岩の上
「……佳那ちゃん、日曜日だからっていつまでも寝てない。起きなさい、朝ご飯の用意できてるわ」
お母さんの声に起こされた。
あれ……生きてる。あたし……。
両手見て、急いで鏡のぞき込む。
あたし……だ。
半信半疑のまま、服着替えてキッチンに。
「……おはよう」
「おはよう、お姉ちゃん今朝の地震知ってる?」
「……地震? ううん、しんない」
「やっぱり。大きくはなかったけど、お姉ちゃんなら気づいてないと思ってた。4時頃あったんだよ」
……その時間は夢のまっ最中……あたし気づくはずない。紗弥に笑われながらテーブルにつくと、いつもの朝食、用意してあった。
座っておはし持った時、1階のポストから新聞取ってきたお父さんが、お母さんになんかいってる。
「マンションの玄関に男のコがうずくまってるらしいわ。救急車呼んだほうがいいかしら?」
「え! どんな人? どんな人?」
紗弥は興味しんしん。
「お父さんの話だと、佳那ちゃんくらいの歳で長い棒を持ってるそうよ」
「うわ、なんか危ない。お姉ちゃんちょっと見にいこうか?」
立ち上がる紗弥。
「やめなさい。もしものことがあったらどうするの」
ふーん。あたしくらいで、長い棒……。
頭の中に電気走った。
「……待って、その人!」
「あ、佳那ちゃん、どうしたの?」
「お姉ちゃん?」
玄関飛び出して、エレベータ待ってる時間もどかしくて階段使う。避難訓練以外使ったことなかったから、息、苦しい……。
入り口には何人かの人集まって、座り込んでる人遠巻きにしてながめてる。
「……すいません、ちょっとすいません」
人垣かき分けて、その人の顔のぞくと……。
「……やっぱり、犬澤君」
反応しない、グッタリしてる。
「……犬澤君、犬澤君!」
救急車呼ぼうと思った時、かすかに反応あった。
「ん……ああ。本多さんか……ほら、やっぱり大丈夫だった……」
弱々しいけど笑った……よかった、生きてる……。
持ってた棒はヤツカノノフルナギだった。
ちょっとうちで休んでいくよう勧めたけど、『これを返さないといけないから』って、ともかく駅まで一緒についてくことにした。
電車に乗り込む後ろ姿に手ふって、聞こえないだろうけどお礼つぶやいてあたしも帰途につく。
お父さんとお母さん、紗弥にまで犬澤君との関係聞かれたけど、あの夢に関係してたとしか答えようがない。
もちろんみんな信じてくれなかったけど、反対に彼氏の1人くらい早く作れといわれた……お父さん以外から。
午後になって犬澤君本人から連絡あって、電話に出た紗弥からはニヤニヤしながら『カレから』と、受話器押しつけられる。
「……もしもし、犬澤君だいじょぶ?」
「ちょっと仮眠できたからもう大丈夫。どう、落ち着いた?」
「……うん。でもどうなってるの? あたし途中から意識なくなって……」
「とにかく無事だったんだ。これでよしとしないと……これからクグラ岩にいこうかと思うんだけど、いかない?」
「……うん。いく」
いきなりの誘い、でもなんとなくいきたい……。
「あの公園の入り口付近で40分後に待ち合わせでいい?」
えーと、これから用意するから……。
「……いいよ、40分後に……」
電話切って、急いで出かける用意。
「あー、お姉ちゃんデートのお誘い? わたし隠れてあとついてってあげようか」
すっごく嬉しそうな紗弥。
「……きてもいいけど、おもしろくないと思うよ」
あたしの答えにつまらなそうにしてた。
公園の入り口には、手に花束……お供え用の持って、先に待ってる犬澤君いた。
「……お待たせ」
「オレもさっき着いたところだよ。いこうか」
クグラ岩に向かって歩きはじめる。
どっちもなにも話さないけど、今度の沈黙は重苦しくない。
「……これで、終ったんだ?」
今日はあたしから話しはじめる。
「たぶんね。今朝の時間を逃すと次の機会まで待つことになるから、少なくとも今の本多さんが生きてるあいだには起こり得ないよ」
「……今の?」
「今朝復活してなかったとすれば、まだゼラは本多さんの意識の中に封じられることになる。
信じなくていいけど、生まれ変わり、輪廻転生しても切り離さないかぎりいつか起こる。10回先か20回先か、何度か転生したあと、また今回のことを経験することになってたと思うよ」
「……また、こんなことになるの?」
できればもう、こんな目に会いたくない。
「それは大丈夫、今回で切り離せたはずから。モンゴルの発掘現場から出てた鼓動、今朝の3時8分、日本だと4時8分『身が開き、世は開く』時間に完全に止まったらしい。祝鎮さんもせっかく調査にきてたのに、残念だったね」
……あの時間って、たった8分間のできごとだったんだ……。
祠の前に立って、2人で二礼二拍手一拝。
犬澤君が持ってきたお花と、ポケットから取り出した小さなペットボトルに入ったお水供えて、も1度手合わせる。
「……結局この岩ってなんだったんだろ」
「知りたい? ちょっとおぶさって」
「……え?」
「上に登るんだ。おぶさって」
繰り返す言葉に、仕方なくいう通りにおぶさると……スゴイ跳躍で、岩の頂上に到達。これが前に天凪君と話してたリミッターの解除なんだろうな。
「ほら、このペトログラフ見て」
岩の表面にはかなり風化してるけど、うっすらあの記号あった。
「アンテナだったんだ。そしてこの穴にヤツカノノフルナギが刺さってたんだよ」
岩には、ちょうど棒刺さるくらいの穴開いてる。
「磐拝君からヤツカノノフルナギを借りて様子を見てたんだ、玉はないけどできるだけ元の状態に戻しておこうと思ってね。
モンゴルの祭壇跡を中心に、直線に線を引いたこの場所の反対にあるロシア連邦ヤクート自治共和国にも同じものがあるはずなんだ。祝鎮さんには教えたからいずれ発見されるかもしれない。
鼓動に目を取られて気づかなかったようだね。祭壇付近に吹く風にも一定のリズムがあることに驚いてたよ」
徹夜でココ泊まり込んでたんだ……。




