五話
朝日が瞼に当たり、その眩しさで目を覚ました。あまりいい寝起きではなかったが、ちゃんと睡眠時間がとれているせいか気分は悪くない。
ゲーニッツもグランツも帰ってきている。が、そのせいか酒臭い。二人がというか部屋の中がだ。
ため息をついて、歯ブラシとタオルを持って部屋を出た。豪華客船というわけでもないのでアメニティグッズが揃っていないらしく、自前で持ってきた物を使うしかないのだ。
共同の洗面所で歯磨きと洗顔を済ませて、風に当たるために外に出た。
天気がいい。潮風のせいかやや服はベタつく感じはあるが、カラッとしていてそこまで気にならない。
「あ、イツキ」
右を見ればリアがいた。
「出会う度にそれやんの?」
「んー、なんとなくですかね」
「ホント掴みどころがないな、お前は」
「個性と言えば聞こえはいいかと」
「自分で言ってどうすんだよ……」
と、リアが俺の隣にきて海へと顔を向けた。
正直、リアが来てくれたことは嬉しく思う。昨日のことを言おうか言うまいかは迷った。しかし、あんな顔されて黙ってるのもちょっと違う。アルもいないし、リアに直接訊くのがいいかもしれない。
「お前ら、ただの有給消化なのか?」
「それはどういう意味で言ってるんですか?」
「実は警察関係の仕事だったりとかすんのかな、と思ってな」
「どうしてそう思ったの?」
「そりゃ、アルのあんな張り詰めたような顔見てたらな」
「よく見てるんですね」
「誰だってわかるだろ、それくらい」
「アルはあれでもポーカーフェイスが上手いんですよ。仮に上司であっても、アルが張り詰めていることに気がつくまで数日はかかるかもしれません」
「いや、でも結構露骨だったと思うんだが……」
「思考や感情とは、漏らしたくないと思う相手ほどよく伝わってしまうもの。それは「隠そう」とする気持ちがより強くなるからです。大事な物を金庫に入れる。これは理解できるし、その中にあるものが重要、貴重であることが伺えます。しかしその金庫をワイヤーで何重にもくくり、強固な檻の中へ入れ、更に鉄の扉の部屋に置いたとしましょう。それがどれだけ貴重か、イツキにはわかりますか?」
「それが何かはわからないけど、そこまでするだけ重要だってことなのはよくわかるよ。そうだな、ただの金品だとかそのレベルじゃないと思う」
「そういうことです。隠そうと努力すればするほど、逆に「なにかを隠したがっている」というのがバレてしまう。先程も言いましたが、小さな金庫だけならば隠していることに気が付かない人もいるでしょう。しかしそれが檻になり、部屋になり、家になったのなら、たくさんの人が「貴重な金庫を家一軒使ってまで隠したがっている」とわかるでしょう」
「なる、ほど?」
「理解できませんか。それはまあ、いいでしょう」
「残念なものを見るような目で見るなよ」
「ような、ではなく残念なものを見てるんですよ」
「なんか前より辛辣じゃない?」
「イツキという人間に順応したんでしょう。くだらない話も大事な話も、おそらくアナタにならば話せると思う」
「話相手にならいつでもなるぞ。そういうの嫌いじゃないしな。あー、でもちょっと待て。答えを俺に求めるのだけはやめてくれよな。最終的にその答えを出すのはそいつだから」
「そこまではしませんよ。だって、優柔不断すぎて頼りになりませんから」
リアがこちらを見た。微笑み、どこか楽しそうだった。
アルもそうだが、この姉妹はやはり可愛いと思う。キリッとした表情も当然いいのだが、笑っていた方が少女らしくて魅力的だ。
「そういやアルは一緒じゃないんだな」
「あの子は寝起きが悪いので放置です。だからここに来た、と言ってもいいかもしれません」
「そりゃどういう意味だ」
今度は真剣な面持ち。ああ、これから妙なことに足を突っ込もうとしてるんだな、というのがよく伝わってくる。
「アナタにお願いがあって来たのです」
「俺にできることなら聞いてもいいけど」
「できるかどうかは、正直私にもわかりません。アナタ、まだ私たちよりもレベルが低いですよね」
「よくわかったな。まだレベル100にも到達できてない」
「だからちょっと不安です。が、アナタならばなんとかしてくれるかもしれない、という期待がある。だからこそのお願いです」
「よくわからんが、とりあえず聞くだけ聞いておこう」
「アナタが言った通り、私たちはある犯罪者を追ってトラミアに向かっています。しかしそれは仕事ではない。私怨、というやつです」
前に二人が言っていた。実は三つ子で、真ん中の姉妹は殺されたと。そしてその犯人を探すために警察になったのだと。
「それってもしかして……」
「察しの通り、私たちの姉妹を殺した男を追っています。その情報が先日届けられ、私たちは同僚にも黙って、有給消化の名の下にここまでやってきました」
「じゃあそいつを捕まえられるかもしれないわけだ」
ホッと胸を撫で下ろす。




