打算的な友達関係
良ければ、感想ください。無償に友情ものを書きたくなってしまいました。
権力者のお気に入り、もしくは友人という立場はとてつもなく安全である。嫌な係はこないし、周りは嫌なことをしない。
虎の威を借りる狐から悪魔の魔力を借りるネズミ。それが私、夕霧 聖愛。
「おーい、何考えこんでるんだ?」
教室でポーっとしていたら、西蓮寺 アスカ に顔を覗きこまれていた。サラサラの髪と切れ長が特徴の、完成された理想の一種である顔が美しい。
「ううん、なんでもないよ。今日はどこで遊ぶの?」
「あ~今日は女たちと適当にカラオケなんだ、お前もいくか?」
「うん、いいよ」
私はニコッと頷けば、彼は満足そうに笑った。
アスカと私は友達である。彼に媚びへつらう腰巾着でもなく、かといって対等な恋人でもない。
私は、彼のお気に入りだ。
西蓮寺 アスカは権力者だ。たぐいまれなる美貌と、家の地位、更にちょっと横暴なから素で周りから好かれる性格をしているアスカは、学園ではスクールカーストでトップにいる。
きっかけは、元々私がいたグループ内のリーダー格の女子がアスカに恋したことから始まった。
「西蓮寺くんってさ~格好いいよね~」
「そうだね、佑実ちゃんなら、イケるんじゃない?」
「そうそう、可愛いし!」
佑実ちゃんというのは、当時私がいたグループ内のリーダーで、クラス内ではそこそこに目立つ存在であり、私は目立たない彼女の友人……いや、取り巻き的な存在だったのだ。
佑実は西連寺くんに本気で惚れてた。それは遊びではなく、本当の彼女になりたいと思ってるレベルで、私たちは彼女を応援した。
しかし、彼女はそんなことでは満足出来なかったのか……
「ねぇ、聖愛ためしに西蓮寺くんに話しかけてくれない?」
佑実はかませ犬として、私を使うことにしたのだ。先に話しかけるのは怖い、だから別の子に話しかけて塩対応される様をみて安心したいのだろう。私が選ばれたことに関してはきっと理由はない。
「うん、いいよ」
別に断る理由も無かった私は、どうせ無理だろうと密かに笑われながら、目を引く西蓮寺くんの席にいって話しかけた。
「西蓮寺くん」
「あ?なんだ?」
「私と友達になって」
……………………………………………………
静寂が包まれる。後ろでは佑実たちがクスクスと笑っている。
「ごめんねぇ~西連寺くぅん。この子ちょっと空気よめなくて~」
予想通り、佑実が甘い声で割って入ってきた。自慢の胸を強調するような体制で西連寺くんに引っ付いたが、西連寺くんはそれを無視していった。
「俺と、お前が?」
「うん」
「俺と付き合いたいのか?」
「ううん」
私も流石に晒し者にされたくなく、この会話をすぐに打ち切りたくて単調に答える。佑実はニヤニヤとして見て、また会話に入ろうとしたが……
「西連寺くぅん。この子のことは気にしないでぇ……」
「お前に聞いていない」
ピシャリとはねのけた言葉。佑実はショックを受けた顔をして自分の机に戻り、そんな彼女を無視して彼は会話を続けた。
「友達に……なりたいのか?」
「うん」
完璧に引かれたな、まぁ私は彼女の噛ませ犬だったのでそれでいいやと思っていたのだが……彼は少し困惑した顔の後、パァア!っとそれはそれは美しくて可愛い笑顔をさらし
「いいぜ!」
と笑った。この時についてはまだ私は本気にしてなかったし、周りも彼のハーレム要員が新たに加わっただけだろうという認識だった。
事実、私もそんな感じだろうと思った。別に彼のことは好きではないし、彼が侍らせている女たちになりたいとも思ったことはないが、途中でどうせ飽きられるだろうと考えていた……
のだが
「聖愛!一緒に帰ろうぜ!」
「聖愛は俺の横なー!」
「一緒にサボってカラオケいくぞー!」
彼は飽きることはなく、常に私を傍に起き出した。特に何かを求める訳ではなく、たわいもない話に少しの愚痴、普通に遊ぶ。
よくある主従的な本当に只のたわいもない友達であった。
正直に言えば、私としては便利な奴だな的な存在でしかなかった。嫌な役目はこないし、いじめもアスカの影響で受けることは絶対にない。スクールカーストの上位にいるためには凄く便利な存在だったのだ。
ただ、居心地は結構よかった。
それ以上でもそれ以下でもない。そんな存在なのだ。
「なんかさ~…聖愛って俺のこと特別扱いとかしないよな…」
ある日、一緒に昼食を取ってたら、彼が突然そんなことをいいだした。私が10秒飯生活なのを知った彼が作ってくれたキャラ弁をモチャモチャと食ってる時にだ。
「そう?」
「なんつーか、俺に夢見てねーよな。普通の女子は俺が弁当とか作ってたら夢壊れるとか言うし、俺を特別視しすぎてる。
男も俺を変にカリスマ視してるか、妬んだ目で見てくんだよ……」
