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Jewel/box  作者: しろ
9/18

第九話


***



 スキンシップをどこまでスキンシップだと捉えていいのか。

正樹はOL向けのセクハラ対応法が書かれた本を広げて、沈痛な表情を浮かべていた。


「ん?朝からまったく優れない顔してるけど、風邪引いた?」


相沢翔が本をじっと見ながら微動だしない正樹の額に手を当て、


「…熱は無いな」


「YES、NOを言っていない状態の肌の触れ合いはセクハラだぞ。翔」


「は?」


「セクハラ。セクシャルハラスメント。略して、セクハラ」


「……はあ?」


首を捻って翔はまったくこちらを見ずに、視線だけ本に向けている正樹に呆れたため息をついた。また、何を考えているのか、と。


「なんだ?電車で痴漢されたのか?」


「俺に痴漢するような男がいるわけねえだろ?大体、この姿でおさわりしたい男がどこにいる」


「ダサさここに極まり!を、極めた格好だからなぁ。正樹のそれ」


「この伊達瓶底眼鏡の魔よけ具合もいいぞ。かなり。誰も近寄ってこない」


そりゃそうだろう、と翔は心の中で突っ込んだ。長い前髪を下ろし、眼鏡かけて、パーカー姿とジーンズ姿。喋って付き合えばその人となりのよさは分かるが、既に見た目で駄目な人は多い。なので見た目は大切。それに対し、翔は常々、男のときに仲良くなってて良かったなぁと思っていた。まさしく、そういった人間に近寄らないタイプなのだ。彼は。

がっちりガードした人間とただ、付き合い(しゃべり)づらいなぁと思ってしまうのだ。


「それで?男も女も近寄らず、大学で地味君と通っている新城正樹くん。いったい何をそんなに真剣に読んでるのかな?」


会話に乗っては来るが、本から一切視線をはずさず、ページをめくり文字を追うその顔を上げさせるために本を抜き取った。慌てて奪おうとする正樹の顔をその大きな手の平でバスケットボールを掴むかのように鷲掴んだ。


「……、『セクハラの正しい対応法』って…。なんだこれ。なに、正樹、セクハラされたの?」


驚いて声を上げる翔に正樹は返せと声を張り上げて本を奪う。奪って、


「……俺が」


本を抱えて翔から顔を背けて小さな声で呟いた。


「…俺がセクハラしてたかもしれないっ」


そして本を持ったままテーブルに突っ伏した。突っ伏して、


「子供のときみたいなカンジで、顔をむにむしてたら怒られたっ」


「あー…」


思わず顔を引きつられせて翔は、


「そりゃ、子ども扱いされれば幼馴染君怒るんじゃないか?彼たしか、…18歳だっけ?」


「うん。中学生のときの蒼なんか、身長低くて朝礼とか体育の授業とか前の列でさあ。碧なんて正樹にい正樹にいって後ろ付いて回ってっいてっ。何すんだよっ!?」


昔の可愛い駒形兄妹を思い浮かべて顔を緩ませる正樹を現実に引き戻すため翔は容赦なくその頭を叩いた。


「スキンシップが過剰だとか言われたんだろ?それは直せ。あと、そのブラコンとシスコンも直したほうがいい。あと幼馴染妹ちゃんに対するロリコンもだ。絶対それはやばい絶対」


顔の緩み具合が変態だと指摘し、


「とりあえず…仲良くやってたみたいで良かったよ…。これでも心配してたんだぞ。俺」


あの兄妹超怖かったから!とは、口に出していえない。

苦笑いを浮かべて良かった良かったと連呼する翔に、正樹は小さく呟いた。


「仲良く、……か」


どんよりと黒い気配を背負って再びテーブルに突っ伏す。


「やっぱり、もめたのか?」


「…んー。体のことはそれなりに…。その後、蒼がさぁ」


「うんうん」


「俺にキスしてさー」


「うんうん、……はぁ!?」


「言うには、セクハラだって。顔むにむにするの」


「いや、ちょっとまて。まって。どういう状況でキス?え、この場合セクハラされたのは正樹じゃないのか?」


テーブルに突っ伏したままの正樹を無理やり起こし、状況を説明しろと詰め寄る。詰め寄るが、


「俺。顔むにむにするのとか髪の毛わしゃわしゃするのとか、すげー好きだったんだよなぁ…。もうしちゃいけないのかなぁ…。やっぱりアニキじゃないとかなぁー。あいつって俺がサッカーゴールにシュート入れるたびにすっげー目キラキラさせて、正樹兄さんすごい!すごい!って、いて、痛いって!!」


翔が数回、正樹の額をチョップした。強く叩かれてはいないがそれなりに痛いので抗議の声を上げると、


「正樹。俺はこの二年半お前の幼馴染のことは延々と聞かされたからそれはいいんだ。いいから、さっさと事情を説明しろっ」


説明?と首を捻る正樹の額を再びチョップする。

チョップし、


「正樹、男からキスされたんだぞ?!」


「は?蒼からキスされたんだけど?」


「その幼馴染の蒼君はなにか?実は正樹と同じ女なのか?」


「馬鹿言うな。蒼は立派な男だ!俺が保障する。ちゃんと付いてる。たぶん、あれはデカイはず、痛て、痛いってっ」


中学生まで一緒に風呂に入っていた正樹はそのときを思い出すようにサイズを手で表そうとし、再び翔にチョップされる。

たびたびチョップされるので正樹は翔を怒鳴ろうと息を吸い込み、


「そんなことは聞いてない!!」


先に怒鳴られ、



「うっるさい!あんたたち!」



翔『だけ』脳天にトレイの一撃を食らった。


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