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「ただいま」


 玄関の扉を開けると、たった今という風に外へ出ようとしていた黒髪に偶々居合わせたので声を掛ける。


「うむ。良く帰ってきたな。おかえり」

「あぁ――早速で悪いが中身を確認してくれるか?」


 どうやら機嫌は直った様なのでそれならと棺桶を足下へと置き、蓋を開けて事を進める。

 だが、今度はそれがどうやら気に入らなかったらしく、こちらへと近づいてきては腕を組んで非難の目を向けてくる。


「……何だ?」

「脱げ」

「……成程」


 それは突然なものだったが少し考えて、鎧に包まれたこちらが本物かどうかを確認するためのものかと思い至り素直に従う。


「……」


 空いた腹部に拳を打ち付けられた。

 そうして胸倉を掴まれては無理矢理引き寄せられ思いっきり頭突きを見舞われた。


「いっぃいだい……」


 当たり前だ。としゃがみ込んで頭を押さえる黒髪の上に手を置いてはさすってやる。


「何がしたいんだお前は……全く」


 痛いの痛いの飛んでいけー。と、心持ちはそういう気分。

 暫く経って、何とか痛みから自分を持ち直したのかその場からすくっと立ち上がると、棺桶を覗き込んで本物だなと告げた。

 本当に一体全体何がしたいのか分からない。


「……気にするな。発作みたいなものだ」

「……危ない発作だな」

「何と言うか、色々とお前が居ない間に考えてな。それで、帰ってきたお前を見て色々あったんだが――結局こうなった」

「難儀だな」

「……お前、本当に人間か?」

「また唐突だな」

「いや、お前を見ていると、私は人間の体を得てこんな感じになってしまっているのにも関わらず、お前はすごいなと思ってな」

「慣れだ慣れ。お前もそのうちに慣れる」

「そういうものなのか?」

「そういうものだ」


 それで黒髪がまた考え始めたために会話は途切れた。


「考えないのも悪いが考えすぎるのも良くないぞ」


 そう言ってまた棺桶を担いで外へと出る。

 それから適当な場所を見繕って――と言っても前回殺した女を埋めた横だが――シャベルを突き立てる。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ――


「――手伝うぞ」


 掘っている後ろから声が掛かり、無言で鞄から新しいシャベルを取り出しては渡す。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ――


 二人して穴を掘る。


「……そう言えば、どうやって殺したんだ?」


 無言で繰り返す単純作業に飽きたのか、黒髪はその手を止めて問うてくる。

 それに手を止める事無く答える。


「餓死させた」

「……なるほど」

「まだ聞くか?」

「いや、全て理解した」

「話が早いな」

「食べ物が喉を通らぬようにしたのだろう?」

「そうだ」

「それに仲間を利用したと」

「その通りだ」

「クズめ」

「仰るとおりで」

「だが好きだぞ」

「気が合うな」

「にゃははっ」


 黒髪はその場で景気よく笑う。


「――決めた!」


 相変わらず急で、本当に脈略というものがまるでないが、聞いてくれと言わんばかりの熱い視線がこちらへと送られているので仕方なしにと手を止め、聞き返す。


「どうした?」

「私はお前を駒にはしない」


 どうやら何か一つ言う事を聞くという件についてらしい。

 それにつけても駒にならないで良いとは幸運だ。


「何故なら私はお前と対等でありたいと思うからだ」

「良く分からないが、それがお前のたった一つの願いと言うのならそうしよう……って」


 相変わらず物事と言うものは自身の思い通りに進まないというか間が悪いと言うか――


 黒髪を背に隠し、鎧とオーラと権限(コード)をいつも通り発動して行く。


 自身の見据える先――目の前には黒い靄のような空間が広がり、少しずつ、不安定ながらもその全長を大きくしている。

 そして――そこから純白の鎧を纏った腕が現れて――黒髪をその空間に投げ込んだ。


 ……上手く行ったかどうかは分からないが黒い靄は自身を残して消えた。

 技能(スキル)の反応では間違いなかったが、今になって心配になってくる。

 そもそも人間が通っても問題無いものだったのか。同種の別人ではなかったか。実は魔術師の仕業ではなかったのか。

 考えてもきりがない。

 その様な事よりも、まずは、一人残った自分が出来ること、やるべきことをやるに限る。

 黒髪は怒るだろうが――エルフと黒髪が邪魔で見送っていたが――それ以外に方法は無い。


 最悪相打ち――根競べと行こうか。


 そうして消した。


 大地を、星を、人が住む世界を――


 これからどうなるのか分からないが、自分は他二人が死ぬまで自身の時間を戻し続けるだけだ。

 何、恐れる事はない。


 死は既に経験済み――そうだろう?




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