一話
いつものように目を覚ます。木製の天井。異世界側に帰ってきたか。
身体を起こして周囲を見渡す。手足の具合を確認。目は、どうやら治ってないらしい。
ライセンスを見てみると、レベルは86まで上昇していた。たぶん、アドルフとかと戦ったのもあるんだろう。
着替えを済ませて背伸びを一つ。二回目だけど、決勝だなんて緊張するな。
部屋に誰かが入ってきた。フレイアだ。まあそうだろうなとは思ってたけど。
「おはようイツキ。気分はどう?」
「悪くない。目はそのままだけど」
「いけそう?」
「ああ、今回は負けない」
そう、今回は負けるつもりはない。ルイの動きもなんとなく把握できている。前回の動きをふまえれば勝てるはずだ。
「行こう。次は絶対勝つ」
待ってろよ双葉、すぐに戻してやるからな。
闘技場は大賑わいだ。控室にいても歓声が聞こえてくる。
前回みたいに、俺はフレイアの手は借りない。俺が負けたら殺してくれなんて、今回は言ってなるものか。
係員の女性が入ってきた。
俺は小さく深呼吸しながら、前回のルイの動きを脳内で反芻していた。
「もうすぐ試合ですが、大丈夫ですか?」
係員の女性に話しかけられた。
「はい、大丈夫です」
「それでは会場へどうぞ。ご武運を」
「ありがとう」
控室を出て、廊下を歩いていく。大丈夫だ、大丈夫だと自分に言い聞かせ続けた。俺の中にはアドルフやルージュの動きも入っている。肝心なのは善戦することじゃない。隙を見逃さず、一気に畳み掛けることだ。
入り口で立ち止まることはしなかった。流れるように、闘技場の広場へと足を踏み入れた。
身体を震わせるような歓声は、やはり怒号のように響いていた。
中央では、ルイがすでに待っていた。
前に立ち、にらみつける。
「そんな怖い顔しないでよ。約束はちゃんと守るからさ」
「そうじゃなきゃここまで来た意味がないんだよ」
「確かに。その点だけは信頼してくれていいよ」
「約束破ったら、わかってんだろうな」
「怖い怖い。そんなことにならないようにするよ」
「軽口ばっかり叩きやがって。後悔させてやるからな」
「楽しみにしてるよ」
ルイがニコリと、嫌味に笑った。
『それではこれで最後です!』
アイツの動きは早く、今の俺では完全に捉えることは不可能だ。だが速い代わりに防御面が薄い。それはルージュやメリルと同じだろう。だから前回も、開始と同時に一発くれてきたんだ。
『決勝戦! 始め!』
緊張はない。重心を落とすよりも早く、左手を手刀のようにして前に出す。
突っ込んできたルイの攻撃を左へといなしつつ腰を曲げ、身体をやや後方へと退避させた。
前回は戦闘態勢に入る前に一発もらってしまった。それなら、戦闘態勢に入るのと相手の攻撃を避けるのを一度に行えれば解決するはずだ。この動きはルージュとメリルからもらった。特に二人は防御面が弱いから、回避に重点を置いて戦うタイプだ。基本的に回避や防御は彼女たちから教わったことが多い。
ちゃんと見ておいてよかったと、そう思える。
「へえ、やるじゃん」
頭に血がのぼる。しかしここで無理に踏み込むのは危険だ。いいぞ、ちゃんと自分を制御できてる。
次は背後に回って攻撃してくるはず。
身体を反転させて、突き出された拳を右手で払う。ルイは驚いたような顔をするが、一瞬で元のニヤケ顔に戻っていた。
払う、避けるというのはルージュから学んだ部分が大きい。宿屋ではフレイアやアドルフの攻撃をルージュが避ける姿を見せてもらった。それをレプリカモーションでコピーさせてもらったのだ。
トン、トン、トンと、場内を駆ける足音が聞こえている。走るというよりは飛んでいるというのが正しいかもしれない。
身のこなしは軽く、素早く、的確だ。読みも鋭いし、こちらが裏をかこうと思っても、アイツにとっての本命の攻撃とぶち当たる可能性だって十分ありうる。
でもそれこそが弱さなんだって、アイツはたぶん気付いてない。今までそれで上手くいってきた。才能があって、問題なくやれてきた。そういうやつは、自分が持ってる性能の落とし穴を知らない。
その落とし穴をつくるために必要なのは「適度に攻撃をもらうこと」だ。
ルイに「死角からの攻撃に成功した」と思わせるのが大切なのだ。
次の右側部からの攻撃、背後からの攻撃はわざと食らうようにした。と言っても反応するのもギリギリだったし、ここは無理に防御や回避をするよりいいだろう。
「ボクの動きには慣れてきたかな?」
「さあ、どうだろうな」
「じゃあもうちょっとギア上げてくね」
前回と同じやりとり。そう、これでいい。
ルイの動きが更に早くなってきた。ここからはもっと厳しくなる。厳しくなるけど、チャンスも増える。
当たっても平気そうな攻撃は甘んじて受け入れる。顎、鼻、コメカミ、肝臓、心臓などを狙った攻撃は極力もらわないように立ち回った。顔への攻撃は額で受ければいい。ボディへの攻撃は腕と脚でカバーする。腕や脚ならば、防御する際に自分で筋肉に力を入れられる。肝臓への攻撃は内側にじわじわ来るし、胸板があまり厚くないせいで心臓への攻撃も結構面倒だ。
「なかなかやるじゃないか」
ルイの声が背後から聞こえてきた。おそらく、この辺がチャンスになる。
背後から声をかけてきて、そのまま直接攻撃してくるようなやつじゃない。
俺が利き手利き足が右なのはルイもわかってるはずだ。それなら咄嗟に振り返る時、右足を軸にして右側に回る。だからルイは、左側に回り込んで、更に背後から攻撃してくるはずなんだ。
「こっちだよ」
「知ってるよ」
今度はこっちが笑う番だ。




