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鼓動  作者: 吉川明人
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まだ


「ちょうど4時頃かな、急にからだが押し潰されるような感覚になって気を失って……気づいたら本多さんに起こされてた。

 なにが起きて、どうやって移動したのか詳しいことはこれから考えるけど、オレにしろ本多さんにしろ、どっちもギリギリで生き延びたんだと思うよ」

「……うん……あたしもそう思う」

「それと今朝の地震のことは聞いた? 震源地はこの沖から海上3.8キロ、地下48キロ地点だそうだよ。ピッタリ同じ数だね。それにマグニチュードは2.8。偶然とは思えない、楽しすぎる」

 3時8分と4時8分……ホント、コワイくらい。

「……でも2.8ってなに?」

「ヤクート共和国の今朝2時の気象情報……時差のぶんね、ちゃんと出てるよ。この季節には見られない一時的な暴風が吹いてる。

 『二八三八四八』……『2つ分かれた 身が開き この世新たに開かれる』って。暴風の詳細データはまだ入手してないけど、たぶん想像に固いよね」

 ……やっぱり、よくわかんない。

 それより……なんだか足の下から鼓動が感じられる。

 あたしの心臓もそれにあわせて鼓動しはじめて、頭のずっと奥から、白い霧と一緒に、あの時のこと思いだされて……意識が、遠のいて、く……。


 ……押し潰されたと思った司祭は、瓦礫の隙間に挟まれかろうじて一命取り止めてた。

 ……逃げてた司祭の1人が残った司祭助けようと引き返してきたとこに、さらに巨大化したゼラのからだ押し寄せる。

 ……さらにその2人助けようと、3人目の司祭が駆け寄る。

 みんな知ってる顔。

 死なせたくない、失いたくない!

 早く出て! 早く目覚めて!

《チガウノ……》

 頭に声が響く。巨大化したゼラから……。

《ソレガ、ジャマシテルノ……》

 あ……そうか。そうなんだ……。

 死なせたくない気持ち。

 失いたくない気持ち。

 あたしの気持ちが強すぎて、壁になって、ゼラの意識が外に出られなくなってたんだ。

 失うこと恐れる心、あたし自身の気持ちが逆にみんなを危険な目にあわせてしまってた。

 ……ゴメンね。

 今、出してあげるから。

 胸に重ねた手のひらに、そっと意識包んで取り出すと、あれほどコワかったものは、小さな小さな鼓動たててた。


 ……足下の3人押し潰す直前、意識取り戻したゼラは空中に浮かび上がる。心臓のかたちに似た1つの生命体……薄い透明の蝶のような姿してた。

 はるかな上空で、さらに巨大化続けるゼラは、戻ってきた太鼓の打ち手たちの太鼓の連打に、人々の祈りに、そして司祭たちの祈りに送られ、ゆっくりと風景に溶け込んでいき、世界の意識におもむくまま、どこかの空間、次元に向かって旅立っていった……。


 目、さましたのは、公園の出口に向かって走る犬澤君に抱えられてる途中だった。

 ほんのあっという間だったみたい。

 改めて岩の近くに戻って、一緒に海ながめながら今見た夢のこと話すと、黙ってじっと聞いてから『まるで太陽と北風の童話みたいだね』と笑った。

 ……あたしとしては……ううん、犬澤君にしても助けに戻ってきてくれた司祭……天凪君や磐拝君にしても、あとちょっと遅かったらみんな死んでたかもしんないのに、笑いごとじゃない。

 それでも『助かったんだからいいよ』ってやっぱり笑った……。


 


 その日から二度とあの夢見ることなくなった。紗弥との朝のパターンも、もと通りになってる。

 長いあいだ心配かけたちいは、あたしが治ったことしってから思う存分バスケットに集中して、今年のインターハイ優勝して、MVPっていうの授賞した。きっとスゴイことなんだろな……。

 あたしの夢のおかげ(?)で出会った天凪君たちとも、あれ以来ずっと仲良くつき合ってる。ホントにスゴく気の合う仲間になった。チラッと犬澤君が『本屋で声をかけたのは、いずれこうなるって解かってたから、機会を待ってたんだよ』っていったことあるけど、その犬澤君とは……特になんの進展もない。

 ごくふつうの友だちつき合い続いてるし、紗弥がいうような、好きとかそんな感じ、ない。それでも時々犬澤君のうちに遊びにいって、一緒にお料理作ったりしてる。

 あたしもおまんじゅう作るのだいぶうまくなった。もちろん絶対に帰りが遅くなんないよう、時間だけは注意するようにしてる。

 おせんべ作る時は1人6枚にするよう頼んだら笑われたけど、おいしかったから気にしてない。

 1度すごくおいしいお豆腐作って持ってきてくれた時、お父さんがひとくち食べて『これは!』って驚いてた。実際、犬澤君とお父さん話してるの見ると、ホントに知り合いだったみたい。

 ……だけどこっち引っ越してきたの最近だし、引っ越す前にいたとこからはけっこう離れてるけど……。

 作ったものは時々喫茶店のラオムに持ってって、みんなとマスターさんに食べてもらってる。マスターさんはお店の新しいメニューに取り入てくれたりしてスゴく嬉しい。

 そいえば、ライネル博士の最新の著書に、名前は伏せられて内容はあいまいになってたけど、今回のあたしの夢で起きたこと載ってた。

 まだ博士とは直接話したことないけど、犬澤君が知り合いっていったの、ホントにホントだったんだ……。


 ……たくさんの新しい毎日繰り返され、今ではあの夢のこと、言葉通り夢だったんじゃないかと思うことある。

 でもあたしはこれまで以上にボ〜っとしてるっていわれるようになったし、自分でもそう思う。

 こればかりは犬澤君に相談してもどうしようもないから、なにもいってない……。

 ナイショにしてるけど、今ではそのテの知識、あたしのほうが比べものになんないほどずっと豊富に持ってると思う……。

 あの朝、起きた時は気づかなかったけど、日を追うごとにそれは大きく明確になっていって、ついついそっちに気持ち取られてしまうから……。

 ……完全には切り離せなかった。

 ううん。表裏一体のもの切り離すことなんて、最初からできるはずなかったんだ。

 あたしの意識にはゼラの見て感じる世界……ありとあらゆる空間、次元世界からの情景や情報が絶えず送り込まれ続けてる。

 ……夢は見ないけど、見続けてるともいえる。

 それでも、ボ〜っとしてるっていわれるほうが、わかんないことや、わかんない人に出会った時『またボ〜っとして』のひと言で笑って済ましてもらえるから都合いい。

 こっちにいた意識を受け継いでたあたしと、あたしが暮らしてたラサケセスはずいぶん違うから、わかんないこと、まだ多い。


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