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「お願いします!」

「断る」

「お願いします! あなたのお力添えが必要なのです!」

「殺すぞ」


 目の前で額を地面へと擦りつけ、助けを請う女の頭を掴み目の前に持ち上げる。

 この先どうなるのか分かっているだろうに、女の目は強い意思を、使命感を宿らせている。


「ふっ、いい目だ。では死ね」


 手に力を込めていく。

 人型であれば即死の技能(スキル)だ。

 まぁ、単体技能(スキル)であり、射程が手の届く範囲という短さ、更にはその技能(スキル)難易度の高さから取得するのに前提技能(スキル)を取得しなければならないというクソ技能(スキル)なため覚えているやつは少ないがその効果は絶大だ。

 そうして、終わりか――そう思った時――女の口が言葉を紡ぎ、手を止めた。


 ――プレイヤー


 女はそう言った。


 こちらが手を止めたのを機と見たのか女は言葉を続ける。


「ぷ、プレイヤーが関係しているのです! 先ほど賊が占拠していると言った村には私が見たところプレイヤーが助力、いえ、プレイヤー達に賊が協力していると言っていいでしょう」

 

 女は一息でそこまで言うとこちらの様子を伺うように目を向けてくる。


 ……プレイヤー……ねぇ……


「どうした? もう終わりか?」


 命乞いは――女にはそう聞こえただろう。


 女は息を呑んだ後、自身の生き残りを賭け、己の中にある札を選び、吐き出して行く。

 

「敵の数はプレイヤーが三名と賊が百名ほどです。村の場所は……プレイヤーである私がここから歩いて半月ほどです。村は森から近い場所にあり、俗に言うエルフと思われる者達が住んでいました。数は……分かりませんが今ではその全てが隷属させられていると思われます」


 女の頭から手を離す。

 宙を彷徨っていた足が地面へと付き、そのままの勢いで膝から崩れ落ちた。

 

「……今から一月ほど前、私一人でどうにかできないかと思い奪還を試みて見ましたが賊共の数を減らすのみで、プレイヤー三名の前に命からがら逃げる事しかできませんでした」


 三名のプレイヤーを前に命からがらねぇ……。

 

「それで?」


 冷酷な笑みを浮かべ続きを促す。


「助けて……ください。お願い……します。私一人ではどうにもならないのです」


 懇願。

 それは他者に、何かに、自分ではないモノに、慈悲を、助けを、救いを、それに連なる何かを求めるもの――


 

 求められてはしょうがない。答えてやろう。

 ふっ、と鼻で笑う。

 自分でも趣味が悪いと思いながら――


「断る」


 瞬間、女は俯いていた顔をこちらへと向け、縋る。

 ただ、ただ、縋る。


「お願い、お願いします。どうか、どうか、お願いします。力を貸してください。助けてください。私を、私を――救ってください――」


 救いを求め女の目元から涙が溢れる。


「何故……? そのようなエルフなど放って置けば良い。賊もプレイヤーもだ。お前にも関係なかろう? どうでもいい事ではないか。むしろ笑えるね」


 そう言って笑ってやる。

 傑作だと。


「どうして……どうして……どうしてそのような事を言うのですか。どうしてそのような事を言えるのですか。放って置けば良い、関係の無い事だから……そのような事……私にはできません。優しさだとか偽善だとかそう言った事では無いのです。私は……私はただ、彼ら、今も虐げられているであろうエルフを見て、ただ、純粋に救いたい、助けたい、そう思ったのです! 私は……私は……私は……」


 助けたい、救いたい、立派な事だ。

 特殊な癖だとも思わない。

 これは普通だ。

 目の前で困っている人がいたから助ける、助けたいと思い手を差し伸ばす。

 極々一般的であり、それなりに優しさを持ち合わせている者であれば誰しもがそうするだろう。

 それが何者、エルフであってもだ。

 今回、偶々、この女の目の前でエルフが手を伸ばした、助けてと。

 そして女はその手に己の手を伸ばし、引いた。

 だが、それは、己の無力からか、プレイヤーと言う障害に因って断ち切られた。

 女は救いを求めた者達の手を一度取りながらも救えなかったのだ。

 エルフは更に苦しみを知る事になっただろう。

 それに対して責任を感じ、それが自らに重みとなって圧し掛かり、そうして結果、耐えられなくなり自身を攻める。


 救えなかった原因――己を。


 どうして、手を出したのと。


 何故救わなかったのと。


 何故救えなかったの――と。 


 足元を見る。

 その結果がこれか。

 無様な者だ。

 滑稽だな。

 そう思う。

 

 そうして喚いている女を一頻り眺めた後、ゆっくりと口を開く。


「エルフは助けない。お前も救わない。そしてお前が縋り付いているモノもだ」

「そ、ん、な、ぁあああ、お願い、お願い、お願い、何でも、何でもする、から、何でも、します、から、お願い、します、お願い、します」


 そんな女に向けて――告げる。


「だが、そんなモノも、この世でひとぉつだけ好き――大好きな事があるんだ」


 駄々をこね、喚き散らしていた女が静かになる。


 今日はとても気分が良い。


 そうして一言――


「殺し(プレイヤーキル)だよ」


 男は笑う。


 盛大に、大らかに、楽しそうに――



 そうして、満たしていく。

 

 この場を、この世を、自分自身を――


 

 男の笑い声は終わらない。


 続く、続いて行く。


 いつまでも、どこまでも――

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