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「ははははは! 良くやったぞお前ら! 褒美として後で復活出来る様、手配してやろう!」
自身の放った無数の矢に因って貫かれ、敵と共に大地へと倒れ伏し無残な姿を晒している者達へと賞賛を送る。
雑魚ばかりの寄せ集めだったが足止めという点に置いてとても役に立った。
奴等自身もあのまま戦い続けていた所で現在の状態と結果は変わらなかったであろうからして、死にはしたが、格上のプレイヤーを葬るという戦果を挙げる事が出来たのだから満足であろう。
さて、あとは一人片付けるだけだ。
そうして視線を向けた先には――思わず目を逸らしてしまう様な、それでいて一度向けたら最後、視線を外す事が出来ない醜悪で残酷で冷徹で濃く暗いそれで全身を染め上げ形作ったモノが居た――
感情に押され開放されたどす黒い紫色のオーラがその身を覆う。
「おい――お前が今何をしたか言ってみろ」
そうして目線の先の者へとゆっくりと歩を進めながら、お互いの間にあるその距離を縮めながら、深く、静かに、問う。
「――っぇぇぇ」
「言ってみろ」
「ぅぇえっと! お、お前のなっ――仲間を殺した! そうだろう!」
男は距離を縮められているのにも関わらず何もしようとせず、ただ搾り出すように吼える。
「違う」
男の的外れな答えを否定しながら歩く速度を上げ、男との距離を確実に詰めて行く。
「ち、ちち、ち、違わない!」
「違う」
明らかに動揺している男を見据えたまま更に速度を上げ、距離を――間合いを詰めていく。
「う、嘘をつくな! お前は――」
「違う」
否定、そして同時に歩くのを止め今だ男の間合いであり自身の領域では無い空間を疾走する。
途中、うろたえながらも距離を詰められている事に気付き、正気を取り戻した男から幾本かの矢が飛び、降り掛かって来たが、必要最低限防ぐだけで矢がその身を貫き刺さり焦がし炎上しようとも凍結しようとも意に介さず更に加速する。
「――っ! 堅い!」
少しばかり攻撃した所でこちらが止まることは無いと悟った男は、一度、後ろへと大きく飛び下がり、距離を詰められながらも弓を正面――こちらへと向けると大きく目を見開き、見据え――
「――開放――」
――そうして青きオーラをその身に灯した――
……青いオーラ……。
思わず笑みが零れる。
それはPKKの証。
神聖であり正義であり秩序を守る者の証。
そして――色が薄いのが少し残念だが――強者である事の証だ。
「属性付与、強化、再強化、増幅、複製、複製、複製、複製、複製――」
オーラを開放した後に次々と使用され、準備されて行く男の技能を見据えながらも、自身の間合いへと一瞬でも早く引き摺り込んでやろうとその身に一層力を込め、こちらも呼応する様に距離を詰めつつ相手と同じく技能を使用し、自己を高めて行く。
そして――こちらは後、武器を振り下ろすだけ、相手はその手を離すだけとなった時――時間が許す限り極限まで高められたお互いの技能がぶつかり合い、青き閃光がその場を支配した。
「なっ――」
それは一瞬の沈黙の後、弓を持った男の口から漏れた驚き、動揺、焦り。
「バカな!」
男は自身の目の前で起こっている事に理解は出来るが納得することが出来ない。
「そんな……お前……」
目の前で起こっている事。
それは――
「どうした? 何か可笑しな事でも有ったか?」
手を離れ、目の前の敵を貫き命を奪う筈だったそれ――矢――は今この瞬間にも目の前の男に纏わり付く青き龍に因って青き閃光を放ちながら削られ蝕まれていた。
そうして、呆然と見ている内に一点へと集中しその標的を今にも貫こうとしていたモノは欠片も残さず青き龍と共に消えた。
「そんな……」
男の声は今にも消えてしまいそうだ。
「そんな?」
そんな男に先を続けるよう催促する。
「防御…………」
信じられない、そう言った顔をしている。
「そんな……あの場面で……あの瞬間に……仲間を殺されたお前が……激昂していた筈のお前が……攻撃では無く……防御……そんなバカな!」
自身を襲った状況を整理し言葉にし絶叫と共に吐き出して行く。
「それに……それに! 俺はあんな技能見てないぞ!」
「はっ! ははははは!」
見ていないと来たか。
という事は会った事があると言うことなのだが……。
「お前の様な奴を殺した記憶は無いが、お前がこの技能を見ていないと言う事は使うまでも無かった、と言う事だ」
「なぁっ――な、な、な、なななな、ああああああああああああああああ!」
事実と真実を突きつけられ、自らに遠からず訪れるであろう結末を悟った男は感情に身を任せ新たに技能を発動させようと至近距離で弓を引き絞る。
だが――
「そして、言うのを忘れていたがこの技能にはまだ続きがある」
自身の全身を覆い纏わり付いていた青き龍。
それは簡単に言えば、自身の体力を一定の決して少なくない割合消費する代わりに攻撃を無効化する。
更に、防いだ後、追加で体力を代償に払う事に因って無効化した攻撃の主の元へと行き、その身を一定時間拘束する。
そして――今回拘束する者、される者は――必然、目の前の男以外に存在しない。
一旦は男の攻撃と共に姿を消した青き龍が再び息を吹き返し、絡み、巻きつき男の動きを完全に封じる。
「あ、あああああああああああああああ、ああああああ、あ、あ、あああああああああああああああああああああ!」
自身の感情に任せた攻撃も空振りに終わり、自身の結末を悟った男はただただ叫ぶ。
嫌だ――嫌だ――と。
その様な醜態、見っとも無い姿を晒し続けている男へせめてもの慈悲だと手を伸ばし言葉を掛ける。
「……余り喚くな。すぐ、殺してやる」
「あ、あ、ああああああああ! いやだああああああああああああああ! 死にたくないいいいいいいいいいいいいい! 嫌だああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああああああああああああああ!」
自身の頭に添えられた手に力が入るのを感じ、痛みを感じる事も無く男の意識はそこで途切れた。
青き龍の拘束が解け、大地へと力無く転がる頭の潰れたそれにどことなくなんとなく、男女の死体が被り「あぁ……」と少し、殺し合えなかった事に対して憂鬱な気分になる。
「勿体無い事をした……」
自然に口を突いて出た言葉に、はっ、とする。
そうして地面に横たわる男に向かって――聞こえる事は無いだろうが――言葉を紡ぐ。
「お前の言っていた事は正しかったのかもな……」
言われた時はまた可笑しな事を言っていると気にも留めなかったが、自分自身、仲間では無いが男女が殺された事に対して少しは怒っていたのかもしれない……。
否、怒っていたのだろう。
事実、殺すべき対象、獲物を横取りされた事に対して怒っていた。
だが不思議だ。
仲間でも味方でも何でも無い奴が殺された事に対して怒りという感情を持つとは。
本来ならばそれは仲間であったり味方であったりそう言った者達へと向けられるものの筈だ。
それはつまり、自分自身は殺すべき敵に対して、守ろうだとか助けようなどとは思わなかったにしろ、殺されて怒る程度の仲間、味方意識は持っていたと言う事だ。
天を見上げる。
――不思議、本当に不思議だ――
辺りはすっかり暗くなり夜の到来を告げている。
……晩飯、食いそびれた……。




