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鼓動  作者: 吉川明人
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お布団


 あたしは日本史好きで得意なんだけど、同じくらい東南アジアの国々にとっても興味ある。

 まだ高校生だから、夏休みとかで暇はあってもお金ないから店先に置いてある旅行パンフレットもらってきて、ながめながら『イイナ〜いきたいな〜』って思ってるだけ。

「ダメダメ。あんたはボ〜っとしてるうちに、お金なくなって終わっちゃうでしょ」

「大丈夫。あたしがいく時は、ちいについてきてもらうから」

「わたしは保護者か……」

 大きなタメ息つきながら、嬉しそうに笑ってる。

「あ、そうだ。昨日いってた夢、また今日も見たよ。やっぱりあんまり覚えてないけど、同じ夢だったと思う」

「ふ〜ん。また? でも内容が分かんないと、どうしようもないっしょ? なんか覚えてる?」

「それが……断片的には覚えてるような、覚えてないような……」

「頼んないねそれじゃ。なんか覚えてたら夢占いでかなぼ〜の深層心理が分かるのに。ひょっとして好きなやつでもできたかぁ? 白状しなさい!」

「ちがうよぉ、そんなんじゃないよ」

 嬉しそうに攻撃してくるけどほんとに違う。

 反対にあたしはちいの好きなコが誰なのか知ってる……自分から教えてくれたから。

 でもそれからどうなったか聞いてない。

「でも、そこに出てくる紋章みたいな、図形みたいなのだったら、ほんのちょっと覚えてるよ」

「へ〜、どんな図形?」

「ん〜と、ココじゃ説明しにくいから、学校着いたらノートに描く……」


 学校に着いたあたしは、さっそくちいに図形の説明。

「……でね、こんな楕円が2つくっついてるみたいなのからこ〜んな棒が3本ずつ曲線で伸びてて、それから……」

 電車の中でうろ覚えだった形も、実際にちょっとずつ描いてるうちに、だんだん思い出してくる……ような気がする。

「だいたいこんな感じだったと思う」

「う〜ん……」

 うなったままちいはじ〜っとあたしの描いた図形に見入ってる。

 ちいにしてはめずらしい。

 見たとたん、なんかいうと思ってたのに。

「どしたの? ちい」

「…………」

「ちい?」

「……なにかで、見たような気がする……ような気がする」

「なにそれ?」

「あははっ、分かんないや。どこかで見たような気はするんだけど、いつだったか、ほんとにそうだったか、さっぱり思い出せないわ。あ、でもなんか思い出すかもしれないから、これ、もらっといてもいい?」

「うん。あたしは覚えてるから、ちい持ってて」

 結局手がかりなし。


 その日、1日中なんとなく落ち着かない気分が続いた。

 こんな時はついてない。

 1週間前に出てた英語の宿題のことすっかり忘れてた。

 美術の時、絵の具のおしりのほうから中身が飛び出してきて思いっきりスカートにかかって、急いで洗ったけど染みが残ってる。

 体育の時間にグラウンドで思いっきり転んで、膝すりむいた。

 帰り道でカワイイ茶色の小猫がいたから抱き上げると……実は白ネコだった。

 制服上下、クリーニング。

 うちに替えがあったのがせめてもの救い。


「……ほんとに今日はついてなかったな……」

 夕ご飯の時、思わずつぶやいた。

「本当、フツー白ネコと汚れてるのは見間違わないよ」

 紗弥がつっこんでくる。

 うちに帰ったあたしのカッコと話聞いて、なみだ流しながら笑われてしまった。しかも汚れてる部分指さして、『ちゃんとネコ拓がとれてる』とかいって、30分くらい止らなかった。

 お母さんは怒るよりあきれてた。最後にはネコ拓で笑い出して、お父さんもおんなじ。

「それだけじゃなくて、今日はいろいろあったの」

「白イヌも抱いたの?」

「ちがうって」

「まあ、普段からボ〜っとしてるお姉ちゃんが、朝の4時頃に起きてたんじゃ、いつもよりず〜っとボ〜っとなるからね」

 このコ、今日はいいたい放題。

 だけど嬉しそう……なんかいいことでもあったのかな。


「でもあたしが朝起きてるの知ってる紗弥も、その時間に起きてたってことでしょ?」

「違うよ、わたし気配に敏感なの。なんか物音したらすぐ目が覚めるの」

「眠りが浅いんじゃないの? そんなのが続くとからだこわすわよ」

「大丈夫だよ。わたしもともとこうだから」

「あら? 赤ちゃんの時、横でどんなに騒いでも気にしないで寝てたわよ。逆に佳那はスゴく神経質だったんだから」

「えーっ、信じらんない。このお姉ちゃんが?」

 夕ご飯の話題が紗弥とあたしの赤ちゃんの頃の話に移ってく。

 いつもは女ばっかりの会話に、なかなか入りづらそうなお父さんも、今日は一緒になって話した。やっぱり嬉しそう。

 ついてないように思ってた今日も、意外にいい日だったのかもしれない。



 ……違和感。

 また、この夢。

 そして4時。


 紗弥、起きてるかな。

 しばらく様子うかがって見たけど、紗弥の部屋からはなんの気配もしない。

 ゆうべの紗弥、寝る時までハイテンションだったから今ごろぐっすり眠ってるんだろうな。

 考えてみると、進学のことでずっと1人で悩んでたのなくなって、スッキリしたのかもしれない。

 あのコ、たしか以前はあんな性格だったと思う。どっちかっていうとちい似の文化系派って感じ。

 とりあえずお水1杯。ちょっと落ち着く。

「今ならけっこう覚えてるな……今のうちに書いとこ……」

 さすがに3日目となると、記憶してるとこも多くなってくる。

 机のあかりともしてノート取り出す。さっき見た内容、覚えてるかぎり書こうとしたけど……。


 ……書けない?  内容はちょっと覚えてるし、理解もできる。でも、言葉として浮かんでこない。なんか書こうとすると、たちまち頭の中に白い霧が立ちこめる。

 しばらくなんとかしてなんか書こうと苦心してみたけど、唯一ハッキリ思い出せるのがあの図形だけ……。


 あきらめよ。これじゃしょうがない……。

 ベッドに潜り込むと、さっきまでの温もり残ってる。汗かいたまま机に向かってたから、ちょっとからだ冷えたみたい。

 でも、もうお布団から出る気ない。

 風邪ひかなきゃいいけど。


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