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鼓動  作者: 吉川明人
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特別


「おはよう佳那」

「おはよ、お姉ちゃん。今朝はどうだった? やっぱり見たの?」

「おはよ〜。今日も見たよ」

「佳那ちゃん、大丈夫? 本当に」

 昨日は笑い飛ばしてたお母さんも、さすがに心配になってきたみたい。

「だいじょうぶ……だと思う。ほんとに。眠いだけでストレスとかなんにも思いつかないし……」

「お姉ちゃんは、そのへんは本当に大丈夫そうだからね」

「へへ……あたしもそう思う。でも寝不足だから、明日の日曜日はお昼まで寝ようかな?」

「しょうがないわねえ、まあいいけど」

「ほんとに? やった!」

 めずらしい。絶対だめだと思ってたのに、いってみるもんだな。

「さあ! それより、早くしないと遅刻するわよ」

 お母さんのゲキが飛ぶ。今朝もギリギリで出かけた。


 日曜日。

 昨日の約束通り起こされなかった。

 やっぱり4時に起きて、ほんとは学校いく時よりも30分くらいたった時間には目が覚めてて、お父さんの『具合悪いのか?』って心配してる声とか聞こえてたんだけど、朝寝坊の心地良さにひたってた。

 10時30分頃になって、そろそろ寝てること自体だんだんイヤになってくる。う〜ん、そろそろ起きようか……。

「おはよ〜っていうか、おそよ〜」

「佳那ちゃん、よく眠れた?」

「ありがと、久しぶりに頭がスッキリした」

「えっ! お姉ちゃんの頭でもスッキリするの?」

「そりゃそうだよ。よく眠ったもん」

 紗弥のノリにはつき合わない。

「ほら、起きたんなら着替えてらっしゃい」

「はぁい」

 今日の『この服にしよう気分』はジーンズ。これと、淡い色の麻のシャツに着替える。

 このパターンはけっこう気に入ってて、あたしにとって基本パターン。スカートは嫌いじゃないんだけど、なんとなくスカスカしてて好きじゃない。たしかお母さんも、めったにスカートはいてるのは見ないし。あっ、紗弥も私服であんまりスカート持ってない……これも遺伝かな?


「佳那ちゃん、お昼ご飯食べる?」

「え、お昼ご飯?」

 うちは昔から、朝と夕の1日2食しか食べない。お父さんの家系がそうだったらしい。

 お母さんも最初のうちはとまどったそうだけど、だんだんお昼ご飯のこと考えなくていいから、楽になったっていってた。

 あたし自身、幼稚園に入るまでお昼ご飯の存在自体知らなかったから、『なんでこんな時間にご飯食べるんだろう』って、びっくりした覚えがある。

 初めのうちは、あたしだけ取り残されてる気がして、お母さんにムリいってお弁当作ってもらってたけど、なんだかおなかモタレて気持ち悪いから結局食べないことにした。

 小学校は給食だったけど、あたしは食べなかった。そのせいで、たぶん最初の頃イジメられてたんだと思う。『たぶん』っていうのは、イジメられてること意識してなかったから……いくらイジメてもあたしが気づかないから飽きたみたい。

 そのあとは思いあたることもなく、ごくふつうに卒業した。

 気づいたのは中学生の頃。ニュースで騒ぎ出すようになって初めて『あぁ、あの頃そうだったんだぁ……』ってわかった。

 紗弥は、ぜんぜん平気だったらしい。『文科系ちい』のノリの紗弥には誰もかなわなかったみたい。

 引っ越す前ちょっと聞いてみると『やっとクラスの3分の1まで引き込んだのに……』って悔しがってた。

 ともかく、お昼ご飯って言葉自体、あたしのうちでは死語になってる。今のあたし自身おなかはペコペコだけど、夕ご飯までガマンしようって思ってたとこ。


「……そうね、今日は特別。早く治しなさいよ」

「はぁい」

 いたずらっぽく笑うお母さんに返事したけど、原因がわかんないから、どうしようもない。

「こんな時間だから、このくらいの量でいい?」

「うん。ちょうどくらい」

 お母さんが出してくれたお茶碗には麦ご飯が半分くらい、それにナスのお漬物が3切れ。

 朝だとお茶碗8分目のご飯とお味噌汁と漬物に決まってる。夕ご飯も同じくらい。

 このこと人に話すとみんなびっくりする。でも、家族みんなこの食生活してるし、お父さんでもこれで充分だっていってる。

 体調はスゴくいいし、あたし含めて風邪程度の病気でも、前にいつひいたのか覚えてない。


 おなかもちょっとひと心地。それにしても、今日はいい天気。どっかいこうかな……ちい、うちにいるかな? 電話してみよう。

「あ……ちい? あたし。今日どっかいかない?」

「ごめーん、かなぼ〜。あのね……」

 電話に出たちいは、急に声落としてヒソヒソ話す。

「……実は今日、例のバカ兄キが日本に帰ってきてるって連絡があったんだ。それで親にナイショで会うことになってるの。久しぶりだから、わたしも会いたいし。ゴメンね」

「うん。それだったらお兄さんのほうにいかないと。でも両親にナイショってなんか寂しいね。仲直りできないのかな……」

「まあ、いろいろあるっしょ。わたしもそれなりに努力してるから……。なるようになるしかないってもんよ」

「そだね。じゃ、また今度」

「ん。ほんとにゴメン」

「いいよ、気にしなくて」


 ……う〜ん。

 電話切ってから、しばらく考える。どっかいきたいっていっても、特に目的ない。今のとこ、ほしい物もないし……といって1日部屋でボ〜っとするのは好きじゃない。

 めずらしく今日は宿題もないし。とりあえずキッチンいってみよう。

「お母さん、なんか手伝うことない?」

「えっ? そうねぇ……残念。今のところないわ」

「ないの?」

「夕飯前になったらお願いしたいことは出てくるけど、今のところは本当にないわ……」

 どうなったんだろう。今日にかぎってなんの予定もない。しいていえばお昼まで寝てる予定だったから、ほかの友だちともなんの約束もしてない。

 あ、そうだ。公園で本でも読もうかな。


「お姉ちゃん、ヒマだったらちょっとココ教えて」

「ん……どれ?」

 差し出したノートは、英語の翻訳。

「ココだけど……参考書見てもなんかよく分からないの……」

「ふ〜ん……あ、これちょっとややっこしいよ、ほらココの前置詞が……」

「あっそうか! だからこの単語を利用してるのか」

「そだよ。文法的にはこのほうが相手にわかりやすく意味が伝えられるんだよ」

「ふーん……」

 あたしは紗弥の勉強につき合うことにした。

 以前はよく見てあげてたんだけど、最近は紗弥が1人でがんばってたから、あんまり見なくなってたな。

 今日はゆっくり勉強につき合おう。


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