第三話
俺は玄関から大桑さんが出てくるまでのこの時間がとてつもなく長く感じた。
浅羽のおかげで大桑さんと話す機会ができたのだから浅羽には感謝してもしきれない。
「お待たせしました」
大桑さんが出てきた。
帰った直後なので私服に着替える時間がなかったのだろうか制服で出てきた。
やっべちょーかわいい。
「えーと、どこに向かえば?」
「あ、そうですね。えっと浅羽と俺の友達の河嵜って奴の家に行くんだけど…」
「じゃあ案内してもらえますか?」
「は、はい」
どこかぎこちないが俺のテンションはMAXである。
そうして河嵜の家へ向かって2人で歩いていった。
「確か結城廉君だったよね?」
ですます調では無くなっていた。それもまたいい。
たまんないなぁ
「え、えと俺の名前しってたの?」
「うん。一応クラスの人の名前は全員覚えてるよ」
俺は嬉しすぎて奇声をあげそうになったのを必死に抑えた。
クラス全員だ!俺だけじゃないんだ!
でもうれしい。
「河嵜君の家って近いのかな?」
「ここから500メートルくらいかな」
歩いて何分って感じで言えよ。ピンとこねぇんだよ。
緊張している自分に腹が立つ。
「じゃあ歩いて7、8分かな」
「え、そんなことすぐにわかるの?」
「うん。人間の歩く時速って4キロ毎時くらいだからそこから逆算したの」
す、すげぇ
「大桑さんって頭いいんすね」
「数学が少し得意ってだけで他は全然大したことないよ」
少し謙遜していたが少なくとも俺よりは頭はいいだろう。ってか俺より下の奴っているのか?
その後もちょーかわいい大桑さんとの会話が続いた。
初めて話したのにこんなこと聞いていいのかと思ったが勇気を出して聞いてみた。
「大桑さんって彼氏とかいるの?」
できるだけ冗談っぽく聞いたつもりだった。
「私は恋愛には向いてないんだよ」
さっきまでの大桑さんと声のトーンが明らかに違った。
「え?」
「あ、ごめんね、特に深い意味はないんだよ。なんかこう…私そんなにかわいくないし性格もあまりいいほうじゃないから」
「いや、そんなことない!そんなことないよ。大桑さんはクラスで1番かわいいし性格だってさっきまで話しててとてもいいとおもったよ」
「あ、えーと…ありがとう」
少し大桑さんの顔が赤くなっていた。
あれ?俺今なんて言った?
やばいとてつもなく恥ずいことを言っていた気がする。
俺の顔がめちゃくちゃ赤くなっていったのを自分でもわかった。
「じゃ、じゃあ行こっか」
「そ、そうだね。ごめんなんか変な話しちゃって」
「ううん、でもうれしかった。そんなこと言われたの久しぶりだったから」
やべぇちょーかわいい。
そして俺もうれしい。俺の方がうれしい。
でも俺はひとつの単語に引っかかった。
久しぶり…
一体誰に言われたんだろうか。
その答えを知るのはまだまだ先になりそうだった。