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「このクズがぁああああああああああああああ!」


 感情が自身を揺らし、言葉が対となって溢れだす。


「ははっ、今更何を言っているのだか」

「き、貴様ッ――、クソッ! 分からん! クソがっ! 一体何をした!」

「何を? はははっ、さて、何だろうな?」


 チッ――クソッ!

 何だ……何なんだ……。

 分からん。まるで分からん。

 あいつは一体何をしたんだ?

 あいつに一体何があったんだ?

 分からん。分からんが、奴にはそれが――今のこの状況、現状を作り出すこと、それを可能にする能力があることは確かだ。

 考えろ……考えるんだ……。

 奴に出来てこちらに出来ない事……奴にしか出来ない事……こちらの想像、予想、常識、それら全てを蔑ろにして尚、現実に起き得る事……。

 ある筈だ。それは必ず存在する筈だ。

 目の前の猛攻を置き去りにして、一瞬の内に移動し、必殺の攻撃に転ずるその何か……。


「待てよ……いや……そんな……そうか。俺は――それを知っている……知っているぞ……」


 この様な状況……有様を現にこの目で見たことがある。

 今では遥か昔の事の様で――思い出すのに時間が掛かったがそれは――


「ラグアーマー……だな?」


 ラグアーマー。

 それは自身の使用している回線に対して、強い負荷が掛かった時等に接続が不安定化し、相手からの判定、こちらからの判定が正常に動作しなくなり、その間ある種の無敵状態に陥る現象を指す。


「……まぁ、二度も見せれば流石に――」

「だがあれは現実では無く、仮想の、ネットのゲームでの話だぞ!」

「確かに。それはそうだが――」

「出来るのか! 出来るのだな? この世界で、いや――今、正にこの目で見た現実こそ現実!」

「……」

「貴様、先程二度と言ったか! そうか! ゴミ共を宙へと舞い上がらせたのもそれだな? どうやって上げたか、その術は知る由も無いが、対象の位置が移動していなければ一歩も動いていない様に見せかけ飛ばす事も可能なのだな?」

「……あぁ」

「どういう仕組み何だ? この世界は現実では無いのか? それとも実際に現実で、俺たちは接続と言う一種の形態で存在するに過ぎないのか? それなら接続を切る方法……切断すれば…………帰れる……のか……?」


 話の途中で浮かび上がった、帰還出来るかもしれないという淡い期待。希望。

 だがそれは、相手のさぁなと言う素っ気の無い返事で簡単に崩れさった。


「あ……あぁ……そうか……そう、なのか……。いや……待てよ? まだ――試して、いないんだな?」


 それに対して再び繰り返される、さぁなと言う先程と同じ返答。

 ただ、前回と決定的に違うのは、これは否定的な意味合いを含んだものでは無く、肯定的なものであると言うこと。

 一度は崩れ去った思いが――同じ人物に因って更なる高みへと導かれる。


「は――はは、ハハハハハハハ! 良い! 実に良い! 最高だ! お前はクズだ何だと呼ばれてはいるが何の事は無い。最高だ! 俺が保証する!」


 高揚、それもかつてない程の。


「仲間になれ! この世界に置いてお前が座するに相応しい場所はここだ! 何、お前が望むのであれば、裏切ったとは言え元は志を同じくした者、女共も迎え入れる! 王国に対しても同じだと思ってくれて構わない。どうだ?」

「断る」


 即答。

 水を差すとは正にこの事だろう。


「何故だ? こちらの意図は伝わっているだろう? お前と俺が手を組めば元の世界へ帰る事も可能かも知れんぞ? 少なくとも帰還と言う事一点に置いてはかなり前進すると思うが。それとも他に何か不満な事でもあるのか? 今で無くとも善処する事は約束するが?」

「断る。事、今になって必要性を感じないからだ」

「理解出来んな」

「お前に出来る事はお前の言う女共にも可能だろう」

「規模が違う。それも圧倒的なまでにだ」

「その様な事は重々承知している」

「王国を入れたとしてもその差は歴然だぞ」

「些末な事だ」

「どうかしているとしか言えんな」

「良く言われる」

「…………この場合――お前を見逃して……王国をこちらが支援するという形が、最善……なのだろうな……」


 沈黙。


 多くの味方、仲間を殺されて尚、目の前の者についた方が最善とは……こんな酷い話は無い。

 もっと言えばこんな話、周囲の者に聞かせて良い話では無い。

 だが、周りの者達も薄々感じているか、そのことに気付いているのか、反対する者も意見を述べる者も、そもそも言葉を発する者すら居ない現状だ。

 考える。

 今この場でそうするとした場合。半分は同意するだろうか? だが、それでもかなりの数が離れる事になる。この場に居ない者達はどうだ。現在自身の支配下、占領下にある国、町、土地にいる者達。分からない。そもそも今でも帰還を望む者がどれ程いるのか見当が着かない。反対にこの世界での生活に意義を見出している者達はどうだろう。

 ……居る。間違いなく居る。それも大多数と言っていい程に。

 仮に半分が自身の意見に賛同したとして、もう半分に対してはどう言った処置を施すか。

 今後、王国側に寄り添うとするならば敵対は免れないだろう。

 全体の数は互角。しかし指揮はこちらが上だとして、常に数の有利を保ち、各個撃破。しかし統治は不可能だ。数が互角である以上その場に兵を駐留させることに因る戦力の低下は避けたい事柄であるし、それこそある程度相手の戦力を削ってからであれば可能だろうが、時間が掛かる事この上無い。もっと言えば今現在自身の下に所属していない者達という不確定要素もある。加えて、こちらの戦力の増加は見込めない。

 その様な状況下で――他国、他人に対しての支援を行おう等と……考えるまでもなく愚かな行為だ。

 従って……支援は、出来ない――


「……もう少し早くお前に会っていればな……」


 思いが自然と口を突く。


「さてね」

「フッ、今と変わらなかったと言いたげだな」

「……さてね」

「フッ………………やるか……」

「良いのか?」

「うるさい。仲間にも出来ない、見逃してもダメ、敵対するしか道が無いならそうするまで」

「ハハハハハ!」

「覚悟しろ。お前を殺して、王国に攻め込み、何もかも失わず何もかも手に入れてやる」

「良いぞ!」

「何、ヒントは得た。全てを手に入れた暁には自ずと帰還の方法も手に入れているだろうよ」

「最高だ!」

「何しろ全てを手に入れているんだからな――」


 続く言葉は無い。

 あるのはお互いの楽し気な笑い声のみ。


 そして――



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