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その者、金色の鎧を纏てその身に青き龍を宿す。
その者、数多の手を振り払い己が道を往く。
その者、救わず、助けず、省みず。
故にその者は恐れを込めて、憤怒を込めて、憎悪を込めてこう呼ばれる。
――クズ。と――
某MMORPGにて――
街中でのPK放置狩りMPK略奪粘着煽りPKKオーバーキル露店荒らし等々ゲームとは言えそれらは暗黙の内に可能でありながらも否定され、拒絶され、悪行とされ、それら行為を行うプレイヤーは晒され廃絶され悪と断定され例外なく他大多数のプレイヤーによって根絶の一途を辿っていた。
辿っていた――というのもサービス開始から二年経た現在ですら、それらは今だ根絶されてはいなかった。
では何故か?
答えは簡単だ。
彼が居たからである。
それら行為を善しとしない大多数の者たちから追われ排斥されパーティーに参加することもできず、さらには賞金首として同じ穴の狢にも追われる日々。
更にはそういった者達によって祭り上げられ賞金額は日々増え続けそれに比例して付け狙う者も留まることを知らない。
そのような過酷な状況下でありながら彼はしぶとく生き残り、戦果と言う名の悪名をゲームと言う名の一つの世界へと轟かせていく――。
彼の名はクズ・クズ・クズ。
ゲームの中の世界に置いて彼はクズ目クズ科クズ属――クズの中のクズであった!
あった………………。
「……あああああぁぁあああぁぁああああぁぁあぁぁああぁぁぁああああぁああああぁあぁぁぁあああ」
気が付くとそこは見知らぬ土地で世界で漫画やアニメで良く見る状況だった。
……。
いやいやいやいや、この状況になって初めて思うけど嬉しくない。
全然全くこれっぽっちも嬉しくないし受け入れたくないし素直に帰りたい。
周囲のプレイヤー達も同じように困惑しているようだ。
中にはこの状況を喜び歓喜の声を上げているプレイヤーもいるのだが。
……こんな事になるなら他のプレイヤーともっと馴れ合って置けば良かった。
心底そう思う。
ゲームをプレイしていた時から友達登録などしていなかったし仲の良かったプレイヤーなどいない。
況してやギルドなどと言ったコミュニティにも所属していないししたことも無い。
こんな状況だと言うのに頼れる者達は居ない。
……詰んだな。
いや、待て、落ち着こう。
結論を出すには早計だ。
それに、よくよく考えれば自分自身元々ソロプレイヤーだった訳で今と変わりないじゃないか。
もっと言えば今までのほうが状況は悪かったように思う。
まぁ、その分面白かったのだが。
それはさて置いても今のほうが状況は良い様に思う。
付け狙われていないし賞金首でもなく晒しあげられている訳でも無い。
これまでの悪行がバレなければ消え去ったと言っても過言じゃないだろう。
いっそのこと新生活を始めると思って気楽にいくのも良いのかもしれない。
考えないのも悪いが考えすぎるのも悪いってね。
自分の中である程度整理が付いたところで大手ギルドの長と思われる人物達がプレイヤー達を纏め始めた。
……さて、自分はどうするかな……。
長い物に巻かれるも良し、ソロで気ままにいくも良し。
どちらにせよ、現実は始まったばかりだ――。