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鼓動  作者: 吉川明人
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事情

 いきなりちいが大声で叫ぶ。

 あたしはからだ跳ねるほどびっくりして、紗弥も大きく目開いて、くち半分開けたままボウ然としてる。

「び……びっくりしたよ、ちい」

「ほらどっちも、そんなに暗くなってど〜する。さやちゃん、良かったじゃない。あんたのほんとの気持ちかなぼ〜が分かってくれて。

 んで、かなぼ〜。あんたもさやちゃんのほんとの気持ち分かって良かったっしょ? そう思わない?」

 ムリヤリまとめようとしてるのわかってるけど、たしかにそう思う。

「紗弥のほんとの気持ち、わかって良かったよ」

「……お姉ちゃん……」

「そんじゃ、分かって良かったお祝いに、これも開けるとするかぁ」

「あ……ちい、そのみかん大福、明日、先輩にあげるんじゃ……」

「いいのいいの。せっかくのみかん大福だもん。ワイロなんかで食べられるよりお祝いで食べてもらったほうが、ずっと幸せってもんよ」

「でもそれだと明日、ちいちゃん先輩に怒られたりしないの?」

「大丈夫。今日は休むってしかいってないから。ほら、もう開けちゃった」

 ちいは2個ずつあたしたちにくれる。

「ちょっと、これだとちいも2個じゃない」

「そうだよ、ちいちゃん。1個返すよ」

「ええい! わたしにそんな気を使うんだったら、自分の姉妹に気を使いなさい! その1個はこれからなんか気まずいことがあってもみかん大福 1個ぶんだけ相手の気持ちを考える余裕を持つようにとの、わたしからのせめてもの親心じゃありやせんか。ささっ、グイッとやってちょうだいな」

「……ちい」

「なにかね? かなぼ〜」

「これ600円だよね……1箱」

「……あははは……」

 紗弥の乾いた笑いが遠くで響く。

「てえい! せっかくキメてる時にこの子は! コノコノ!」

「キャハハ……! ちい、やめてぇ、キャンディー1個ぶんの思いやりはどしたの」

「その言葉、ぜぇ〜んぶあんたに返したげる。エイエイ!」

「やめて! キャハハハ……」

 ひとしきりちいの攻撃受けてから3個もらった。

 なんか真面目なこという時、ちいの口調は時代劇風になる。普段も時々なるけど、テレてる時はちょっとぎこちない。


 大福食べながらしゃべってる時、チラっと紗弥と目が合った。紗弥はあわててそらしたけど、なんかこれまでと違うやさしい目になってた。

 その夜、紗弥は両親に説明した。

 最初はあんまり聞きたがんない様子だったから、あたしは思い切って大声で叫んだ。

「沙弥の将来のことなんだから! お父さんもお母さんも、ちゃんと話聞いてあげて!」

 ちょっとだけちいのまね。これまでこんなことしたことないから、2人とも、紗弥までびっくりしてた。でも1番びっくりしたのはあたし。

 一瞬、家族全員がポカンとした。

「……佳那ちゃん?」

 お母さんが不思議そうな顔して尋ねる。

「……あたし、こんな早くちでしゃべれた……」

 紗弥が爆笑して両親もつられて笑い出す。そのあと紗弥の話にも納得して、応援してくれることになった。



 ……太鼓の音。

 変わることない音階と同じ調子が、ものスゴイ音で繰り返されてるのに、その音だけしか聞こえないことで、完全に音がないように思える空間。

 そして強い違和感。

 目が覚めて時計見ると、やっぱり4時。

「……また、どっかで見たことある、昨日とおんなじ場所……」

 どっかで見たこと? あれ? なにいってるの、あたし?

 でも起きた直後だから、まだちょっと内容覚えてる。

 まだ、早いって……なにが? わけわかんない。なんだろうこれ。

 とりあえず、ともかく昨日とおんなじにお水飲むため起き上がる。薄れてく記憶の中に、かすかなイメージの断片が甦る。

 また寝すごすかな……紗弥に悪いなぁ、ふたたび押し寄せてくる眠気にからだゆだねた。


 ……目覚しの音が鳴り響く。

 でも起きないわけにいかない。

「……やっぱり、今日も起きるのつらい……おはよ〜、お母さん。沙弥」

 眠い目こすりながらキッチンへ。

「おはよう佳那ちゃん」

「おはよ、お姉ちゃん。どうしたの? 昨日も今朝も4時頃起きてたみたいだけど……」

「……うん。なんか変な夢見てたような気がするの。それで目が覚めて……」

「なにか心配ごとでもあったら、遠慮なくお母さんにいうのよ。少なくともあんたたちよりいろんな経験はしてるつもりよ。特に恋の悩みなんかね」

 こんな時お母さんは頼りになる。

 かなりサバサバした性格だから、中学の頃にもいろんな相談に乗ってもらったりした。でも、あたしはいまだに好きなコいないから恋の悩みは相談したことない。

 ただ気をつけないといけないのは、話が途中なのに思い込みで結論出すことがあるってこと。

 沙弥の進学の件なんてそのいい例……ってことはあたし自身もそう思い込んでたのは、遺伝なのかな? やっぱり。

 うぅ、気をつけないと……。


「そんなんじゃないよ。あたしもよくわかんないの。ただの夢だと思うんだけど……起きるとほとんど忘れてるから、なにが変なのかさっぱり……」

「あ〜、お姉ちゃんぽいね」

「へへ……。ちいにもいわれた」

 ともかく、昨日と同じようにいつもと違うパターンで朝がはじまる。

 ほんのちょっと昨日よりも動きがスムーズのような気がする……たった1日で動きのパターン覚えられるとは思えないけど、とにかくそんな気がした。


「おっはよう! かなぼ〜。さやちゃんの件うまくいった?」

 電車に乗りこんでくると同時にちいが尋ねる。

「うん。ばっちり。お父さんもお母さんも納得してくれたよ」

「オッケー! さっすが、かなぼ〜の親だね。うちとは大違いだよ」

「……? ちいのうちって?」

「あははは! うちのバカ兄キのこと知ってるっしょ? うち出て2年になるけど、親は居場所も知らないんだ。わたしにだけ時々連絡してくれるけど」

「そういえば、そだったね……。お兄さん元気なの?」

「すっごく元気でやってる。大学の授業料も自分で払ってて、その上、今なんか学校休学してモンゴルいってるんだって。どっからそんなお金出てくるのか知らないけど。他人が考えるより、ず〜っと気楽にすごしてるみたいだよ」

「すっごーい! いいな、あたしもそんなことしてみたいな」

 ちいの事情ほったらかしで無責任なこといってしまった。


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