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【ヘンゼルとグレーテル】
気が付けば少女は森の中にいた。
見覚えのないこの場所。
鬱蒼と生い茂る草木のせいなのか、時折カラスの鳴き声が聞こえてくるからなのか、今日の天気は曇りで空がどんよりと暗いせいなのか、あるいはその全てが合わさってこの場の不気味さをより一層引き立てていた。
風が吹いてざわざわと木々が騒ぎ出す。
「ここ、どこ?」
少女の問いに答える者は誰もいない。
少女は腕を組み唸る。
自分がここに来た経緯はなんだったか。
それはほんの30分ほど前の話。少女は自分の家の前で暇を持て余していた。
なにか面白いことはないかとあっちに行ってはこっちに行って、代り映えのない風景に溜息を漏らす。
足元に転がる石ころを蹴飛ばしてエプロンスカートの裾を小さく揺らした。
家に帰ろうかと視線をあげたところで、少女の目の前を時計を持った白うさぎが二足歩行で駆け抜けていった。
少女の表情がみるみるうちに輝きはじめて、一も二もなく少女はうさぎを追いかけた。うさぎが向かった先は少女の家の裏にある雑木林。
うさぎは思ったよりも足が速く、あっという間にその姿を見失ってしまった。
せっかく面白いものをみつけたのに、と頬を膨らませるけれどすぐに違和感を覚えた。辺りを見回す。何か違う。
家の裏の雑木林は少女にとって遊びつくした、文字通り庭のようなもの。どこにどういう木があって、リスの住処とか親鳥が温めていた卵の数とか、少女は全て把握している。
けれど少女はここがどこなのか全くわからなかった。
「裏の林ではないよね……」
林というよりは森に近い。
考えてみたけど分からない。とりあえず歩いてみよう。
少女は歩き出す。赤いリボンで結んだ長い金髪がふわりと揺れた。
少女の名前はアリス=ヴィヨル。
怖いもの知らずの女の子である。
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