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「聞けぇい! さっさと傭兵を差し出さねばこいつらの命は無いぞ!」
都の中心に位置する広場から怒声が響き渡る。
「人質諸君! 三十分だ! それまでにお前等の傭兵様とやらが現れなければお前等を一人ずつ殺していく! それが嫌なら必死で助けを――ヤツを――呼ぶんだな!」
その一言を機に広場から助けを求める声が、一人また一人へと伝わって行く。
――三十分――
それは人質である彼らに、彼女らに、王に対しての余命宣告であった。
「あそこ」
少女は指差す。
「ハッハッハ、随分と賑やかだな」
辺りには助けを求める声が止むこと無く叫ばれ続けている。
「お願い――お爺様を助けて」
「お爺様が誰かは知らんが助かると良いな。まぁ、安心しろ。プレイヤーだけは皆殺しだ。案内ご苦労」
朝、自室で寝ていると服を引っ張られ、無視していたら水を掛けられた。
そうして事情を聞いて来て見ればこの盛り上がりようだ。
完全に乗り遅れたな……。
まぁ、良い。
プレイヤー達の前へと踏み出して行く。
その間、少女に対して後ろへと下がっているよう促すが、結局服の裾を掴んだままプレイヤー達の前へと到着してしまった。
朝、水を掛けられた時もそうだが、子供に甘いのも考えようだな。
「傭兵様! 傭兵様が助けに来てくださった!」
そんな声が人質達から上がる。
「あぁ? お前が傭兵様か? クックク……まさか子持ちとはなぁ?」
自身の横に居る少女へと目線が集まる。
「え? あぁ、まぁ、この子……は、えーと、あー、お前等殺す」
「殺すっ……クッ、クックック……これは傑作だ! 殺されるのはお前の方だと言うのに!」
「その通りだ兄弟! 俺達は一度敗れはしたが、人質が居る以上こちらの勝利は揺るがない!」
「ふふっ……卑怯だとお思いでしょう? でもあなたが先にやった事よ。さぁ、まず手始めに私達の装備を返して頂けるかしら?」
人質達へと刃物を突きつけ、それが当然であるかのように要求してくる。
「卑怯……ねぇ。一国にプレイヤー三千人で攻め込むのもどうかと」
「お黙り! アナタはさっさと装備をこちらに渡して殺されれば良いのよ!」
「ククッ、その通り。その時はたーっぷり甚振ってやるぜぇ?」
「お前達、その辺にしておけ。何、心配するな。死体はそのままにして置いてやる」
つまりこう言う事だ。
お前を殺してやるから装備を返せ。
その後は復活するもしないも自由だと――
ヒドイ話だ。
少女が裾を引っ張り、大丈夫かと心配そうな目で見上げてくる。
それに対して大丈夫だと笑顔を浮かべる。
「分かった。装備を返そう」
「ほぅ? 素直じゃないか」
「あぁ、ありがとう。ただ、条件がある」
「いいから早く渡しなさい!」
うるさい女を無視して話を続ける。
「先に武器を返すからそれと引き換えに人質達を解放して欲しい」
「ほう、自身の命より人質の命を優先するか。立派な事だな。だが、ダメだ」
「そうか。では、人質全てでは無く、半分ではどうだ?」
「ふむ……確かに人質はお前の行動を制限すると共に装備を得るための対価として用意した部分もある訳だが……そうだな、いいだろう」
「ありがとう」
「お、おい! いいのか兄弟!」
「心配するな、ただ、こちらにも条件がある」
黙って頷き、先を促す。
「開放する人質はこちらで選ばせてもらう。いいな?」
「あぁ」
そうして言われた通りに武器を三種三本用意し、広場の中央へと置くと離れる。
その間も引っ付いて離れなかった少女へと小声で優しく真剣に話しかける。
「危ないから手を離して。大丈夫、さっき言った通りプレイヤーは皆殺しだ」
少女は渋々と言った感じで泣きそうになりながらも邪魔をしてはいけないと理解したのか手を離してくれた。
いい子だ。
そして武器を進み出てきたプレイヤーの一人が拾い上げ、仲間の方へと反転しこちらへと背を向けた所で全てを開放する。
「なっ――」
敵の仲間の声が届く前に一歩でその距離を無くし、何も知らず、何も分からず、何も理解しない暢気な頭を後ろから鷲掴みにする。
「アホが」
一瞬にして頭は潰れ、体はその場へと力無く倒れて行く。
金色の鎧は真っ赤に染まり、暗き紫のオーラに混じってそのおぞましさを増す。
「おっ、お前! 裏切ったな!」
「何を言っている。武器は返したではないか。一瞬であれな」
笑いながらもう一人の方へと歩き出す。
「こ、この野郎!」
怒りを抑えきれず感情に任せてこちらへと向かって来る。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
両手剣による上段からの振り下ろし。
が、それは寸での所で止まる。
自身と相手との間に突如出現した鎧に因って。
「なッ!」
「命より自分の鎧の方が大切か?」
突然現れた自身の鎧に困惑している男へと手を伸ばし掴む。
「確かにこの鎧を作るのに掛かった時間や労力を考えれば斬れない気持ちも理解できるが――」
一瞬の沈黙。
男が自身の未来を理解し、息を呑む。
「それで命を失っていては世話無いな」
血飛沫。
倒れ行く体。
そうして残りの一人へと目を向け告げる。
この世界はゲームの様な世界だが――
「これは仮想世界では無いのだよ」