5
「あの村です」
槍を背に携えた女が指差す。
王都を出てから丸二日。
長かったような短かったような。
時刻は太陽の位置から推測しておそらく……などと空を見上げてからそんな技術持ち合わせていない事に気付き、帰ったら習得するのも悪くないなと思う。
ぐぅぅー。
不意に腹が鳴る。
もちろん自分ではない。
音の発生源、女へと目を向けると顔を真っ赤にしている。
「飯にするか」
女は大丈夫、気にしないでくださいと言いながらもどうするか悩んだ末に、肯定の意を示した。
そうして鞄へと手を突っ込み、いそいそと敷き布を地面へと広げている。
そんな女に近付き腕を掴む。
「どうかしましたか……?」
不意に腕を掴まれた女は困惑の目をこちらへと向けてくる。
「飯は後だ。それとお前は何でもすると言ったな」
「ぇ、えっと、何でも……はい。で、でも今……ですか?」
「そうだ。では、行って来い」
そう言って挙動不審な女を村目掛けて力任せに投げる。
狙い通りだが……少し強すぎたか?
女は村の家屋をいくつも突き破り、巻き込みながら村の中央へと転がり出るとゆらゆらと立ち上がった。
それを何事かと周囲の建物から続々と出てきた連中が取り囲んで行く。
しばらく眺めていると離れた場所から幾人もの取り巻きを引き連れた者達が現れた。
プレイヤーだ。
それも四名。
話に聞いた限りでは三名だったが、少なくともこの村は占拠されてから一月経っているのだ。
その間にプレイヤーの数が増えていてもおかしくはないだろう。
それに加えてあの女は三名のプレイヤーから命からがら逃げ出したと言っていたがそれも敢えて逃がしたに過ぎないだろう。
三対一で逃げ切れるほど甘くは無い。
それも、交戦した後、勝てないと悟ってからだ。
案の定、距離があるため上手くは聞き取れなかったが、女からどうしてと言った糾弾の言葉が発せられている。
自分の考えが正しいのならおそらく、以前に助けを求めた者が敵に加わっていたのだろう。
助けを求められ、面倒事は御免だとしながらも甘い蜜を吸いたい輩など吐いて捨てるほどいる。
女を泳がせたのは、話を広めさせ、味方になりうるプレイヤーを密かに増やすため。
村を離れる事が出来ない自分達に変わって戦力の拡充をしてもらおうとした訳だ。
実に理に適っている。
それでも圧倒的な戦力で攻められたら終わりだが、村一つのためにそうしようと思うものがどれほどいるか。
そこまで考えて、こっちもそろそろかと技能を開放する。
が、鎧も武器も装備しない。
ただ、自身の周囲に暗い紫のオーラが漂い、纏わりついているだけだ。
そこに自身の後ろから声が掛かる。
「お前……そのオーラは……」
「あぁ、同属だよ」
振り返る事無く答える。
「あぁ、いや、そうだな。済まない、許してくれ」
「構わないさ」
背を向けたまま肩を竦める。
「それで、女を投げ飛ばした時には驚いたが、仲間に加わりに来たって事でいいのか?」
「あぁ。手持ち無沙汰で来るのは悪いと思ったんでな。土産だよ。気に入ってくれたか?」
「それを決めるのはボスだが……正直ああいう土産の渡し方はどうかと思うぞ? 家屋が大分壊れた」
「それは――済まない事をしたな。だが、技能なしでの力――能力値――の強さ、お前の追跡に気付けるだけの技能レベルの高さから有能性は知って貰えたと思うが」
「家屋を壊した事に対する言い訳かな?」
「ははっ、厳しいな。だが、そうとも言う」
「素直なのはいい事だ」
そう言うとお互いに笑い合う。
一頻り笑い合った後、後ろから近付いて来た男に振り返る。
「合格だよ。と、言ってもそれを判断するのはボスなんだがな。まっ、その点は大丈夫さ、ボスが嫌だと言っても俺が何とかしてみせる。俺を信じろ」
そう言って、男は少し早いがよろしくと手を出してくる。
それにこちらも応じ、手を伸ばし――男の頭を掴む。
「え?」
そうして瞬きを一つ。
目を開いた時には頭のない体が地へとドサリと崩れ落ちる所であった。
男の頭を潰した感触に、感動に浸りつつ村へと目を向ける。
まず一人――