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「なぁ」
「……」
「暇だ」
「…………」
室内ながら日向に当たる場所。
窓辺に吊るされた寝床に声が飛ぶ。
「もう本は飽きた」
「……」
「なぁ」
「……」
「おい」
言って強引に床へと落とされた。
しかしこの程度で自身の寝るという姿勢を崩したりはしない。
そのまま床で目を瞑ったまま睡眠を続行する。
「ふんっ、そっちがそういう態度ならこっちにも考えがある」
そこでむくっと起き上がる。
面倒事はごめんだ。
「何だ」
「……最後までやらせてくれもいいじゃないか。折角面白い事を思いついたのに」
「やらなくていい。……何だ。オセロでもするか」
「ふふん、初めからそうしていれば良かったのだ。そうだな――負けたら風呂掃除でどうだ?」
「分かった」
「ははははっ、トランプならまだしもオセロで私と勝負して勝てるかな?」
「それ、負ける奴が言う台詞だぞ」
立ち上がり、鞄から盤面を引っ張り出して机の上に広げていく。
最近はずっとこの様な調子だ。
と言うのも自身が一度死んだ事に因って低下したあれこれを取り戻すまではとりあえずじっとしておこうとの事になったからだ。
実際、それなりの期間が経過しているが、今だに復調の兆しは見られない。
そもそもその時が来れば一気に戻るのであって、それは元々無いのだが――目の前の者は酷く退屈している様子だ。
お互い向かい合って椅子へと座り、いよいよ試合開始。
先攻はこちら。
「お前が止めなければ、一人は今すぐにでもどうにかなりそうなんだがな」
「五人の内の一人か?」
「そうだな。前に言ったエルフだ」
「……確かにお前は内二人を既に殺してはいるが、何故その中でもエルフなんだ?」
「他二人は話に聞いた限りではかなり厳しい」
「分からんな。残りは、自身に対する攻撃を全て無効化し――尚且つ返すエルフ。――全てを砕く剛腕の獣人。――不老の魔術師。この中で一番厳しいのがエルフでなくて何故他二人なのだ?」
「単純にエルフがこの中で唯一殺せて、他は殺すにしても手立てがついていないだけだ」
「……それが分からん。エルフには攻撃という攻撃が有効ではないんだぞ? 受け手次第でもあるところがあるから、そういうつもりでは無かった、というものでも跳ね返ってくるぞ?」
「本人には手を出さないさ。それよりも重要なのはそいつに仲間が居ることだ」
「分からん」
「殺す方法は何も殺すだけじゃない」
「ふんっ、教える気が無いなら他の二人はどうなんだ」
「お前は勘違い等していないと思うが、こちらの優勢はお前の持っている情報分だけで、それ以外はお互いがお互いを殺せるという点から見て五分だ」
「それは分かるが……それ程までに魔術師が厄介か?」
「厄介だ。他では五分でも魔術師だけは下回る可能性がある」
「――研究熱心だからな奴は。それで捨てた」
「……何事も度が過ぎると良くないな。それと――獣人は魔術師に近い位置にいるから手を出したくは無いというだけだな」
「おっと、これで私の勝ちだ」
二つ目の隅を取って裏返していく。
盤面にはまだ空白があるというのにも関わらずの勝利宣言だ。
だが、黒髪が宣言して負けた事は無い――ので、立ち上がってそそくさと風呂場へと向かう。
「にゃははっ、だからトランプにしておけばいいものを――」
部屋を後にしようと扉へと手を掛けたその時、歓喜の瞬間は不意に訪れた。
「……戻った」
立ち止まり、振り返って告げる。
「え? あぁ、そうか。良かったじゃないか」
「風呂掃除が終わったら早速行ってくる」
「ダメだ」
「え?」
自身と同じか、それ以上に待ちわびていたであろう人物からの拒否に思わず聞き返す。
「ここを離れるんだろ。ダメだ」
「……しかしだな……」
「お前は忘れているのかもしれないが、私はただの人間だぞ。そんな私にまたあのようなか細い思いをさせるのかお前は」
「……らしく無いな」
「……人間らしくはあるだろう」
「……分かった。指輪を置いて行く。これがあれば――」
「人でなしめ」
「……これから行う事はお前の願いでもある筈だ」
「私がゴミ共に連れ去られ嬲られ弄ばれた後殺されて死体になったとしてもそう言えるか?」
「そうはさせない」
「なら傍にいろ」
「駄目だ」
「ダメだ」
埒が明かない。
お互い譲る気は無く、平行線だ。
「……トランプで決着を着けよう」
「嫌だ。オセロなら良い」
「負けるじゃないか」
「それで良い」
「……分かった。帰って来たら何でもいう事を一つだけ聞こう」
「嫌だ」
「駒にしても良い。死ぬまで扱き使ってくれ」
「分かった」
良いのか……。
しまったと思ったがまぁ、何かすれば捨てられるらしいし気楽に行こう。
「だが、願いは別のものだ。覚悟しておけよこの人でなし! ろくでなし! 甲斐性なし!」
地団駄を踏んでいる。怒りを表現しているらしい。
それよりも別の願いというのが気になるが……今更どうしようもない。
「……風呂掃除してくる……」
そう言って部屋を出てから数日後――
その者は何事も無かったかのように棺桶を担いで帰って来た――




