十一話
年長組の三人は早めに酒盛りを済ませ、十二時には寝床に入ってしまった。フレイア、双葉、メリルの三人も昼間散々魔法を使ったせいか早めに寝てしまった。こんな好機があってもいいのかと思うほどに都合が良かった。ゲーニッツとグランツの寝息が聞こえてから布団から出て用意を済ませた。そして皆が寝静まった頃、俺は一人で宿を抜け出した。
俺はといえば、夜に行動するために昼間に数時間寝た。これでセーブポイントも作れた。
窓から出て双子の部屋に向かった。部屋にはまだ明かりがついていた。
宿に入って部屋の前へ。ノックを四回した。
しかし、いくら待っても返事はなかった。
「アル、リア」
声をかけても返事がない。
嫌な予感がする。
「入るぞ」
ドアの鍵は開いていた。
だが、部屋には誰もいなかった。
冷や汗が背中を伝う。顔の毛穴から脂汗が吹き出てくるのがわかった。
「くそっ!」
最初からこうするつもりだった。なぜ今になって気付くんだ。もっと早く気付けたはずなのに、俺は完全に思考停止していたのだ。
宿を出て、町の最北端を目指した。幸いと言っていいのか、この宿は町全体で見れば北側にある。最大までエンハンスをかければ時間はかからない。
かからないと、思っていた。
地図で見たはずのその場所に、エドガーが借りた小屋はなかった。
リアが見せてくれた地図を思い出す。あの地図はボロボロで破れているところもあった。あの地図には方位記号がなかった。つまりあれは、どっちかが方位記号を破ったのだ。
南は港。北にはなにもない。それなら東か西だ。
迷っている暇はないと、すぐに東へと足を向けた。
走っている最中にライセンスが光った。通信が入ったのだ。通信相手はリアだった。
「リアか。今どこにいる」
平静に務めるため、語調を抑えて言った。
「いつ……ごめん……」
すぐに通信が切れた。
「おい! リア! なんで……なんでこんなこと……!」
俺は足を動かし続けた。
しかし東にも小屋はなく、引き返して西側の端へと駆けた。
小屋は、あった。ドアは開いている。
急いで駆け寄って小屋の中に入った。こちらに背を向けて立っている大男、コイツがエドガーか。手になにか持っている。
それが「なにか」気付いたとき、全身に泡立つような感覚があった。そこには、目を疑うような光景が広がっていた。
「ははーん。お前がコイツらの協力者ってか。笑えるな」
エドガーは右手に持った「なにか」をこちらに向けた。アルだった。
服は破られ、右腕と右足がなかった。右目が潰され、口は半開きで、それでもまだ小さく動いていた。
「ごめ……んね……」
「コイツまだ喋れるのか! 嫁に行かれなくなるくらいに犯したってーのに壊れてねえ! 最高だよこのオモチャはよお! でも飽きちまったんだよなあ」
エドガーがアルを投げて寄越した。俺は全身でそれを受け止めた。まだ生きているはずなのに、冷たかった。
「お前、なんで……!」
「みな、いで」
「そんなこと言ってる場合かよ!」
「いちゃついてるとこ悪いけどよ、お楽しみはもう一個あるんじゃねーのか? 最高の芸術ってのを見せてやるよ」
ヤツが壁にかかってい布、カーテンのようなものをサッと引いた。
「てめえ……!」
思わず口から出ていた。
「最高だろ? ガキのオブジェだ」
リアだった。全裸のリアが壁に張り付けられていた。ありとあらゆる身体の部位が、太く長い釘で打ち付けられていたのだ。腹は特に酷く、何十本という釘が刺さっている。左手、左足、左目がなかった。それでもまだ生きているようで、顔を上げてこちらを見た。
「あ、うあ……」
「こっちも生きてんのか。楽しませてくれるね、ホント」
エドガーがリアの胸に手を当て、愛おしそうに撫でた。こんな残酷なことをしておいて、愛でるように優しく、優しく撫でていたのだ。
「うあっ……」
とリアが唸った。その目からはとめどなく涙がこぼれていた。
その瞬間、ようやく脳が現実を受け入れたみたいだった。カーっと頭に血がのぼるような感覚。全身が震え、怒りと苦痛が胃の奥で沸騰するようだった。
アルを近くの壁によりかからせる。だが、彼女は俺の袖をひっぱった。俺はその手を、そっと解いた。アルもまた、泣いていた。。
「てめえは俺が殺す……!」
俺が立ち上がると、エドガーは楽しそうに笑い出した。
「お前が? 俺を? 無理だよ。まずレベルが違う。お前なんかが俺に――」
全部聞き終わる前に顎をぶん殴った。一発くれてやれば、腹筋なんかに力を込めるのも遅くなる。
ヤツの身体が後ろに傾いたのを確認してから腹や胸を殴りつけた。一発や二発じゃない。可能な限りエンハンスをかけて、今までで最速、そして最多の連打を叩きつけた。




