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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 4〉 Truth Traces
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九話

 六つほど包んでもらい、いざ芦原家へ。


 チャイムを鳴らして二分。ようやくじゅんちゃんが出てきた。


「なんだよ、イツキ」


 昨日もそうだったがとても機嫌が悪そうだ。顔色もやはりよくない。こんなに目つきが悪かったっけなと、そんなふうに考えてしまうくらいには変わってしまった。


 だが、ここまで来て背を向けることなんてできるわけがない。


 つばを飲み込んで、口を開く。


「じゅんちゃん、話があるんだ」


 じゅんちゃんの眉間に深いシワが刻まれる。


「俺にはない」


 勢いよく閉じられようとするドアを、咄嗟に左手で掴んで止めた。


「優帆はここ最近ずっと俺の家にいる。俺のっていうか、双葉の友人としてだけど」

「はあ?」


 そんな気の抜けた返事とは真逆に、俺は胸ぐらを掴まれていた。


 反応できないわけじゃなかった。ただ、あっけに取られてしまったのだ。


「お前、優帆に手ぇ出してねぇだろうな」

「んなこと、俺ができると思う?」


 視線が交わる。ライセンスを持っている今なら、この手を解くことなんて簡単だ。組み伏せるのも、ぶん殴るのだってわけない。でもそれじゃあなにも解決しないんだ。


「――入れよ」


 掴んだ手を離し、ドアを開けたまま、じゅんちゃんは中に入っていってしまった。


 胸を撫で下ろす。が、俺の目的はこれで終わりではない。


 リビングに行くと、顎で指図された。そこのソファーに座ってろ、ということだろう。


 久しぶりに入った葦原家は、以前とあまり変わっていなかった。家具の位置も、その家具も前と同じ物だ。懐かしくもあり、優帆の家だと考えると気恥ずかしくもある。


 散らかっていないところを見ると、じゅんちゃんが荒れているという感じではなさそうだ。単純に引きこもっているだけと考えるのが自然か。


 じゅんちゃんがキッチンに向かい、数分後に戻ってきた。両手にはコーヒーカップを持っていた。


 テーブルに置かれたコーヒーにはミルクと砂糖がすでに入っているみたいだ。口に含むと、ほどよい苦味と、その中にちょっとだけ甘さがあった。


「文句は言うなよ。招いてないわけだしな」


 反対のソファーに座り、じゅんちゃんがそう言った。


「文句なんか言わないさ。あ、これおみやげ」

「そこまで気を使わなくてもいい」

「それでもさ、一応ってことで。後で食べてよ」

「すまないな、ありがたくもらっておくよ。で、話ってなんだよ」


 じゅんちゃんもコーヒーを一口飲んだ。カップがテーブルに置かれるのを待ってから返事をした。


「わかってるんだろ?」

「まあ、だいたいは」

「だったら話は早い。たぶんだけど、優帆がうちに来てるのはじゅんちゃんと顔を合わせたくないからだ」

「ああ、だろうな。でもな、俺だってただ家に帰ってきたわけじゃないんだ。優帆には悪いことをしてるとは思うけどな。急に帰ってきて、こんな辛気臭い空気にされたんじゃたまったもんじゃないだろうよ」

「じゅんちゃん、仕事は?」

「辞めた。というか、辞めるしかなくなった」

「えっと、言いたくないなら無理しなくてもいいよ?」

「ここまで来といて言うセリフじゃないと思うが?」

「それも、そうか」

「聞いてけよ。両親もいなくて、しゃべる相手がいないんだ」


 そこで始めて、笑顔を見た気がする。


「俺が勤めてた会社が不祥事を起こして、規模が縮小したんだ。それだけなら問題なかった。というか、まだ仕事としては成り立っていたんだ。でもそれを吸収した会社があった」

「じゅんちゃんの就職先って、確かシズサワ製薬だったっけ」


 内定した時に聞いた。嬉しそうに話してくれたじゅんちゃんの顔を今でも覚えている。


「ああそうだ。でもただ吸収したわけじゃない。そもそもシズサワ製薬の不祥事も、そいつらが仕組んだことだった。うちで製造した薬に必要以上の成分が入っていたらしいが、絶対にそんなことはない。なによりも俺はあいつらがうちの工場に来てなにかしてるのを見たんだ」

「じゃあそれを言えば良かったんじゃ?」

「言ったさ。でもお得意さん、大企業だ。見学に来ただけだと言われたら、もうそれ以上の言葉なんて出てこない。噛み付けばどんな報復が待っているかわからない。そうやって、煙に巻かれた」

「もしかして、株価を無理矢理落として吸収しやすくしたのか」

「そういうことだ。お蔭で俺はその会社に出向、と言うなの左遷だ」

「仕事がきつかったの?」

「ああ、とんでもなくきつかったよ。製造ラインに入りながら製品管理をして、薬品の成分の組み換えまでやらされた。でも一番きつかったのはそんなことじゃないんだよ。俺以外の人間は、みんなそれをこなしてたんだ。できなかったのは俺だけで、仕事の遅れは全部俺のせいになる。でも遅れたのはお前のせいだなんて言わないんだ。後ろを通る時に舌打ちする。無視されて、まるでいない者かのように扱われるんだ。さすがに、耐えられなかった」

「それで仕事を辞めた、と」

「だいたいそんなとこだ。目の上のたんこぶだったんだろうな。俺が目撃者だってのを知っててやったんだ」


 テーブルの上の拳を、力いっぱい握りしめていた。


「でも、それで優帆に迷惑かけたのは悪いと思ってるよ」


 そういうじゅんちゃんの顔は、俺がよく知っている「お兄ちゃん」の顔だった。


「俺とだけじゃなくてさ、優帆ともちゃんと話してみてくれよ。アイツだってバカじゃない。じゅんちゃんのこともいろいろ考えてくれるはずだ。それは、俺よりもじゅんちゃんの方がよくわかってるんじゃないのか?」

「確かにそうかもな。前、ちゃんと見てなかったかもしれない」


 こうあっさりといくとは俺も思ってなかった。でも相手が相手だから、すんなりとことが運んでくれたのと思う。


 しかし、ここでまだ一つの疑問が解けていない。俺には関係ないことかもしれないが、疑問のままにしておくのは少し具合が悪い。


 なによりも、嫌な予感がした。


「蒸し返すようで悪いけど、シズサワを吸収した会社ってどこなの?」

「シズサワはそこそこ大きめの会社だぞ? それを短期間で吸収まで持っていかれる企業なんてそうそうないだろ」

「それって、もしかして……」

「想像通り。ミカド製薬だよ」

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