納得?
「……じゃあ、えっと……ワン?」
右手をグーにして天凪君の手にのせると、諏訪内さんが紅茶ふき出しそうになった。
「い、いや。お手じゃねぇ。そんなボケてくれなくてもいいぜ。じっと見ててくれるだけでいい」
あ、そうだったんだ。ちょっと恥ずかしい。
……でもなんだろう? 左手見てるうちにだんだん気持ちが落ち着いてきて、さっき感じてたことが、なんてことない小さなものに思えて来た。
ふと顔をあげると、みんな本当に心配そうにあたし見てくれてる。そっか、あんなこと気にする人はこの中には誰もいないんだ……。
1時間くらいだったけど、みんなと話せたのスゴく良かった。
マスターさんに挨拶してお店てから天凪君たちは祝鎮さんと一緒に電車に乗って帰っていって、1人犬澤君があたしのマンションまで送るために残ってくれることになった。
「不安も緊張もなくなった?」
……やっぱり犬澤君、気づいてたんだ。
「うん……でも神流原さんって、1度覚えたことぜったい忘れない犬澤君よりスゴイなんて、ちょっと不思議。神流原さんもそうなのかな……」
「彼女は本物の天才。満点さえ取らなかったらトップになることはないから安心だよ」
「……え? じゃあひょっとして、犬澤君わかっててトップ取んないの?」
ふつうそういうのスゴくイヤミなのに、犬澤君だとあたりまえみたいに思える……?
「トップなんて取ったら、その日のうちに母さんが近所だけじゃなく、あらゆる親戚中にウワサ広められることになる。
しかも次の日には進学塾に入塾させられる手配まで整えられる……そんな恐ろしいことになりたくないからね」
ほんとにコワそうにいってる。ナルホド、だからイヤミじゃないんだ……。
「それより本多さん自身も気づいてないけど、オレたちが兄弟だっていうなら、それは集まるべくして集まってるんだよ。
チャンネル無線の周波数を合わすようにね。初めて会った時から天凪君たちとはこんな仲間になることは解かってた。いずれ解かることだし黙ってたけどね。
表面に見えてる他人の特殊性にとらわれないで自信を持って。本多さんには本多さんを支えるたくさんの人がいる。今日だけで兄弟が7人も増えたんだから」
あ……その中に犬澤君も入ってたな……。
「だと、いいな……」
「ところで、いよいよ教えようかと思うんだけどいいかな……ゼラの復活する日」
いきなりの言葉に、背中に電気が走って頭から冷水浴びせられたような気になった。
……そんなの……わかってたの?
「夢の話を教えてもらって以来、ほかのテーマすべて中止して情報収集と計算と推測、想像に集中したんだ。過去のあらゆる事例を参考にしてね。
おとといやっと納得できる答えが出たよ。夢を詳しく見るようにうながしたのもそのせいなんだ。心構えができるからね。祝鎮さんにはまだ教えてないし、もし本多さんが知りたくないなら、いわないことにするけど」
うぅ……知りたいけど、知りたくない……でも……。
「あるいはなん日前がいい、前日でも当日でもって、リクエストしてくれてもいいけど、どうしよう?」
そんなリクエストなんて……。
知っておきたい。知るのはコワイ。
その日があたしとゼラの意識切り離さないといけない日。切り離せればあたしはやっと夢から開放される。嬉しいけどコワイ日。
いつの間にか立ち止ってた。
あ……待って! 重要なこと聞くの忘れてる。
「その前に……もし、ゼラの意識切り離すの……失敗したらどうなるの?」
今度は犬澤君が黙った。やっぱりいいにくいんだ……。
2人で道端にたたずむ。
「……どうなるの?」
ちょっとあいだあけて、もう1度尋ねた。
「その場合、本多さんの意識は宇宙的規模のゼラに飲み込まれて、ほんの小さな部分の意識として二度と表面に出ることなく記憶されるか、最悪の場合は消滅する」
まっ直ぐあたしの目見つめたまま、淡々とした口調で告げられた。冷静にいわれたことで、あたしも冷静に聞けた。感情込められたほうがショック大きかったかもしれない。
「明日……とかじゃないよね?」
「そんなに急じゃないよ。でも、それほど遠くもないんだ」
「わかった。返事、明日まで待って」
どっちも真剣に見つめた……マンションまでは、スゴく重苦しい雰囲気のままどっちもひと言も話さないで歩いた。
「気休めかもしれないけど」
別れる直前、犬澤君が話しはじめる。
「今日集まった祝鎮さんを除く7人と、田中さんを加えた8人にあと2人仲間が増えるんだ。
その途中で、すでに集まってる仲間の誰かが減るなんてこと考えにくい。なんのために集まったのか解からなくなるからね」
「集まるって、なにが集まるの?」
「何年か先に現われることになる、ある状況の設計図としての集団の1つ。ゴメン、まだ解かるように説明するわけにいかないんだ。
今は8つの流れで構成されてるものがいずれ10の流れに集まって、それがもう1つの10の流れと合わさって表裏一体になる。
例えばチミンを除く4種類のDNA酵素も新たに1種類増えて5種類になり、古事記に示される二柱の国産み伝説通り、10文字のキーワードで構成されることになる生命現象と、残り2つの最終的に12の流れになったものが存在することになるんだよ」
「……ぜんぜんわかんない」
「とにかくオレは信じてるよ。本多さんなら必ず戻ってくるって」
「そだね、信じるしかないもんね……いろいろありがと」
「とにかく今日はゆっくり、とはできないだろうけど休んで。
ラサケセス側の自分にも慣れて。そっくりだから慣れにくいと思うけど、あくまで本多さん本人じゃないから」
「うん、そっくりっていうなら、いのりちゃんとみのりちゃんのほうがそっくりだからね……」
どう関係あるか自分でもわかんないけど、とにかく納得しておくことにする……。




