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鼓動  作者: 吉川明人
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問題


「なに? それ」

「あの呪文だよ。『きみの別れも』って。

『きみ』は『君』じゃないんだ。気と身……つまり心とからだを示してて、それが別れてることを表わしてる。

『彼は誰れ近く』は黄昏たそがれ時って知ってるよね?」

「うん。夕方のこと」

「もともと黄昏は『誰ぞ彼は?』からできた言葉で夕暮れ時を表わして、『彼は誰れ』は明け方の暗い頃を表わしてるんだ。

 つまり夜明け。世が開ける時が近い。そして『こ宵再び 会いし遭う』この世でもう1度出会うことになるんだ。

『星々の 巡りきし時 待ち待ちて 共に栄える 鼓動はじめん』長い年月を待って一定の周期が巡ってきた時、こうなることが初めから予定されてたことなんだよ。

 それぞれの細かい説明は省くけどいい?」

 あたしはうなずくだけ。今100万語の説明されても理解できない……したくない。

「心配しないで、本多さん。大丈夫だから」

「大丈夫? ほんとに大丈夫? あたし、わけわかんない!

 どうなるの、あたしどうなるの? 犬澤君なら知ってるでしょ? なんでもいいからわかるように教えて!」

「ラサケセス側が呼び出したがってるのは、本多さんの中にあるゼラの意識なんだ。

 本多さんの意識を残したままそれを切り離すことができれば、本多さんはそのままでゼラは復活することができる。

 そのためには、まず自分の中に存在するゼラを否定しないで認識して。

 これは存在する。そしてあくまで自分とは違うって。自分という概念をより強く持つんだ。自分はココに存在する本多佳那であるって」

「そんな……自分の存在の概念なんていわれても」

 それほど自分のこと強く感じるなんてない。あたしは生まれた時からあたしなんだから……。

「自信持って、自分だけで足りないようならほかの人のことも考えて。自分はこの人たちから必要とされてるって。両親や姉妹、友だちからもね。

 どれくらい必要とされてるか解かりづらいなら、逆に自分にとってその相手がいなければどれだけ寂しいかを考えればいいよ」

 ……お父さんやお母さん、それに紗弥……みんなあたしにとってかけがえのない人ばかり……もちろんちいだし、園美や奈絵だって。

「本多さんが思ってるくらい、相手も本多さんのこと思ってくれてる。

 そんなことないなんて思わなくていいよ。人間はそんなに1人ぼっちが好きなわけじゃない。大切に思ってくれる相手に対して、決して無視できない存在になってしまうからね。

 だからその場所には自分しかいられない。ほかの誰でもない、本多さんの場所なんだよ」

「……うぅ。それだったらいいんだけど……」

「大丈夫、間違いないよ。オレが保証するから。 その日は近いからいつも確認してるように心がけておいて」

 励ましておいて、コワがらせないでほしい。

「さて、かなり遅れてるけど学校いく? それともサボる?」

「うーん。やっぱりいく」

 せっかく出てきたんだし、サボるのは好きじゃない。

「そう、じゃあ途中まで送るよ」

「え? 犬澤君はいかないの?」

「うん。そのつもりで今日はこれから祝鎮さんと、発掘されてる遺跡の経過報告を教えてもらう約束しておいたんだ」

 嬉しそうにニコニコしてる。

「でも今日のぶんの授業、遅れるよ」

「授業ね、大丈夫。どうってことないから」

「でも、あたしのせいで勉強わかんなくなったら悪いし……」

「しょうがない。ココだけの話、誰にもいわないって約束してくれる?」

 あきらめたように、スゴく真剣な表情になって見つめられた。

「う、うん。なんかわかんないけどいわない……」

「自分から誰かに教えるのは初めてなんだけど。本多さんなら教えてもいいかな」

 ……なんだろう? 

「実は高校生レベルの知識ね、小学生のころにすべて覚えたんだ。だから勉強が解らなくなったりすることはないんだよ」

 ……へ? 小学生の頃に高校生の知識? なにいってるんだろう?

「不思議に思わない? 異端の学説が好きで、多少成績がいいとしても、高校生のオレが聞いたこともない世界の呪文とその意味まで理解できたりすること」

 ……いわれてみれば……最初からなんかスゴイってイメージあったからぜんぜん気にしてなかった。

「オレの家系には遺伝的に時々生まれるんだ。

 記憶力がいいとか理解力が早いとか。戦国時代初期の頃に結構有名な人がいるし、お祖父さんもそうだったんだよ。オレは極端にその遺伝の影響を受けたんだ。突然変異といってもいいくらいにね。

 小学3年の時から県の歴史資料館で古文献の解読手伝ってるんだ。今では日本の物だけじゃなくて海外で発見された物もね。日本中の方言と同じように外国のすでに使われなくなった古語含めて、世界中の言語はほぼ理解できるんだよ」

 ……からかってるのかと思ったけど、顔は真剣なまま……どう答えていいかわかんない。

「1度でも見たり聞いたりしたことは忘れないんだよ。

 例えばこのあいだのまんじゅう作り。1度だけ見た職人さんの技でも、頭の中でイメージを繰り返すだけで微妙なからだの動きまで再現できる。

 知識だけなら高校にいかなくてもいいんだけど、高校生活を体験しておきたいから通ってるだけなんだ」

 ……あのおまんじゅう作り見せられたんじゃ、信じないわけにいかないけど……。

「それにオレの頭の中だけどね」

「……うん」

「空っぽなんだよ」

 ……空っぽ? そんなにいろんなヘンなこといっぱい知ってるのに?

「中身じゃないよ。純粋に中のこと。つまり、オレの頭をMRIなんかで撮影すると脳みそが入ってないんだよ」

「……へ?」

「オレがおなかの中にいたとき、母さんがほとんど食べ物が食べられなくてね。かなり未熟児で生まれたんだよ。

 生まれてからも点滴の栄養も受け入れなくて、かなり危険な状態が続いて、精密検査受けたときに解ったんだ。オレの頭の中は、脳みそがあるべきところになにもなくて、右脳も左脳も脳梁もない、大脳新皮質らしき薄い膜がペラッと髄液の中に浮かんでる状態なんだ。

 普通は生きてられないはずなんだけど、このとおり問題なく生きてる。問題ないっていうのは間違いかもしれないけどね」

 いってること、わかんない。


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