内包
「そ、それはそれでいいかもしれないけど、そうなったらお料理してもおもしろくなくなるよ。食べる楽しみ知んない人が作ったお料理食べても、食べる人は楽しくないと思う」
「……そうだね。いわれてみれば」
「せっかく作ったお料理、誰かに食べてもらうの嬉しいけど、その前に自分で味見して確認するのも楽しみの1つだし」
うん、あの味見がたまんない。予想してた味と一致してるか、予想以上の味か、時にはそれ以下か……。
自分でも、ヤッタ! って味に仕上がった時、みんながおいしいって食べてくれると、作って良かったってほんとに嬉しくなる。
「うん、たしかにね。そうだね。料理が楽しいあいだは食べることやめないでおくよ」
よくわかんないけど、なんか納得したみたい。
「「スゴーイ! お兄ちゃん説得しちゃった!」」
みんな驚いてるけど、どしたの?
「修仁が食事に関して決めたことを考えなおしたのは、初めてだわ」
そうなの? あたしは思うままのこといったつもりだけど……。
「そんなふうに驚かないでよ。食べられることに対していつも感謝する気持ちがあれば本多さんのような言葉は自然に出てくるはずだよ。オレ自身恥ずかしいかな」
恥ずかしいって……そんな。あたしそこまで考えてないし……。
よくわかんないけど、犬澤君の家族にスゴく受けたまま、菜霧さんがうちまで車で送ってくれることになった。
あたしは電車で帰るっていったけど、菜霧さんは『お客様を放ってはおけません』といって、急いで車まわしてきてくれた。
「シートベルトしっかり締めてね」
「うん。交通安全の基本だから」
シートベルトはいつもお父さんから注意されてるからクセにあってるし。
「そうだけど違うんだ。すぐ解かるけど本当に悪気はないから。絶叫マシーンは好きなほう?」
「え? ……あんまり得意じゃない」
「ごめんね。姉さんが夕食を勧めた時点でこうなると解かってたんだ。
本人の前だといえないから悪いと思ってたけど。でも安心して、これでも無事故無違反なんだ」
なにが? って、聞こうとした時は、もう発車してた。
ううぅ……いったことわかった。
違反じゃない、違反じゃないけど!
マンションまで到着するのに10年くらいかかった気分……。
「またいつでもいらしてくださいね」
優雅に優しく微笑む笑顔で車内から顔のぞかせる菜霧さん……。
ひきつりながら頭下げて車見送る……菜霧さんの姿した別のナニカが運転してるに違いない。
どうやったらオートマチックであんな運転できるんだろう……その前になんで免許取れたんだろう……免許許可した人も同罪だと思う。膝がガクガクしてうまく歩けない……今度いくことあっても絶対電車で帰ろう。
「……た、ただいま〜」
「お帰りいー」
紗弥が妙に嬉しそうに迎えてくれる。
なんだろう。
あ……キッチンにあるの、お父さんが作る我が家名物『福イナリ寿司』の材料の残り……。
スゴくおいしいけど、手間かかるからめったに出ない貴重な料理。まさか今日がその日だったなんて……。
「お姉ちゃん残念。せっかくだったのにねぇ」
あたしの顔のぞき込む紗弥。
うぅ……。
部屋でぐったりしてると、お父さんがきて小さな福イナリ寿司2つお皿に入れて持ってきてくれた。
今食べると太るから、冷蔵庫に残しておいてもらうよう頼んだ……やっぱりお父さんよくわかってくれてると思ってたら、紗弥がちゃんとあたしの分を残しておくようにって、いってくれたそうだ。
お父さんも最初からそのつもりだったけど、「紗弥がそういうなら」と笑っておいたらしい。うれしいな。
菜霧さんの運転の疲れで今日はぐっすり眠れそう。
でも、犬澤君のいった小柄な人しっかり見ないと……。
……太鼓の音。
変わることない音階と同じ調子が、ものスゴイ音で繰り返されてるのに、その音だけしか聞こえないことで完全に音がないように思える空間。
ああ、また。
今日はあの人しっかり見ないと。
やがて祭壇の風景になる。
例の呪文が唱えられながら、空間が歪んでるのか光の屈折が変わってるのか、いつも通り小柄な人の見えかた変わる。
手足の感覚なくなるのグッとこらえて、儀式の先見守る。
こんなとこまで見たことない。
……やがて小柄な人の正面にいる司祭が、着物の中から大きな刀取り出した。
え? どうするの? まさか。
司祭が刀振り上げると、2人の司祭が小柄な人の布ひも解くと、太鼓の音はいっそう激しく打ち鳴らされる。
あたしは見た。小柄な人の姿。
見間違うはずない。それは……。
あたしだった。
コワイ……なんてものじゃない。
膝抱えて、目見開いたまま朝になってた。
学校いこ。なんとかしてくれる。きっとなんとかしてくるはず……。
「おはよ……どうしたの? 佳那ちゃん」
「お、お姉ちゃん? ちょっと……」
駅に着くと、その人いてた。
「その様子だと、中心の人物を見たんだね」
まるでわかってたみたい。
「最後の確認だったんだ。ほかに感応してない人がいないかの理由のね。これでハッキリしたよ」
犬澤君は続ける。
「感応してるのは本多さんしかいないとすれば、本多さんはヴァフラ・ヴァウラ・ゼラと関係がある。もしくは本多さん自身がそのゼラである可能性があるんだ。
もしそうなら中心に立つ人物、その人が向こうの世界でのゼラのどちらかを受け継いでるのか、心か、からだか。それによって対処方法が違うんだ」
「どっちなのか、もうわかってる?」
いつも乗るはずの電車見送りながら尋ねる。
「9割がたね、でも確証じゃない。もしオレの予測が正しければ本多さんは本多さんとしての存在を残したままゼラを復活させる可能性があるんだ」
「どういう……こと?」
「その前に確認させて。向こうの本多さんに同じ世界の人がなんらかの危害を加えようとした?」
「うん……服の中から大きな刀取り出した」
そして頭に振りかざした……。
「間違いないね。ラサケセス側のゼラは間違いなく『ミ』を受け継いでる。こっちの本多さんは『キ』を内包してる」




