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鼓動  作者: 吉川明人
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理想


「あるいはこれを完全に受け入れるとすれば、べつの道が開けるかもしれない」

「べつの道?」

 あたしの言葉にゆっくり犬澤君がうなずく。

「最初から順番に整理していくとね」

 次々画面入れ替えながら説明してくれる……。

 第一に、夢の中で呼びだそうとしてるのは、ヴァフラ・ヴァウラ・ゼラと呼ばれる存在。

 意味は『大いなる存在の心臓』良い者でも悪い者でもなく、とにかく大いなる存在の1つらしい。

 第二に、呼びだそうとしてる人たちはあの貸してくれた本に載ってたラサケスじゃなく、ラサケセスと呼ばれる世界の住人らしい。

 どこまでほんとなのかわかんないけど、異世界(?)の住人で、ラサケス族とは紙の表と裏のように表裏一体として存在してた種族らしい。肩の角が指のようだったなんて微妙な違いがあるのはそのため……。


「もちろんこんな話、祝鎮さんたちには突拍子すぎて教えられないけどね」

 笑いながらつけ足すけど、あたしにも突拍子すぎる。

「そのヴァフラ・ヴァウラ・ゼラ? 呼び出してどうするの? なんであたし関係あるの?」

「呼び出すってことは、逆の見かたをすれば大いなる存在が自分から呼び出されるために、儀式を行わせてるともいえるんだよ」

 逆からじゃそうだけど……。

「司祭の唱えてた呪文の全文は、グンマァニュス エクシスティェン ノジアミニュサ ポスディルン エースィマグン フィイテラメテンナペルーイツ テプァス ヂメナーシオネスパーティイ クイドゥローリア メギニ エクシスティェナト グファラ ヴァーフラ ゼィア ヒコノープシ エースツチ アア エティヌン。

 翻訳すると、


君と別れも 彼は誰れ近く

こ宵再び 会いし遭う。

星々の 巡りきし時 待ち待ちて

共に栄える 鼓動始めん


 だけどおかしいよね、儀式とそぐわない」

「……うん、なんか恋の歌みたい」

 最後のほうはまだ聞いたことないけど、でも、なんか間違いないと思う……。

「五七調の節をつけたのはオレだけど、この場合、恋の歌じゃない。

 2つに分かれたなにかが近づこうとしてて、その願いを叶えよう、叶えてほしいってことを表わしてるんだ」

「分かれたなんか?」

「現在は様々な転換期にあるんだ。世界中の神話や予言。科学・経済・研究レベルから観察・観測してもね。

 もちろん時間的ズレは10年や100年あるだろうけど、宇宙規模で考えればそれは一瞬に過ぎないよ。

 ここから先はオレの想像だけど。ヴァフラ・ヴァウラ・ゼラは大いなる存在の心臓。大いなる生命……宇宙的規模、あるいは宇宙という存在そのものが新たに生れようとしてるのかもしれない。これまであった宇宙的意識に変わってね」

 え、えーと……いきなり違うほうに話変わってない?

「2つの異世界に別れて存在してるのは、人間に心とからだがあるのと同じなんだ。

 それが1つになる時、世界は変革期を向かえるか、新しく生まれ変わるきっかけになるんだ」

「……それならよけいに、あたしとどう関係があるんだろう……」

「それを知るために、もう1つ確認したいことがあるんだよ」

 スゴく真剣にあたし見る。

「祭壇の中心に立ってる小柄な人の姿を見てきてほしいんだ」

 これまでにない真剣な迫力。ずっと安心感しか感じなかったのに……。


「修仁……そろそろ7時よ、お客さまが遅くなってもいいの?」

 ドアの外からノックといっしょに静かな声が聞こえてきた。

「え! そんな時間? ゴメン、本多さん。つい夢中になったよ」

 犬澤君がドア開くと、スゴくきれいで清楚な雰囲気漂わせた髪の長いお姉さんが立ってた。

「それとも、よろしければ一緒に夕食をどうですか?」

 ほんとに……スゴくきれい。

 この人が前にいってたお姉さんなんだ……。

「え? だめだよ菜霧姉さん。本多さんの両親が心配するから、送っていくよ」

「そうなの? 実は、もう準備してしまったのだけど」

 困ってるのかそうでないのかわかんない表情で、お姉さんは赤くなってる。

 なんか悪い……。

「あ、あの……あたし、遅くなるようなら電話するようにいわれてるから、たぶん連絡すれば大丈夫だと思いますけど……」

「でも本多さん」

「それは助かります。たくさんの方でいただいたほうがおいしいものね」

「本当にいいの? 本多さん」

 お姉さん……菜霧さんが純粋に喜んでるのに、なにかいいたげな犬澤君……なんだろ?


「わたしたち家族以外のかたを招いてのお食事なんて、とても久しぶりなんですよ」

 菜霧さんが嬉しそうに話してくれる。

「父さんが鹿児島に単身赴任してから、この家は母さんとわたし、妹2人の4人の女手に、男手は修仁1人ですからなかなか思うようにいかなくて、修仁も年頃だというのにこの状態ですから、いつも心配していたんです」

 いのりちゃんとみのりちゃんも同時にうなずいてるけど……そんなこといわれても困る……。

「気にしないで。みんな思い違いしてるだけだから。あとで解かるように説明しておくよ」

 うん、それに期待するしかないと思う。

 犬澤君のうちもあたしのうちと同じで菜食中心の食事だった。麦の入った五分つきのご飯とコンブ出汁のお味噌汁に野菜の煮たの。おいしかったんだけど、犬澤君の食べてる夕ご飯って、薄いお粥とお漬物にゴマがちょっと……それにお茶じゃなくてお白湯。

 お代わりもしないまま『ごちそうさま』って食べ終わる。うちのご飯の量も少ないっていわれるけど、この量は……。

「「お兄ちゃん食べないんだよ」」

 考えてることわかったように、同時に教えてくれる2人。

「驚きましたか……修仁は食べ物をほとんど食べないんです。

 動物性の物はアレルギー体質なので食べないのはいいんですが……以前はいろいろな物を食べていましたが、今は朝と夜同じ物を2回だけ。私たちは慣れましたけど」

 困り顔もきれいな菜霧さんが、犬澤君見つめながら説明してくれた。

「本当はなにも食べなくていいのが理想なんだけど、残念だけどおなか空くからね」

「またそんなこといって。食べなくていいなんてできるはずないでしょ、もう」

 お母さんがあきれてる。

「本多さんなら理解できないかな。世界中の歴史の中で、完全に絶飲絶食のまま何十年も生きてる人のこと。オレの理想なんだ」

 うぅ……そんなの理想っていわれても。


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