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「行ってしまわれるのですか?」
不意に服の裾を掴まれ立ち止まる。
「あぁ」
振り返り服の裾を掴んだ主へと目を向けると、そこには見知った少女が居た。
「……どこへ?」
少女は問う。
「さぁ……ただ、ここでは無い所かな……」
行く当ても無ければ目指す所も無い。
それを聞いた少女は一度俯いた後、意を決してという具合で再び問うてくる。
「私達の所為……ですか? 私達が……いえ、私が……」
「違う」
途切れ途切れのもしそうであるならば責めてくれという懺悔とも謝罪とも受け取れる様なそれを言葉の途中ながらも否定する。
「で、では、どうして……!」
少女は責められなかった事に対して自身に対する怒りからか情けなさからか自然と語尾が強くなる。
それを宥める様に優しく少女の目線まで腰を落とし、答える。
「うーん、どうして? と言われても明確な答えは無いのだけれど……敢えて言うなら……そうだね……音楽性の違い……? かな?」
言って、ははっと笑う。
「そ、そんなのって! その……! あの!」
「なんだい?」
「可笑しいと思います!」
可笑しい――
少女にそう言われて自然と笑みがこぼれる。
「ははっ、良く言われるよ」
そう言って立ち上がり空を仰ぐ。
「僕は、そうだな、君達のしてくれている事には凄く感謝しているし、素直に嬉しいと思っているよ。ありがとう」
「それなら――」
どうして、と言った少女に、違うんだと首を横に振る。
「ただ、僕はそう言ったものとは相反する者であってそうで無ければダメなんだ。そしてそれを、そうであることを僕は望んでいる。馴れ合い、と言ったら言葉が悪いけれど、僕はそれよりも強者であるプレイヤーとの心躍る戦いの日々がただ好きなんだ」
具体的に上手くは言えないが自分なりに言葉を紡いでいく。
「ここに居たのはそういったものを求めてであって、それ以外は必要としていない――そして、それを満たせなくなった。色々な意味でね」
色々な意味――
それはプレイヤーが王国を攻めて来なくなった事が一番大きいが、この少女の様な自身を慕ってくれる者が増えすぎたと言う事にもある。
その様な彼ら、彼女らを自身の思い、欲、生き方に付き合わせたくは無いし、誰かが自身に付き合う必要も全く無い。
「この国はこれからもっともっと良くなるだろう。その邪魔はしたくない。僕はクズであって、悪ではないからね。だから――行くよ」
そう言い終わると今まで触れる事の無かった少女の頭へと手を伸ばし――いつもの様に潰すのではなく、優しく撫でる。
この少女は全てとは言わないが、きっと、納得はしないけれど理解はしてくれるだろう。
そうした後、少女に背を向け歩き出す。
少女は名残惜しそうにしながらもその場からは動かず――ただその背に向けて精一杯の声を掛ける。
「クズさまー!」
罵倒にも聞こえるそれが名前を呼んでいる事に気付き、ふと振り返る。
どうせ、あのオーラを見ている槍女辺りが教えたのだろう。
「またねー!」
そこには本当は連れて行って欲しかった付いて行きたかったそんな思いを仕舞い込み、目の端に涙を浮かべながらもとても良い笑顔と共に手をぶんぶんと振っている少女がいる。
それにもう会うことも無いだろうなと思いながらも精一杯の笑顔で答える。
「あぁ! またね!」
そうして、再び背を向け歩き出す。
その間も少女は手を振ることを止めない。
やがて、その背が見えなくなった所でその場に座り込みぼろぼろと涙を零しながらも彼から帰ってきた言葉を呟く。
――またね――
――それは、再開を望む別れの挨拶だ――




