エントリツァーナ
エントリツァーナとサラ
「エントリツァーナ、気分はいかが?」
『元気だよ』
「エントリツァーナ、今日の予定は?」
『いつも通りさ』
「エントリツァーナ、今日もりりしいねぇ」
『あたり前だね』
その黒猫の名前はエントリツァーナ。
おかしな名前だと皆は言うけれど、彼のように美しい猫を私は見たことがない。
『サヤ、今日はお魚の焼いたのをちょうだい』
そして、彼ほどかわった猫もいないと思っている。
『サヤ。ねぇ、ごはん!』
「はぁい」
エントリツァーナは黒猫だけど、人の言葉を話すのだ。
でも、それでも猫なのである。
『ぼくは次の王さまになる猫なんだぞ!』
「エントリツァーナは猫の王子さまなの?」
『ぼくは、王さまの息子ってわけじゃないけどね。ぼくたちネコは皆妖精で、サヤの知らないところに大きな大きな国があるんだよ』
「ふぅん?」
大家のおばさんが家に来てりんごのパイを一緒に焼いてくれたのは、少し寒い春のこと。
「ねぇ、町でおかしな話を聞いたんだ。なんでも猫の王様が死んでしまったんですってよ」
火を入れていない暖炉の上に丸まっていたエントリツァーナががばりと飛び起きて、大きな声で大きく叫んだ。
『なんだって、それじゃあぼくが次の王さまだ!!!』
言うが早いが、エントリツァーナはぴゅうと外に飛び出して、そのまま帰ってこなかった。
1年待っても2年待ってもエントリツァーナは戻ってこない。
「君、いつまであの喋る猫を待ってるの。僕の家においでよ。猫はそこで待てばいい。結婚しよう」
あぁ、エントリツァーナ。もうすぐここを、私も出て行かなければならないみたい。
結婚式の日、猫を恋しがる花嫁にプレゼントされたのは青い瞳の真っ白な猫だった。猫はにこりと笑ってこう言った。
『エントリツァーナが言ってたよ。サヤはとってもいい人だって。ぼくはエントリツァーナに言われて来たんだ。おめでとう、サヤ。エントリツァーナと猫の国の祝福を、花嫁に!』
エントリツァーナはサヤのことを忘れてなんかいなかった。
エントリツァーナは大きな大きな猫の国の王さまになったけど、サヤの焼いてくれた大きなお魚は猫の国には無かったし、あの日食べそこねたりんごのパイが食べたいなぁとずっと思っていた。
『ぼくの名前はトラッドウッド。エントリツァーナのこどもだよ』
だから、子どもはサヤに預けることにした。
エントリツァーナは王さまになってしまったから、もう猫の国から出られない。
『だから、代わりにお前、サヤのりんごのパイを食べておいでよ』
『おとうさん、サヤってだぁれ?』
『ぼくにご飯をつくってくれたニンゲンさ』
エントリツァーナは、サヤのことが大好きだったのだ。




