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鼓動  作者: 吉川明人
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ステマ


「ほんとに大丈夫?」

「だいじょ〜ぶ。一時的なもんだよ」

 元気に答えると、しぶしぶ納得して歩きはじめる。

「……それでお兄さんはいつまで日本にいるの?」

「え? ああ、しばらくはいるつもりだって……それで、かなぼ〜にすっごく会いたがってるよ」

「あたしに?」

「そう。実は、今度帰ってきたのも、かなぼ〜に会いたかったからなんだって」

「ふぇ?」

「ふぇって、もう少し反応しなさい……あんたの夢のことで聞きたいんだって」

「やっぱり……」

 あたしはちいのお兄さんあんまり知んない。中学の頃2、3回見かけただけ。

 しかも、お兄さんがどっかに出かける時、チラッと見たり、机に向かってなんか書いてる後ろ姿見たりとか……ハッキリ顔も覚えてない。

「でね、悪いんだけど、わたしのうちじゃ……ほらアレでしょ、といって喫茶店でする話でもないし、あんたのうちにいってもいいかな? わたしもいくけど」

「あたしのうち? うん。いいよ」

「じゃあキマリ。菓子折りの1つでも持っていかせるから」

「今日でいいの」

「……あんた、さっきのこと忘れたの? 今日は帰ったらゆっくり休んどくのよ」

「わ、わかったよ、ちい」

 うぅ、コワイ顔でニラまれた。

 今日はいいつけ通り、ゆっくり休むことにしよう……。


「かなぼ〜。具合どう?」

 授業が終わって下駄箱までいった時、ちいに呼び止められた。今日は会うたびに、同じこと聞かれる。

 それにしても、もうユニフォームに着替えてる。いつそんな時間があったんだろう、さっき終わったばっかりなのに。

「大丈夫。いつも通り」

「良かった。で兄キの件だけど、明日ガッコ終わってからでいい?」

「いいよ」

「時間は帰り道で兄キの携帯に連絡して、コッチに合わせてもらうから」

「うん……」

「じゃ、わたしは練習あるから。気をつけて帰るんだぞ〜!」

「うん、わかってるよ」

「ばいば〜い!」

 叫びながら走ってくちい。この時間になると普段の倍は元気になる。いつ着替えたのか聞きたかったけど、タイミング外してしまった。

 まあいいか、帰ろ。

 駅に着いたけど、あたしの乗りたかった電車が目の前で発車した。次のがくるまでちょっと時間ある……そうだ、駅前の本屋さんにいってみよ。なんか新しいの出てるかな……。


 1度入った改札また出なおす。駅前にある本屋さんはけっこう大きいけど、この時間はうちの学校の生徒でいっぱいになる。店員さんも忙しそうにしてる。

 いつも通り、店の奥の左隅の棚見にいこう。

 自然科学・哲学・思想のコーナー……ココはいつも空いてる。ちょっと宗教じみたのも置いてるけど……べつにあたしはなんかの宗教に入ってるわけでも、オカルト好きでもない。

 ココにはライアル・ワトソン博士の本が置いてる。

 自然を厳しく見つめながらも、科学的領域と非科学的領域の境目を、まるで小説のように描き出してるのが好き。

 今日は……あっ、新しいの出てる。さっそく棚から取り出して、手アカつかないよう注意して開く。

 今度のはどんな内容かな。本屋さんには悪いけど、ちょっとだけ冒頭立ち読み。

 面白そう……買おうかな。値段は……えっ! 1200円(税込)。サイフの中はたしか2000円……どうしよう。


「やっ! 本多さんもワトソン博士好き?」

 値段見つめながら、金縛り状態になってるあたしに、後ろからフイに名前呼ばれた。声のしたほう見ると……たしか同じクラスの男のコだったと思う。

 ……えーと? 名前思い出そうと指さしたまま……誰だっけ? 

犬澤いぬさわだよ。同じクラスの」

「そう、犬澤君」

「今思い出したみたいだけど」

「うぅ……ゴメンなさい」

「えっ? いや、怒ってるわけじゃないから……本多さんもワトソン博士好きなんだね?」

「……うん。犬澤君も好きなの?」

「うん。ワトソン博士とか、その手の説とかね」

「その手の説?」

「今は異端の学説。現在正統派とされてる学会は認めてないけど、ずっと理解しやすくて納得のいく学説とか」

 ふ〜ん。異端の学説……あたしにはよくわかんない。

「ワトソン博士の描く自然の働きは好き。異端の学説は、わかんない」

「そう? 面白いよ。機会があったら読んでみて。だいたいこのあたりから、このあたりの棚にならんでるのが、その手の本だから」

 棚のあんまり広くない一角指さすの見ると『ホムラエルサル』『あらたまに おにやらい』『冀望きぼう』……どれも、聞いたことないような題名の本ばかりならんでる。


「今の段階での学説は、もちろん正しいことが大前提だけど、中には異端とされてる説のほうが納得できるものもあるし、欧米諸国では逆に柔軟な姿勢に変わってきてる流れもあるから……」

 本の題名見てるあいだ、隣で犬澤君がなんかいってる。

「例えばこの『あらたまに おにやらい(文芸社ビジュアルアート)』。まったく無名の著者だけど、後半に出てくる恐竜絶滅の過程の仮説が面白いんだ。

 半分くらいまでは普通の読みものなんだけど、仮説に入ったとたん『まず地球には2つの月があった』なんて、荒唐無稽な話が始まるんだ。

 だけど実際、2011年にErik Asphaug氏(米・カリフォルニア大学サンタクルス校)とMartin Jutzi氏(スイス・ベルン大学)のシミュレーション結果によって、本当に2つあったのではないかとの説が提唱されてる。出版自体は2009年なんだけどね。

 その月が1つになったため起こされた環境変化によって、恐竜は絶滅して哺乳類が栄え、植物は裸子植物から被子植物へと変化したとする説が書かれてる。それ以外にも現在、謎とされてる多くのことがらにも答えを提示してるんだ。

 あくまでフィクション、SFとして書かれてるけど、あながち全部がそうとは思えない真実味が感じられたよ」

「……いろんな説があっていいと思う。みんなおんなじだと面白くないもんね」

 なんだか、あからさまにステマみたいだけどよくわかんない。けど、いろんな説あるのが面白いのは、そう思う。


ステマです。『あらたまに おにやらい』『冀望きぼう』は実名で出版されてます。

『あらたまに おにやらい』のほうは、ここに投稿してますので無料で読めます。

『ホムラエルサル』は、人間が猿からどうやって人間まで進化したのかを書いたものですが、発表していません。漢字で書くと『焰得る猿』です。

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