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「傭兵様」


 周りに人はいない。

 振り返れば遥か後方に王都と呼ばれるモノの城壁が目に入る。

 高く聳え立ったそれは実に見事なモノだ。

 そしてあの上のどこかにこの声の主がいるであろう。


「何だ」


「敵勢力はおよそ三千。全てプレイヤーであると思われます」


 自分の手に握られた水晶から声が鳴り響く。

 ゲーム時代の個人に向けてのチャットが使えない今、実に便利な物だ。


「三千……よく揃えたな」


 水晶の声の主に向かってではなく、鼻で笑いながら独りただ呟く。

 そうして丘の上から前方を見つめる。

 それにしても本当に良く揃えたなと思う。


 現在、この世界に来てから半年ほど経っただろうか。

 プレイヤー達はその数を大幅に減少させていた。

 理由はこうだ。

 転移後、協力共生という名の下に大手ギルド連合による統治が行われた。

 この時点でそれを嫌い、旅立つ者も少なくなかったが驚くほど平和な日常が暫く続いた。

 だが、それは全体の食料の減少に因り――もちろん連合による配給も行われたが――あっけなく崩壊した。


 明日、飯が食べられる保障は無い。

 それはプレイヤー達にストレスとして大きく、重く降りかかった。

 そんな状態が続き――

 食料を求めたプレイヤー同士によるPK・略奪が始まった。

 

 と、ここで一つの疑問が湧き上がる。

 何もプレイヤー同士で奪い合わずともいいではないか――?


 この疑問に対しての答えはこうだ。

 もちろん模索し試した。

 周辺の探索によって村や街などは発見していたためそこから食料を調達しようと人を仕向けた事も有ったが、言語の違い、更にはこの世界の通貨を所持・入手できていなかった為それが成される事は無かった。


 通貨を手に入れようと何かを売ろうとしても言語が必要でありさらにはこの世界のモノに対する価値が分からずどうしようもなかったのだ。

 言語の習得を試みる者もいたが転移して暫く経ったとは言え、未知の言語を習得するには時間が少なすぎた。

 そして言葉が通じないので情報が集まらない。

 それに対しての代替案として土地を開拓しての手持ちの作物の栽培、近隣の森での狩猟などが行われた。

 だが、どれも技術や知識を持つ者が少なく生産できる量も限られ、圧倒的なまでの消費に追いつく事も無く、さらにはそう言った者達は総じて連合によって管理されていたため、プレイヤー達に均等に行き着く事は無かった。


 そこで、飢えを凌ごう、不安を取り除こうと村や街に武力を持ってして襲い掛かり略奪を繰り返す者達が出始め、それを良しとしなかったギルド連合との間で争いが起こった。

 

 ここで分かったのが、死した者達は自動で復活する事は無いが、蘇生の技能(スキル)道具(アイテム)による復活は可能だと言う事だ。

 この事実が判明してからと言うものの、双方共に相手の復活を阻止しようと死体の隠蔽等が横行した。

 これによってお互いに復活出来る者が限られ大幅にプレイヤーの数を減らしたが、奇しくも人数の減少によって食料事情が回復するに至り戦争は終わりを迎えたらしい。


 ――らしい、と言うのも後半は他のプレイヤーから聞いた話なので真偽のほどは確かでは無い。


 自身は戦争が起きる前に――タダ飯が食えるならいいやと在籍していた――連合から離脱したためその後の事は余り詳しく無いのだ。

 離脱した後は、食料の減少によって村に襲い掛かっていた連中を皆殺しにし、その村の救世主――と言う体で言語を習得しようと潜り込み、半年を経た現在は良く分からない国の傭兵という立場だ。


 今現在、他のプレイヤーがどれほど生き残っているか等とそんな事はどうでもいいが、各々集団であれ個人であれ言語を習得した者は村人商人騎士や魔導師等として国に紛れ込んでいる者が多いと聞く。

 中には村や街、大きく言えば国に侵攻し手中に収めている者等もいるようだが――それもどうでもいい事だ。


 まぁ、そう言った者達との馴れ合いも悪くないか? とも思っていたのだが、案の定肌に合わず性に合わず音楽性の違いから結局ソロだ。

 

