苦手
「……で、かなぼ〜。なにがあったの?」
お昼ご飯もそこそこに、パンかじりながらちいが尋ねる。
このあいだからの夢の変化、犬澤君の指摘と説明、対処の仕方なんか……できるだけ詳しく説明。犬澤君の頭のことはナイショ。
「……わたしには分かんないし、犬澤君のいってることがほんとかどうかも分かんないから、なにもいいようがないけど……かなぼ〜!」
ビシッとあたしの顔指さす。
「これだけはいっとくわ! わたしはあんたのこと好きだよ。勝手にいなくなったりしたら承知しないからね!」
くちからパンのかけらが飛んできたのはイヤだったけど、こんなハッキリいってくれるちいには、涙出るほど嬉しかった。
その上、強化特訓があるのに一緒に帰るっていってくれたけど、さすがにそれは悪いから、しぶるちい説得してクラブに送る……なんか立場逆。
でもちいのおかげでスゴくスッキリ。あたしの居場所は少なくとも1つある。それだけがわかっただけでも、スゴく安心できる。
朝きた時とぜんぜん違う気分で校門くぐり、電車に乗って駅降りると、出口あたりに顔知ってる団体が待ってた。
「おーす! 佳那。友だち少なくて寂びしいんだって?」
あたし見つけて、ちいみたいに大声で叫ぶ中の1人……うぅ、恥ずかしい。
「違うよ仁狼ちゃん。佳那ちゃんのことみんなで応援しようって集まったんじゃない」
天凪君たち5人だった。後ろには犬澤君と祝鎮さんもいる。
「みんなに本多さんのこと話すと、すぐ集まってくれたんだ」
犬澤君が前に出て教えてくれる。
「おう、なんかよく分からねぇが、とにかく佳那が大変だって聞いたからな」
ニヤッと笑って、親指立てる天凪君。
「ひとつて! 悩んでる女のコ前にして、あんたはよけいなこといわないの。解決するものも解決しなくなるんだから。ねえ?」
立てられた指ペシッとはたきながら、諏訪内さんが笑いかけてくれる。
……う〜ん。どっちもどっち。
「じゃあ場所変える?」
笑いながら犬澤君が歩き出す。どこいくんだろう、場所っていっても……喫茶店に入るにしてもこの人数はちょっと多い。
それに、あたしの食べられるのかぎられてるし、ファーストフードとかファミレスなんてぜんぜんダメ。
「どこにいくんだ? 修仁」
天凪君が尋ねる。
「ゆっくり休めるちょっとした穴場かな」
犬澤君のあとゾロゾロみんなでついてくと、そこは……って、ココ?
「修仁、ココか?」
みんな拍子抜けしてる。そこは、通りから少し外れたとこにある、入り口がアーチ状のツタがからまった『ラオム』って名前の目立たない喫茶店だった。
「そうだよ。見た目はなんでもないけど、中はすごいんだよ」
そうなんだ。どんなとこなんだろ?
「こんにちは」
入り口から犬澤君が呼びかけると、カウンター奥から店長さん? がにっこり笑って迎えてくれた。
「今日はたくさんですけどいいですか?」
「もちろん、大歓迎だよ。今の時間はお客さんがはけるから、ちょうど良かった」
みんなが入ると喫茶店の半分を占領してしまった。
店の中はやわらかな日差しにあふれてて、自然木を使った内装と、あわい色の景色描いた絵がスゴく合っててて……なんかほっとする。
あたしは今日の主役だからって、奥のテーブルのいちばん窓ぎわの席に押しこめられた。
6人がけの席の隣には神流原さんと天凪君。向かいに御子波さんと諏訪内さん、その横に犬澤君。横の4人がけテーブルには磐拝君と祝鎮さんが座る。
「修仁。せっかく喫茶店に連れてきてくれたんだが、俺はコーヒーが苦手なんだ」
「ふふ……天凪君。この店のコーヒーは、たぶんきみの価値観をひっくり返すんじゃないかな」
「そんなに美味いのか? だったら飲んでみようか。みんなそれでいいか?」
「あ、オレはみかんジュースなんだよ」
「おう、おまえ自分で美味いっていっておいて違うの頼むのかよ。
いやもしかして、価値観ひっくり返すっていうのは不味いほうのことなのか?」
「違うよ。美味しいのは間違いない。だけどオレはここのみかんジュースが好きなんだ」
「紅茶はどうなの、紅茶は?」
「もちろん美味しいから安心して諏訪内さん。マスターはいくらでもムリきいてくれるから。ね、マスター?」
「いくらでも、とはいかないですが」
「ピュアダージリンのウエッジウッドは置いてる? あ、ビルベリーとリンゴンベリーのパフェってなに? 誰か一緒に食べない?」
天凪君と神流原さん、祝鎮さんがブレンドコーヒー。
磐拝君、諏訪内さんと御子波さんがなんか難しい名前の紅茶。
あたしは犬澤君と同じみかんジュース……オレンジジュースじゃなくて、愛媛と和歌山のみかんに鹿児島の島みかん? をブレンドしてあるらしい。
諏訪内さんと御子波さん、神流原さんは1コのパフェを3つに分けた。おせんべとかおまんじゅうは好きだけど、ケーキとかパフェはニガテだから……。
それより、このみかんジュースものすごく美味しい! この味は覚えないといけない。
値段もそう高くないし、今度は家族みんなできて、特にお父さんに味をおぼえておいてもらおう。
「うお! マジでうまいぜ。コーヒーってこんな味だったのか?」
「ほんとだね。仁狼ちゃん。これだとよそで出てくるの飲めなくなっちゃうよ」
「紅茶だって美味しいわよ。こんなのちょっとそこらじゃ飲めないわよ。
それにこのパフェだって、見た目変わったところなんてないのにすっごく美味しい。佳月どう?」
「そう思う。酸味が強いリンゴンベリーがちょうどいいアクセントになってる」
やっぱりみんな美味しいもの好きなんだ。
あたしたちのすぐあとから入ってきた女の人1人と男の人3人のお客さんには悪いけど、しばらく食べ物のことで盛り上がった。
「ねえマスター、この店、こんなに美味しいのにどうして有名じゃないの?」
「忙しいのは苦手で……」
諏訪内さんが尋ねると、マスターさんはにっこり笑う。




