドガーは派手に転び、その辺の机やイスを巻き込んで倒れた。手応えはあった。少なくともダメージは与えられたはずだ。
「これでどうだよ」
いくら全身を強化していても、ここまでの無酸素運動を続ければ息も切れる。
リアの元に駆け寄った。初めて見たリアの裸。だがこの状況で劣情を催せるわけがない。
こんな形では見たくなかったと思いながら釘を一本一本抜いていく。法術は使えないので、すぐに宿に連れて行かないとダメだ。
この釘がなかなか抜けない。かなり深く刺さっている。
リアの右手が上がり、俺の頬に触れた。
「……げ、て」
「しゃべるな。今助けてやるから」
「にげ、てっ」
「だからしゃべ――」
意識が飛んだ。
気付いたとき、俺は尻もちをついていた。
「なにが起きたのかわかんねーって顔してんな。一発くれてやったんだよ。ただそれだけだ」
手をついて立ち上がる。だがすでにヤツは目の前まで迫っていた。
「はいざんねーん」
両腕を上げて防御の姿勢を取る。顔面と胸を守るための防御だ。
しかし、衝撃は横っ腹を貫いた。
そのまま壁に叩きつけられ、地面に落ちた。木製の壁を貫通しなかったのが不思議なくらいだ。
肋骨を何本かやられた。それに背骨もやられたのか、腕が麻痺して動かせない。
「残念なんだよなあ、お前。咄嗟に腕を上げちまうのは場数を踏んでない証拠だ。相手の動きを見ないからこうなる。いや、見えなかったのかな? これば身の程を知るってことだ。よくわかったか、ぼっちゃん」
髪の毛を掴まれた。持ち上げられ、目の前にはヤツの顔があった。
「お前は知ってたのか? コイツらが俺を追いかけてたこと」
「だったら、なんだよ」
腕を上げようにも、指を曲げるのが精一杯だった。痛いわけじゃない、感覚がないのだ。
「俺が昔殺したガキに似てると思ったが、あの時の三つ子だとは思わなかったぜ。それにしても三人揃って一日保たないってのはどうもな。いや、俺が人間を一日保たせたことなかったわ」
エドガーは高笑いしていた。
「安心しろよ。この部屋は防音だ。衝撃にも強い。魔法のおかげだ。世の中には便利な魔法が多いよな」
「ああ、そうだな」
「なんだ物分りがいいじゃねーか。俺たち友達になれそうだな。女の趣味も一緒だ」
「なんでもいいけどよ、顔離してくんねーかな」
「あ?」
「口がくせーんだよっ」
腕は動かなかったが足は動く。目一杯、股間に向けて右足を振り上げた。
が、俺の攻撃が届くことはなかった。
「素人が考えることはわかっちゃうんだよなー」
ヤツの左手が俺の右足を掴んだ。そしてその手を、外側にひねった。
強烈な痛みが全身を突き抜けた。脳が痺れるような感覚と、足にこびり付く痛み。
「あああああああああああああ!」
「痛いよなあ? そうやって苦痛に歪む顔を見るのが好きなんだ。さあ、泣いて叫んで訴えてみせろよ。懇願すれば助けてやらんでもないぞ?」
「誰がてめえにすがるかよ!」
手がダメなら、足がダメなら。俺ができることは多くない。
魔力を内側に溜め、一気に放出した。全身から炎を吹き出して抵抗を試みる。案の定、エドガーは熱がって手を離した。
本来ならば自分が出した炎のダメージは少ない。にも関わらず皮膚が焼ける感覚があった。熱いなんてもんじゃない。今すぐにでものたうち回りたくなる。頭を抱えてうずくまりたくなる。でもそれじゃダメなんだ。
「てめえは絶対にゆるさねえ!」
ヤツに飛びかかろうとするが、左足の痛みがそれを邪魔する。それでも、一歩一歩前に進む。
「本気で惚れてたんだな、お前」
「だったらなんだよ」
息を吸い込むたびにむせ返りそうになる。熱気が喉を通り、肺に入った。
「どっちが好みだ?」
「両方だよ」
「欲張りだな」
「両方カッコいいんだよ! 両方、すげーヤツなんだよ! お前には一生、わかんねーよ!」
右足に力を込め、跳躍した。
「めんどくせーガキは嫌いだよ」
上からの衝撃。骨が砕ける音がして、体中を電気が流れた。
地面に叩きつけられた。肋骨が完全に砕けたようだ。
肺の中の空気を全部吐き出した。
「じゃあな坊っちゃん。女と一緒に埋めてやるから安心してネンネしな」
ヤツが足を上げた。そして、下ろされた。
バコっという音がして、目の前が暗くなった。息もできない。手足も動かせない。
俺は二人の生き方に敬意を払っている。考え方に、行動力に。だから次は守ってみせる。嘘をつかれても、そんなものは関係ない。
ああ、もうなにも考えられない。
闇がそこまで迫っていた。俺を連れ去る、ハローワールドという闇だった。
【to the next[expity point]】
.......error.
【to the once again[actuality point]】