まぁ、確かにあの西連寺がクマさん弁当作ってるとかあり得なさそうだし、男の僻みも仕方ないだろう。
アスカは顔がいい。運動も出来る。家も金持ち。なによりそれらを活かせる頭をもってる。だから、周りがカリスマ視するのも、妬むのも仕方がないと思った。
「いや?私もある意味君を特別視してるよ。格好いいもん」
「え……」
それを言えば、アスカは照れ笑いをして、そうか!っといった。特別視をされるのは辛いが、根本的に嬉しく思ってるのだろう。
とまぁ、こんな感じに私と彼は普通の友達同士として過ごしていた。
しかしながら、全員が単なる友達同士であることを理解してくれる訳がない。
「夕霧さんって、西連寺くんと付き合ってるんだって……」
「え、いつものお遊びでしょ?」
「いや、マジっぽい感じだったぞ?なんか、いつも横に置いてるし、ご飯も一緒に食べてる」
「何それ……マジウザい。対して可愛くないくせに……」
こんな風に、影口を叩かれることは多々あった。アスカの影響で、決して表だって行動しないものの、裏では地味な嫌がらせをちょくちょくされた。
スクールカーストの中の上、しかもそのリーダーの腰巾着的なアレだった私が行きなりカースト上位に食い込んだのだ。そんな影口を叩かれても仕方がなかった。
「ちょっと、どういうこと?」
ある日、私が自販機でジュースを買っている時に佑実たちのグループにぐるりと囲まれてしまった。
可愛らしいアイメイクを施した勝ち気な目が私をキッと睨みつける。
「私が西連寺くん好きなの知ってるでしょ!?なんでアンタが傍にいんのよ!」
「そうだよ!佑実ちゃん可哀想じゃん!」
「サイテー!」
そんな言葉が飛び交った。一応、佑実にアスカを紹介したことはあったのだが、アスカのお眼鏡には叶わず、キレ気味に『そういうのホントやめろよ』と言われたので、もうやってない。
「それならアスカに言ってよ……アスカとは友達だから」
若干鬱陶しく感じながら、そういってしまえば、佑実はキレて言った。
「ふざけんな!何その態度!? アンタって昔っからそうだよね!?いっつも人の後ろに隠れてさ!それで私は関係ないですぅ…みたいな顔しちゃってなんなの!?どうせアスカ君のことも、その権力目当てなんでしょ!?便利な奴としか思ってないでしょ!」
「うん、そうだよ」
私はアッサリとそういった。ぶっちゃけた話、私にとっては佑実の腰巾着もアスカの腰巾着もそんなに大差ない。
「おい……それ、どういう……」
後ろで、聞きなれた声が聞こえた。振り向くと、アスカが立っていた。
「あ、西連寺くぅん!聞いてよ!この子はね!西連寺くんのことなんて友人なんて思ってないんだよ~」
佑実はニヤニヤしながら言ったが、アスカは私を見るのをやめなかった。
「それ……本当か?」
ちがうよ。さっきのは嘘だよ。私を信じて。私は君の友達だよ。
彼がいって欲しいことは手に取るように分かった。きっと、それを言ったら彼は信じてくれるだろう。その言葉にすがりつくだろう。
「本当だよ」
けれど、もう私は色々と疲れてしまったのだ。
得てして、西連寺アスカという後ろ楯を失った私は、カーストを真っ逆さまに落ちていった。
「ねぇ、聞いたー?あの子ってさヤッパリ打算で近づいたみたいだよー」
「アスカを裏切ったんだろ!?スゲーひでーよな……」
「ブスが調子に乗るからだよ……」
どうやら、噂では私は西連寺くんを裏切ったことになっていたらしい。みんな大好き西連寺アスカを傷つけたから、当然のこととして、いじめにあうことになった。
無視は当たり前、靴は盗まれるし、体操服はズタズタ。暴言吐かれるし、椅子に糊つけられたこともあった。
私が尤も恐れていたことだった。小さい頃から、そんな立場に成りたくなくて、人の顔色を伺っていたのに……
人は、簡単に人を傷つけれる。それに例外は存在しない。
「けれど、不思議だな~……」
何故か、今の底辺の方がものすごく楽に思えた。
というよりかは、物凄く呆気ない感じだ。私が怯えて、恐れていたものは、意外とこんなものだったんだなという落胆。
「……髪……切ろうかな……」
人と目を合わせたくなくて、伸ばした前髪をつかんで私は呟いた。
次の日から、私は長ったらしい髪を切り、金髪にした。ピアスを開け、スカートを短くし、制服を着崩すしまくった。
「ちょ……何あれ……」
「夕霧さんだよ……」
「嘘でしょ……」
学校に登校すると、ヒソヒソ声が聞こえた。けれど、もう私は何も気にしなくなっていて、周りはいきなりのイメチェンを果たした私を遠ざけていた。
「ちょっと何~?アンタ、イメチェンのつもり?ぶっちゃけ似合わないんですけど~…つーかー、アンタって意外と目が釣って……」
パシン!
