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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 4〉 Truth Traces
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六話

 優帆と食事をして、ゲームをして、風呂上がりに遭遇して。そんな日常が、最近となっては定番となってしまった。


 いくら優帆とはいえ、風呂上がりに横に座られると「いい匂いだな」なんて考えてしまう。いや、シャップーとかは一緒のはずなんだけど。


「おやすみ、お兄ちゃん」

「ああ、おやすみ」


 にこやかに、双葉が自室に入っていった。


「部屋に入ってこないでよね」

「入らねーよ」


 なんていいながら、優帆が双葉の部屋に入っていく。が、頭だけ戻ってきた。


「おやすみ、イツキ」


 理由はよくわからないが、優帆は満面の笑みを浮かべていた。


「おやすみ、夜更かしすんなよ」

「わかってるよーだ」


 二人が部屋に入ったのを確認してから俺も自室に入った。


 こちらもいつもどおりと言っていいのか、ベッドの上で漫画を読むフレイア。うつ伏せのまま漫画を読み、足をパタパタと動かしている。その仕草が妙に可愛らしく、けれどフレイアらしい仕草に思えた。


「二人とも寝ちゃった?」

「まだ寝てないとは思うけど、しばらくしたら静かになると思う」

「寝付きいいもんね、二人共」

「俺も寝るぞ。明日はさすがに学校に行かないと」

「隣どうぞー」

「どうぞじゃなくて」

「私の隣はお気に召さないと?」

「そういうわけじゃないけど、お前まだ寝る気ないだろ」

「そりゃまあね。もうちょっとしたら出ようと思ってるし」

「出るってどこに?」

「そりゃミカド製薬についての情報収集のために。まだ調査不足だしね。このままミカド製薬について調査を進めていけば、そのうち侵入する方法も見つかるだろうしね」


 漫画を読み終わったのか、ベッドから降りて本を片付けるフレイア。しかし、ベッドには戻らずにドアにより掛かる。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「なんだよ改まって」


 いつものような和やかな雰囲気も、いつものような笑顔もない。問い詰めるような、冷たい眼光だけが印象的だった。


「ちゃんと答えてもらえる?」

「あ、ああ。答えるよ」

「じゃあいくつか質問する。向こうの世界でアナタはルイに負けた。結果として私はアナタを殺し、こちらの世界に帰ってきた」

「そうじゃなきゃここにはいないだろ」

「でもルイに負けたことに関して、まだ話してないことがあるよね?」

「なにを話してないっていうんだよ。俺はルイに負けた。双葉が殺されてからじゃ面倒が大きくなる。その前にお前に殺してもらったんだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「嘘」

「なにが嘘だってんだよ。俺だって死にたいわけじゃない。全力で戦ったに決まってんだろ」


 一層、眼光が鋭くなった。


「じゃあなんで特訓の成果を出さなかったの? 前日は寝るまでずっとみんな付き合ってくれたのに。レプリカモーションでアウトプットするための、様々な戦闘用動作を叩き込むために」

「いや、それは使うタイミングが掴めなくて……」


 今まで突っ込まれなかったから、フレイアも忘れているものだと思っていた。でも違った。フレイアはずっと考えていたんだ。俺がなぜあの時レプリカモーションを使わなかったのか。そしてその答えを出した。


「タイミングなんてあってないようなものでしょ? だって回避も防御も攻撃も、私たち全員でアナタに仕込んだんだから。たとえ回避の一瞬であっても使うことはできたはず。でもイツキは使わなかった。あれはそう、わざと負けたようにしか、私には見えなかった」


 彼女は顔を背けるような真似をしなかった。それほどまでに自分の回答に自信があるのか、それとも別の意図が隠れているのか……。


 しかし、これ以上は繕いきれない。


「正直、勝てないと思った」


 仕方ない。俺がなぜレプリカモーションを使わなかったのか、言う他に道はなさそうだ。


「試合が始まってすぐ、俺はアイツに勝てないと思った。なんかよくわかんないけど、そう感じたんだ。レベルとかそういうのもあるんだろう。ただ今のままじゃダメだって思ったんだ。いや違うな、直感した」

「だから使わなかった。抗おうともしなかった」

「レプリカモーションのことは考えないようにしてた。アイツの動きを見たかったんだ」

「見たかった?」

「次戦う時のために、アイツの動きをコピーしたかった。そしたら、もう気付いたら崖っぷちだったんだよ。負けたかったわけじゃないけど、もう身体は動かなくて、フレイアの名前を叫ぶしかなかった」

「そういう、ことね」


 フレイアはため息をつき、けれど眼光は鋭いままだった。


「そういう事情があったのなら、少しだけど同情してあげる。でも覚えておいて欲しいことが一つだけある」

「なんだ」

「死に戻りという能力が、完璧で、万能であるという保証はない。なにがあっても死を選ぶようなことはしないで。腕一本失っても、目の前にある未来は諦めてはいけない。藻掻き苦しむことは、生にしがみつくという行為に直結するから」

 

 どこか、悲しそうな顔だった。


 元々目つきが鋭く、睨まれると尻込みしてしまうような威圧感がある。それでも物悲しそうで、他にもなにか言いたいことがあるんじゃないかと勘ぐりたくなる。


 痛々しく、小さな少女を連想させるような、そんな目だった。


「それじゃあ私は行くわ。心配はしなくていい。なんとかなるはずだから」


 静かに、彼女はベランダから出ていった。


 いってらっしゃいとか、気をつけてとか、俺は何一つとして声をかけることができなかった。それはフレイアの気迫に押されたからなのか、それとも彼女の瞳に感傷を抱いたからなのか。


 それは、俺自身にもよくわからなかった。


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