最終話
二人との思い出が蘇ってきた。
優しいじゅんちゃん。面倒見が良くて、いつも俺たちと遊んでくれた。スポーツも勉強も教えてくれた。
優帆はいつも傍にいた。ちょっと気難しいヤツだけど、根はすごくいいヤツだった。料理が得意で、昔から試作品を食わされた。でも美味かった。小学校の頃は泣き虫だった。そんな優帆を守ってたのが俺だ。
そういや、保育園の頃に約束したっけな。
『わたしがイツキのおよめさんになるの!』
『ぼくもユウホとケッコンする!』
接する時間が減って忘れてた。時間が減っただけで、俺と優帆の関係性が完全に壊れたわけじゃなかった。
信じてみたい。俺の頭の片隅に、いつも優帆がいたように。優帆の頭の中にも、常に俺がいたんだって。
「なにを迷ってたんだ、俺は」
いつもいつもフレイア頼みで、いつもいつも他人に任せてきた。
でもそれは俺の願いじゃないか。俺が、戻ってやり直したいだけじゃないか。どうして他人に頼るんだ。俺の願いなら、俺が動かなくてどうするんだ。
「さあ、仕上げと参りましょう。殺せ」
じゅんちゃんがこちらを向いた。死んだであろう優帆の身体が宙に投げ出された。べちゃりと地面に落ちると、胸がカーっと熱くなった。
「もう迷わねえよ。俺が、俺の意思で、やり直すことを選ぶんだ」
「一体なにを言ってるんでしょうね」
「お前がわかる必要なんてないんだよ。でもな、次は覚えとけよ。覚悟しとけよ。俺は、お前を、許さないからな!」
踵を返して家の中に戻った。化け物になったじゅんちゃんが俺の後を追ってくる。塀を破壊し、入り口を破壊し、家の中を蹂躙していった。
俺は一直線にキッチンへ。そして、包丁を手にとった。
そういえば双葉はどこに行ったんだ。あんな大きな音がしたんだから、外に出てきてもおかしくはないはずだが……。
いや、今はどうでもいい。
包丁に魔力を集めていく。全力で魔力を込めれば、その切れ味も相当なものになるはずだ。これで首をぶった切れば、ためらい傷のようなことになることもないだろう。
「イツ、キ」
じゅんちゃんにはまだ意識があるのだろうか。でもアイツの言うことを聞いているっていうことは、薬による影響と理性がせめぎ合っている状況なのかもしれない。
包丁を首に当てる。
「これは俺だけの問題じゃない。でも、俺の行動一つで変えられるものがあるんだ」
ぐっと力を込める。怖い。自殺をするヤツってのは、こんな恐怖を感じているんだな。こんな立場になって、そんなことを考えていた。
「もう、誰かに擦り付けるマネはしないって決めた。俺の未来は、俺が決めるんだ!」
死んだ優帆の顔を見たくないと思ったけど、今は見ておけばよかったと思っている。きっとすごい顔だったんだろうな。そんな顔を、させちまったんだよな。
もう二度と、そんな顔はさせないから。
俺はお前を守るよ。お前だけじゃない。お前も、じゅんちゃんも、もちろん双葉も。それには俺の意思で選択権を得る必要があるんだ。
じゃあな、次は必ず――。
思いっきり、包丁を横に滑らせた。
思った以上にすんなりと包丁が移動した。包丁が入った瞬間は当然痛いのだけれど、包丁が完全に通りすぎてしまうとその感覚もよくわからなくなった。
ぐるりと景色が回る。
自分の身体が見える。
床が頭の方にある。
誰かが俺の頭を抱きかかえたような、そんな感じがした。
しかし、俺が理解できたのはそこまでだった。
瞼が落ちて、意識も落ちる。ようやくできたんだという、妙な達成感で胸がいっぱいだった。
【to the next [actuality point]】




