八話
次の日の朝、起きてスマフォを見ると双葉からメッセージが入っていた。どうやら今日は優帆とどこかにでかけてくるようだ。何時に帰ってくるかはまだわからないらしい。ただの遊びというよりは、双葉は双葉なりに優帆を守っているのかもしれない。
でもそれなら都合がいい。優帆がいないのであれば、じゅんちゃんと話す時間も取れるというものだ。
だが、優帆の家に行くにしても少し時間が早い。さすがに八時過ぎに乗り込むのはどうかと思う。なによりもじゅんちゃんのあの格好だ、おそらくお昼すぎにならないと起きて来ないような気がする。
ゆっくり着替えて階下にいけば、いつもどおりに朝食が用意されていた。トーストとコーヒーとサラダとヨーグルト。朝はこれくらい軽めでちょうどいい。
「あ、それ私の分もある?」
そんな声に、咄嗟に後ろを振り返る。
「どしたの、そんな怖い顔して」
疑問符が頭に浮かびそうな、そんな顔で首をかしげるフレイアがいた。服が薄汚れているわけでもなく、どこがに怪我を負っているわけでもない。特になにごともなく帰って来たみたいでなによりだ。
いや、そうじゃないだろう。
「おま、帰ってくるなら連絡くらい入れたらどうなんだよ」
「いや、実は帰ってきてたんだよね。ベランダで寝てた」
「なぜ入って来なかったのか……」
「閉まってたんだもん、仕方ないじゃん。私が帰ってくることも想定して開けておいてよね」
「んな無茶苦茶な。連絡してくれれば開けといたけども」
「それくらい感じて欲しい」
「無理難題を押し付けんなって。それより腹減ってんのか?」
「結構減ってるかな。途中でおにぎりとか買って食べたけど少しだったから」
「それなら昨日の残りがあるぞ。温めて来ようか?」
「勝手にやっていいなら勝手に温めて勝手によそうけど」
「じゃあそうしてくれ」
「ちょっと面倒になってるなー? ま、いいけどね」
そう言いながら微笑み、キッチンに入っていった。
俺はイスに座って朝食をとることにした。フレイアの動きを目で追いながら、トーストにいちごジャムを塗っていった。
フレイアは冷蔵庫から肉じゃがやきんぴら、タッパーに入ったご飯なんかを取り出し、温められるものはレンジを使って温めていた。
「なあフレイア」
「んー? なにー?」
「俺――」
そこで、言葉を止めた。なんとなく、言わない方がいいような気がしたからだ。
「あーっと、今日の予定はどうなってるんだ?」
「特に予定はないかな。今調べられることは一通り調べ終わったしね」
ダイニングに来ておかずを並べ、最後にご飯と味噌汁を持ってきた。俺の向かい側に座り「いただきます」と言って食べ始めた。
「やっぱりフタバちゃんのご飯は美味しいなぁ、毎日でも食べたいくらい」
「自慢の妹だからな。ってそうじゃない。今日は俺に予定があるから、そっちはそっちでテキトーに過ごしててくれ」
「なに、デートでもするの?」
「誰とするんだよ。相手がいねーよ」
「ユウホちゃんとか?」
「なんでアイツとデートせにゃならんのだ。良くて荷物持ち、アイツにとって俺は男としての扱いじゃないんだよ」
「そんなふうにも見えないんだけどなぁ」
「もうアイツのことはいいから。予定っつーのは優帆の兄貴のこと。憶測でしかないけど、ここずっと優帆がうちに泊まりに来てるのはその兄貴のせいじゃないかって思ってな」
「なんだかんだ言って心配してるんだ?」
「一応幼なじみだしな。それに、このまま家にいられても困る。いつどんなやつが攻めて来るかもわからないし。こっちから行動を起こそうと思っても、アイツがいたら動きづらい」
「じゃあそういうことにしておきましょう」
「そういうことなんだってば」
こうしている間も、彼女はニコニコしながら食事をしていた。年齢的には変わらないはずなのだが、なんかいつもマウント取られてる気がしてならない。
朝食を終えて食器を流し台へ。さっと後片付けを済ませてから一度自室に戻った。一応、財布と鍵をポケットに突っ込んだ。
まだ食事を続けるフレイアにいくつか注意をしてから家を出た。注意というのは他でもない、フレイアがこの家にいることを悟られないようにするためのお約束だ。
人が来ても反応しないとか、電話が来ても出ないとかそんな感じ。
「冷蔵庫にプリンが入ってたんだけど食べていい?」
「ああいいよ、たぶん俺のだ」
「キッチンにあった甘食は?」
「たぶん双葉のだろ。新しいの買ってくるからいいよ」
「冷凍庫のアイスは?」
「お前あれ業務用のデカさだぞ、全部食う気かよ」
「余裕だけど?」
「そういうドヤ顔はいらないんだよ。まあ、三分の一くらいだったらいいよ。でもあんまり食いすぎるなよ。絶対腹壊すから」
「はーい」
「んじゃ行ってくるわ」
「いつ頃帰ってくる?」
「んー、わからんな。俺も家を出てすぐに優帆の家に行くわけじゃないからなんとも。昼過ぎには帰ってきたいところだけどな」
「じゃあお昼ごはんは私が作ってあげよう。冷蔵庫にあるものでなんとなくなにかができそうな気がする」
「やべー生物とか錬成しなきゃ食べる。でもお昼すぎに帰ってくる保証もないけど」
「いいよ、待ってる」
「ん、わかった」
こうやってると恋人みたいだな。
フレイアが恋人、か。絶対毎日楽しいんだろうな
なんて思いながらも家を出た。
優帆の家に行くとしたら、最低でも十時以降がいいだろう。本当は昼前後がいいんだが、それだと双葉や優帆が帰ってくる可能性がある。何時に帰ってくるのかわからないというのは怖いな。
しかしあの二人のことだ。いつもどおりなら最低でも昼食くらいは食べてくるだろう。
俺は一度商店街へ行き、なんか手土産になりそうなものを探した。できれば食べ物がいい。
商店街では、ちょうどご当地名物展のような催しをやっていた。と言っても元々人がいたくさんいるような地域じゃないので、人がまばらなのは仕方ない。
と、良さそうなものが目についた。いきなり団子、というやつだ。じゅんちゃんはさつまいもが好きだったはずなので、このチョイスは間違いないだろう。




