42
「あぁ、それと――」
何だまだあるのか、と手を洗い、うがいを済ませた所で声が掛かる。
「お前の使っているラグアーマーとか言うのな。あれはあまり使うな。お前がどういうものか分かって使っているのならそれで良いが、いや、それでも良くないが――そのうち戻れなくなるぞ」
言いながら再び席へと着き、食事再開。
――と言ってもそのほとんどが黒髪の食事風景を眺める事になるであろうことは皿の上を見れば明らかだが。
「分かった。以後気を付ける」
「……分かっていないことを分かった事にしておくのは良くないぞ。説明してやるからよく聞いておけ」
ジトっとした非難の目を持って、言葉と共に咎めてくる。
「お前のあれな。原理は分かっているだろうからここではわざわざ説明しないが、使用中、お前がどこにいるか知っているか?」
「……視認できないところ……外側? か?」
聞かれて暫く考えてみるが上手い言葉見つからないのでそれに近いものを答えとして提示する。
「概ね正解だが、正確に言うと世界の外側だ。そしてそこはどこにも属さないし、認識されることのない場所であって他とは隔絶された一種の世界と言うにはその体を成していない、ただの空間とでも言うべきものだ」
黒髪は淡々と語る。
「その様な場所にまず立ち入る事自体危険な行為なのだが、お前はそこに毎度の様に滞在するだけでなく、あまつさえ行動し、世界に影響を与えている。さて、ここでお前の身に起き得る事態とは何か分かるか?」
「まぁ、お前が最初に言っていたそれだろう」
「戻れなくなる、か? それも正解だが、それは外側での話であるからにして、逆に内側ではどうなると思う?」
「……不具合……いや、破損か」
「その通りだ」
「どうなる?」
「世界に排除されるか、壊れるか。まぁ、様々だな」
言ってそれから黙々と皿の上を片付け始める。
衝撃の事実――という程の事でも無い。使い始めた時から薄々分かっていた事だ。
自身のやっている事は言うなれば不正であり、それにはそれ相応の報いがあって然るべきだろう。
この権限を運営を殺して入手した時からついこの間まで使用していなかったのが良い証拠だ。運営は欲しかったのだ。排除出来る正当な理由が。そして、今は世界が運営に成り代わりその機会をじっくりと窺っているといったところか。
「まぁ、もしもの話でそうなったらその時だな」
「懲りん奴だ」
「頼りにしていると思ってくれて構わない」
「何の事だか」
「言い忘れていたが、仲間がいる」
「それで?」
「外から中に入れるのなら、そこを通って外に出られるんじゃないか?」
言わば逆転の発想ならぬ逆走の発想。
黒髪は手を止め黙り込んだ後、暫くして口を開いた。
「世界間の移動は容易ではないし、あの世界の者達でそれが成せるとは思えんが――」
「プレイヤーが居るだろ」
「……この世は分からんものだな」
「期待してくれていい。優秀な奴、いや、達だ」
「まっ、そうなったら良いなとは思うよ」
「ははっ、そうなったらプレイヤーを元の世界に還してくれないか?」
「唐突だな。まぁ、もし、の話だがな。分かった」
「ありがとう」
「しかし、解せんな。お前がそんな事を思っていたとは」
「意外か?」
「いや、最近人間という身になってみて、それまで理解できなかったことも理解できるようになってきた。お前を生き返らせてこうして喋っているのがその証拠だ」
「まぁ、あの世界はあの世界の者達にこそ相応しい」
「高くつくぞ」
「さっきと話が違う」
「今思いついたからな」
「駒にはらならんぞ。面倒くさい」
「ふっ、そう煙たがるな。言うなれば、私と私の騎士。その関係性を維持してくれればそれで良い」
結局、駒じゃないか……と思ったが言葉にするのは止めにした。
そうして食べ終わったが最後、二人して手を合わす。
ごちそうさま。
美味い飯のお礼にと、皿は自分が洗う事にした。
持ちつ持たれつ。
今日も世界は回っている。




