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「……」
兜のスリット部分から光が差し込み、眩しさを感じて思わず目を開けた。
現時点で自身に何が起こったのか容易に想像できるが、状況を補足、把握するために辺りの様子を目だけで慎重に窺っていく。
結果、またか、とも思ったが、当然の如く見知らぬ天井、見知らぬ部屋。
唯一違ったのは、見知った顔の者が椅子の上で居眠りをしているという事だけで、他に人もいなければ探知技能にも反応は無い。
どうやら最悪の事態は避けられ、急を要される場でもなさそうだ。
それで、現状、唯一の手掛かりである椅子の上の住人に声を掛けようか迷ったあげく、わざわざ眠っている者を起こすことも無いなと考え、ゆっくりと起き上がった。
しかし、鎧と言うものの性質上、防御力は兼ね備えていても静音性は全くと言っていい程無く――気を付けていたのにも関わらず微弱ながらも音を上げてしまい、こちらの思いに反して起こしてしまう。
そうして目をごしごしとこすりながら何事かと立ち上がったその者と、極々当たり前の様に目が合った。
「……起こすつもりは無かったんだが……」
――起こしてしまったことには変わり無いので素直に謝罪する。
「申し訳ない」
相手は目を見開いている。
それは怒っているからなのか、謝罪されるとは思っていなかったための動揺からなのか、はたまたそれ以外か。相手の事をまるでしらない自分では、その見当は付きそうにない。
「お前……いつ生き返って……」
当然の質問。素朴な疑問。
答えない理由もないので分かる限りで答える。
「つい、今さっきだな。そこの窓から光が差し込んで来たあたり」
言って窓の外の昇っているのか沈んでいるのかよく分からない光に指を向ける。
「あ、あぁ、そうか……いや、そうだな。生き返った感想はどうだ? どこか悪い所はあるか? 気になるところでもいいぞ? それからそれから、あー、そうだ」
長い黒髪の女はこちらに歩み出てきて手を差し伸ばす。
「良かった」
「……いや、困惑しか生まれてないが」
「ん? 握手だよ握手。これからよろしくやるんだから必要だろ?」
「……一応、聞いても良いか?」
「いいぞ。私は寛大だからな」
「そうか。では――誰と誰が?」
「お前と私だ」
「……何故?」
「分からん奴だな。まぁ、確かに、お前と私は色々あった。殺そうとしたり、殺そうとされたり、な。だが考えてもみろ。そんなこと、些細な事だと思わないか? それに過ぎた事に拘る様な奴には見えんが、私の所見とは違ってそうなのか? まぁ、別にそうだったとしてもそれはそれで置いておいて、この様な悪辣極まりない世界で生きていくにはお互いに手を組む、いや、利用しあうが適当か、まぁ、どうだ。分かったか」
「待ってくれ。言っている事は明々白々だが何か色々と食い違っている」
「あぁ、そうか。あー、そうだな。今となってはお前に殺されようがもうそれはそれで良いから信用して話すが、人の話は最後まで聞くんだぞ」
「……良く分からないが、生き返らせたのはお前なんだろう。聞くさ」
言うと膝の上へと乗ってきた。
「おい汚いから――」
「なら鎧を脱げ。硬いしな。それと匂いはもう慣れた」
「……そうか……」
渋々、というより勢いに押し切られた形で鎧をしまう。
それでようやく話が始まった。
「まず、私が何か――についてだが、暗闇の中でお前の手足を四散させた奴だ」
「……そうか」
「そうだ。それでもっと言えば、お前が私の世界を落とし、世界から僅かながらも離れた瞬間にお前が殺した、いや、消した、か。そいつに召喚され、お前はそれに巻き込まれる形でまた別のこの世界に来た」
「……成程」
「この世界に私とお前を召喚したあいつは私をかなり恨んでいてな。まぁ、それはいいとして、次にこの世界についてだが――この世界は私がお前を捨てようとしていた世界で、通称掃き溜めだ。私が扱き使って反旗を翻した者や手に負えなくなった者を捨てる場所とでも言えば分かり易いか」
「恨まれても仕方のない奴だとは思うが、お前にはお前でそうする理由があるんだろう。話さなくて良いが」
「……何だ。気を使っているのか?」
「いや、全く」
「そこは嘘でも気を使え。全く。で、だ。話が逸れたがこの世界はそういった用途で使用していた都合上、外から入れる事は出来ても中から出ることは出来ない様になっているし、お前も気付いているだろうが、他にもああいった手合いの者がわんさかいる。ここまで話してまだ分からない事があるなら質問してくれ」
「……二つある」
「良いぞ」
「まず一つ、何故お前は帰らないのか」
「分かってて聞いているのだろうが、答えは帰れないからだ。まぁ、もっともお前が聞きたかったのはこれでは無いだろうから付け加えるが、簡単に言えば、召喚された時に世界にただの人間として認識されてしまったためだ。正規の手順を踏んで入場すればその限りでは無いが、私の様な説明不要の不確かな存在は世界の示す枠内に居ないというか、存在しないというか、なんというか……分かれ」
「あい、わかった。(分からんが)二つ目は何故、元の世界からプレイヤーとして送り込まれたか、だ」
「駒が欲しかった、それだけだ」
「分かってはいたが、お前……その……なんというか……その……」
「お前程じゃない」
「……よろしく」
話をぶった切る様に言って、今度はこちらから手を伸ばす。
長い黒髪の女は何が面白いのか、笑ってそれに手を伸ばし、握った。
「あぁ、よろしく頼むよ。私の騎士――」
女はとても楽しそうだ。