 時間を持て余し、そんな事を思い返していると――遠く、遥か彼方からこちらへと近付いて来る集団が目に入る。

 相手の数はおよそ三千。

 こちらの数は自身唯一人だ。


「……昔を思い出すな」


 ふと、言葉が自然に漏れた。


「どうかされましたか?」


 水晶からこちらを気遣うような言葉が投げかけられる。


「いや――何でもない。それよりも、人対人に置いて勝利を収めるのに重要なことは何だと思う?」


 こちらから仕掛けるにはまだ遠い敵を見据え世間話でもするように問いかける。


「……技量、いえ、数でしょうか?」

「そうだな、それを踏まえて今の状況を整理するなら三千対一、圧倒的なまでに不利だな。まず勝てん。まぁ、後ろに――王都に配備されている兵を含めて考えるならこちらの圧勝だ」

「はい……ですが、敵は技量を持ち合わせた者達でもあります」

「そうだ。敵は数こそ少ないが技量を持ち合わせている。それも圧倒的な、な。そんな所に篭もっていて大丈夫か? お前ら死ぬぞ?」

「……ですが……あなたはその最前線に一人でいる。私の答えが間違っていると言わんばかりに」

「何、間違ってなどいないさ。まず一に数、次に技量、当たり前だ。同数であるならば兵士であったり指揮官であったりその者達の技量によって勝敗は決まる。その道理で考えるなら何故――勝敗が分かりきったこの場に居るか……」

 

 ――そうではないからだよ――。


 自然と口元に笑みが浮かび上がる。


「数でもなく技量でもない――勝てる理由、圧倒的戦法というものを見せてやろう」


 手に持った水晶を腰の鞄へと入れると同時に――どこから現れたのか、金色に輝く鎧がその身を覆って行く。

 右手、先ほどまで水晶を握っていた手には既に大きな剣が握られている。

 準備は整った。

 技能(スキル)開放――。

 金色の鎧には似つかわしくないであろう暗い紫のオーラが周囲に滲み出し、その身を覆い始める。

 そうして敵が迫る中、次々と自身の中に存在する自己強化・支援の技能(スキル)を使用していく。

 龍の舞一、龍の舞二、龍の舞三、龍の舞四、龍への貢物、龍への誓い、逆行――

 

 ふぅ……。

 一通りの技能(スキル)を発動し終え、このくらいでいいだろうと、そう思い迫り来る前方の敵集団を見つめる。

 敵の魔導師や弓等の遠距離武器・技能(スキル)の射程内に入ってはいないものの、その距離は着々と縮まって行く。

 さて――これ以上待つ必要も無いか。

 剣先を前方――敵集団へと向ける。


「数でもない。技量でもない。これが答えだ――龍の饗宴」


 瞬間、青き閃光が三千という敵集団を駆け巡り天へと昇って行った。


 一瞬だった。

 

 閃光が駆け巡った場所にはおよそ三千という一見無傷に見えるほど綺麗な死体が残るだけだ。


 いつの間にかその手に握られていた大きな剣は水晶に変わっている。


「これが答えだ」

「………………距離……射程……ですか……」

「そうだ。人対人なんてものは所詮、遠距離ゲーだ。相手より射程が長ければ先手が取れる、相手の射程外から一方的に殴れる。今時近距離なんてクソゲーだ」


 まぁ……今回は敵が来ることが分かっていたからこそできたことだ。

 少人数で近くまで潜り込まれ、近距離戦を強いられていたならばどうなっていたか分からない。

 そうなれば数と技量がものを言う。


「そう……ですか。いや――そうですね」

「さて、こんなクソみたいな話はどうでもいいとして――楽しい楽しい剥ぎ取りの時間だ。お前等もこっちに来て手伝え」


 さすがに三千人分の武器・装備・金・道具(アイテム)を剥ぎ取るのには骨が折れる。


「分かりました。直ぐに向かいます」


 王都の城門の方へと目を向けると既にこちらへと向かって来ている。

 優秀な兵達だ。

 

「傭兵様」

「何だ」

「死体はどうされますか?」


 ――自分としたことが重要な事を伝えていなかった。

 

「――そのままにしておけ」


 復活したならばまた殺して剥ぎ取るだけの話だ。

 

 そう、何度でも――

 

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