私に手を伸ばそうとした佑実の手をはたき、私は睨み付けた。
「……っな……何よ……」
「私、佑実のそういうとこ大嫌い。嫌なことしか言わないんだったらもう話しかけないで」
「……っな……何よ!打算で西連寺くんの友達やってたくせに!何言い返してんのよ!!」
「佑実には関係ない。ただアンタはそういって八つ当たりがしたいだけ。私のことが嫌いなら……もう、関わらないで」
バシン!!と、私は佑実の頬を叩いた。佑実は訳が分からないといった顔をしながら、状況を理解し始め、涙目になる。
私は佑実を拒絶した。
「……っ……あーもう!やってらんない!」
佑実は涙を流すのだけは、必死に耐えて教室を出ていった。
「こ、こえ~…」
「あの子、あんな性格だっけ?」
「関わったらヤベーよ……」
その日から、私はいじめられなくなった。詳細にいえば、関わろうという人がいなくなった。
それでいい。それが一番、誰も傷つけられなくて済む。
その後、模範生のレッテルが外れて大体2週間くらいがたった。先生たちは驚いていただったが、いじめの事実をある程度理解していたので、私がグレたと解釈したのだろう。
もっとも、模範生はやめたが優等生ではあるので、余り干渉はしてこない。先生だって人間だ。生徒で解決してくれるなら、関わりたくないだらうし、こっちも関わって欲しくない。
「雨か……」
ザーザーと台風一歩手前の豪雨がふっている。他の生徒は先に帰り、雨が止むまでまっていた私だけは玄関で外を見ていた。
「止みそうにねーな……」
「西連寺くん……」
いつの間にか横に西連寺くんがいた。よく考えると久しぶりに話したと思う。
「一応確認すっけど……お前、聖愛?」
「そうだよ」
「スゲーな、その髪……後、意外と身長デカいし、目も釣ってたんだな」
「君みたいにデリカシーのない人間がいたから、隠してたの」
「今のお前、結構好きだぞ」
「そう?私は意外と嫌いだよ」
「じゃあ、何でそんなんになったんだよ」
「嫌いだけど……酷く楽だったから」
「変なの」
「君の赤メッシュの方が変なの」
意外な程に、私は彼と喋れていた。もっと怖いものだと思っていた。きっと、彼は私を責めるし、私はそれを受け入れると思ってた。
けれど、実際は彼は私を攻めないし、私も案外反論している。
「俺……聖愛のこと、何も分からなかったんだな……」
「分かって欲しくなかったんだから、当たり前だよ」
分かってなんて、欲しくなかった。
本当の自分なんて、大嫌いだったから。コンプレックスが沢山あって、恥ずかしくて、釣った目とか、実は高い身長とか、本当は皆を見下していたこととか……
知られたくなんて、なかった。
「俺たち、友達じゃ……なかったのか?」
「私は西連寺くんを便利な奴だと思ってたよ。権力者の横にいるのって安全だから。あの時の私は、とにかく安全を求めてたから」
「そっか……じゃあ俺たちは友達じゃなかったんだな……」
悲しそうな声が、響いた。
冷たい雨の滴が、こちらへ入ってきて、湿気る皮膚が体温を奪う。
「西連寺くん……ごめんなさい。あの時、佑実の噛ませ犬として、友達に成りたいといったの。その後は、安全だからいただけだった」
私は頭を下げる。
「俺もごめん。聖愛がいじめられてた時、俺は何もしなかった」
「しないのが、当たり前だよ」
さて、これで彼と私の関係は何も無くなった。
友達という関係もなくなり、更には被害者と加害者という立場も、今の謝罪でなくなった。
もう私たちは、何の関係もない。ただの他人なのだ。
「あ……雨が止んだ」
その言葉を聞いて、上を見上げると確かに雨はやみ、綺麗な太陽がキラキラ輝き、それはまるで西連寺くんのようだった。
「じゃあ、私帰るね……」
私が玄関を出ようとしたとき。彼
「あんさ……一緒に……帰ろうぜ聖愛」
私の横でそういった彼の顔は、太陽のように綺麗な、少し照れが入っている笑顔だった。
「うん。帰ろうかアスカ」
私も笑顔で承諾し、二人で雨あとの道を帰っていった。
私たちの関係は友達じゃなくなって、そもそも友達じゃなかったかもしれないけど……
これから、ゆっくりと進み、それから始まっていく。
矛盾だらけで、恥ずかしくて、はがゆくて、秘密があって、知りたいような知りなくないよう、醜くて美しい、全然珍しくも凄くもないもの……
それがきっと、私たちが求めていた『本当』の何かなのだろう。
夕霧 聖愛
基本的に長いものには巻かれる腰巾着タイプ。安全さを求めて怯えていたが、意外と大丈夫であることを知り、吹っ切れる。釣り目と高身長がコンプレックスだったが、今は気にしていない。
西連寺アスカ
人気者で、スクールカースト上位だが、対等な友達がいないことを悲しんでいた。聖愛のことは対等だと思っていたので、ショックを受けたが、また新しく関係を始めようとする。
因みに、聖愛には好きな人がいるし、アスカは沢山の恋人がいます。