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「ヒッ――く、来るなッ!」


 当初三人居たプレイヤーの数は残すところ一人だけだ。

 ここまで伏兵を警戒していたのだが、どうやらそのような事は無いらしい。


「来るなと言われても、な、そちらへ行かねばお前を殺せない」


 歩を緩める事無く、距離を縮めていく。


「あ、あぁ、く、来るな寄るな近付くな! お、お、お、お前にはこのひ、ひひ、人質がが、がみ、見えないのか!」


 人質、勿論見えている。

 だが――


「どうでも良い」


 そう言いつつも人質とされている者へと目を向ける。

 その者は他者に自身の生命を握られ、いつ死んでも可笑しくないこの状況下に置いて尚、落ち着きを保ち、今だ風格と威厳をその身に宿している。


「お前こいつが誰だか知って――」

「知っているさ」

「な、なら何故!」

「言っただろう、そのような事はどうでも良い事なのだ」


 そう、プレイヤーを殺す事に比べたならば実にどうでも良い事だ。

 その者が例え自身の雇い主――この国の王――だとしても。

 

「クソッ! クソッ! お前はおかしい! いかれてる! 普通じゃ無い!」


 普通じゃ無いか――


「はっは! よく言われる」


 後数歩、数歩進めばそれで終わる。

 いや、終わってしまう、か。

 そう思いながらも一歩、また一歩と踏み出した時、事は起こった。

 敵プレイヤーが死を前に逃げ出したのだ。

 それも人質としていた王に、確実な死と言う置き土産を残して。


「クソッ! クソックソッ! このクソ野郎がぁッ!」


 逃げ出すプレイヤーを背に一瞬の沈黙、その後、辺りを悲鳴や絶叫が支配する。

 そんな中、よろめき躓きながらも必死に駆け寄り、縋るようにして王へと泣き付く少女の姿が目に入る。


「おじいさま……! おじいさま……!」


 ……お爺様とは王の事だったか。

 逃げて行くプレイヤーを差し置いて黙祷を捧げる。

 少女に対しても思うところはあるが、今はプレイヤーが先だ。

 そう思いプレイヤーへと目をやると、地表から技能(スキル)に因って飛び立ちその速度を増してより遠くへと逃れようとしている。

 既に手の届く範囲では無くこちらの武器の射程外だ。

 今から追いかけるにしても空を飛んで行く者と地を行く者とではその差が広がるばかりだ。


「仕方無い、やるか」


 いつの間にかその手に握られている大きな剣をプレイヤーへと向ける。

 一度敗れ、剥ぎ取られた者の装備など知れている。

 強化技能(スキル)など必要無い。

 そうして技能(スキル)を発動しようとして、ちらりと目に泣いている少女が映りこむ。

 ……何も今に今、急いで殺す必要は無い。

 今プレイヤーを殺せばあの高さ――落ちたところに人でもいれば事だ。

 何故かそんなどうでも良い他人に対する心配、配慮を持ってして王都から出た所を龍の餌にした。

 

 どうにも満足、はしているがすっきりしない。

 過ぎ去った時間を省みて、ふとそう思った。




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