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しばらくの間歩いてみたものの景色は一向に変わらない。
いや、行けば行くほど陰鬱としているような気がした。おまけにアリスの進行方向ではカラスが数羽、何かの死骸をついばんでいる。
アリスはうええと気分悪そうに表情を歪ませたが、歩みを止めずカラスを蹴散らしながら進んでいく。
少し進んで地面に何かが転がっているのに気が付く。
ネズミの死骸だ。先ほどカラスが食べていたのもネズミだったのだろうか。
よくよく見ると行く先にネズミの死骸が点々と転がっている。
気分が悪い。行く道を変えよう。
アリスが進行方向を変えようとしたそのとき、少年と少女がこちらに向かって歩いてくるのが見え、アリスは動きを止めた。
「大丈夫だよ。ちゃんと家に帰れるから、ね?」
柔らかい笑みを浮かべ白髪の少年は優しく声をかけるが、長い黒髪の少女はゆるゆると首を振った。
兄と妹なのだろうか。二人は迷子のようで妹の方はぐずぐずと泣いている。
「だって、帰っ、ても、お母さんに、また、森に・・・・・・っ」
「大丈夫だよ! その時はまた帰ればいいんだから! 今回は道しるべも工夫したしね!」
ネズミの死骸なら小鳥は食べないでしょ! と少年は胸を張った。
恐ろしい道しるべもあったものだ。
と考えてアリスは、はたと思った。
つまりはカラスが啄んでいるものが道しるべだったのだ。そして少年たちは向こうからやってきた。ということはこの森から抜けるには自分が来た方向に向かうべきだったのか。
判断を誤った。アリスは溜息を吐いた。
「あ、こんにちは」
いつの間にかアリスの目の前まで来ていた少年はにっこりと笑って挨拶をした。少女の方は警戒しているのか少年の腕にしがみつく。
アリスは戸惑ったもののとりあえず挨拶を返した。
少年と少女はどうやらアリスよりも幼いようだった。
「あぁぁぁ!?」
突然少年が声を上げる。死骸を啄むカラスに気づき唖然としている。
少女は怖いのか少年に絡めた腕にきゅっと力を込める。
「……だ、大丈夫だよ。また、なんとかなるからいやもうなんとかするからとりあえず腕離して痛い痛い痛いからああああ!」
少年はギリギリと腕を締め上げている少女に痛みを訴えたが、少女は一向に離れる気を見せなかった。
その様子からアリスは少女が意図してやっているのだということに気づき、二人の力関係が見えたような気がした。
少年はなんとか少女を引き離し、痛む腕をさする。
「いたたた……。ところで、お姉さんはどこにいくんですか?」
脈絡なく話をふられアリスは少し戸惑いながら答える。
「森の外に出たいの」
「わお!じゃあ目的地は一緒ですね!僕ら案内するので一緒に行きませんか?」
屈託のない笑顔で手を叩き名案だという少年。
しかしアリスは首を傾げる。道しるべがなくなった以上彼らもまた迷子ではないのだろうか。
それを少年に行っても彼はただ笑顔で大丈夫、何とかなりますというばかり。
有無を言わせぬ少年の強引さに押し切られてアリスは彼らと同行することをしぶしぶ承諾した。
「僕はヘンゼルっていうんだ。この子は妹のグレーテル」
「アリスよ」
「よろしくね!アリスお姉さん!」
自己紹介の後握手を一つ交わして、三人は歩き出した。




