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鼓動  作者: 吉川明人
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偶然の一致


「どうしたの佳那ちゃん、その顔」

「え?」

「ひょっとしてお姉ちゃん寝てないの? スゴいクマだよ」

 鏡見ると、紗弥のいう通り自分と思えない顔が映ってた。

「佳那ちゃん今日は学校休んだほうがいいんじゃない? その様子じゃ、いっても同じでしょ」

 お母さんが生れて初めて学校休むこと勧めてくれる。うん……あたしもそう思う……。

「……そうする」

 紗弥とお母さん送って、もう1度ベッドに潜り込む。もうすぐ……もうすぐ……。


「犬澤君……あの夢なんだけど……どうしよう」

 夕方、学校が終わったころを見計らって電話してみることにした。昨日楽しかったのと打ってかわって、自分でも声が震えてるのわかる。

「どうしたの? 落ち着いて話してくれる」

 昨日の夢の変化伝えると、

「うん、解かったよ。ところで夢の中の司祭が呪文を唱えるっていったよね。それ覚えてて起きた直後に記録することできる?」

「……起きてすぐならできると思う」

「大変だろうけど、できるだけ詳しく残してほしいんだ」

「わかった。やってみる」

 なんでいるのかわかんないし、コワかったけど、紗弥に携帯のボイスレコーダー機能の使い方……だいぶ怒られながら覚えて、枕もとに置いて寝ることにした。


 ……やがて夢がはじまる。

「グンマァニュス エクシスティェン ノジアミニュサ ポスディルン エースィマ……」

 3人の司祭がなにいってるのかわかんない、いつもの呪文がはじまって、あたしは必死で覚える。

 聞き終えたあと忘れないうちにできるだけ早く起きる努力……やっぱり昨日と同じように《もうすぐだね》の声で起きたけど、今日は気にしてられない。

 すぐ残さないと……。

「ぐんまにあす えくしすてん のじあみにさ ぽすでるん えーしま……」

 自分でもちょっとあやしいと思うけど、覚えてるかぎりの呪文、記録できた。それに集中してたおかげか、今日はなんか安心。

 あ、眠くなってきた。今日はこのまま眠れそう……。


 学校に着くと、もう犬澤君がきてた。なんか、あたし待ってたみたい。

「やあ、記録できた?」

「うん。できるだけ覚えたつもりだけど、ちょっとあやしいかもしれない」

「だいたいの雰囲気がつかめればいいよ」

 笑う犬澤君に携帯そのままわたすと、ボタンをポチポチおして、自分の携帯に送り込んでから返してくれる。あ、これだと寝起きの声聞かれる……でも、もう遅い。

 犬澤君は携帯にインサイドホンつなげてじっと聞いてる。チャイムが鳴って授業はじまってもまだ聞いてる。どうしよ、あたし席に戻んないと……でも犬澤君聞くのに集中してるし。

 あ、先生きた。しょうがない、とにかく席に戻ろ。

「犬澤。授業がはじまったら音楽聞くなよ」

 うぅ、やっぱり注意されてる。犬澤君はあわてて耳からインサイドホン外したけど、様子うかがってると、時々片方だけつけて授業中も聞いてるみたい。

 大丈夫かな……。


 ニコニコしながら犬澤君が話しかけてきたのは、お昼ご飯食べるちいにつき合って、食堂から出てきた昼休みのこと。

「本多さん、ようやく解かったよ。グンマァニュス エクシスティェン ノジアミニュサ ポスディルン エースィマ……うん。現地周辺の言葉とは少し違ってたから手間取ったけど」

 間違いない。夢の中で司祭がいってる呪文と同じ……。

「なにわけの分かんないこといってるの犬澤君。なんかのおまじない?」

「まじないといえばその部類に入るかもしれないけど、意味的には召喚呪文の1つかな」

「なに? ショウカンジュモンって」

「よくある例でいうと、霊や魔物を呼び寄せる儀式で使われる、呼び出したい存在を呼ぶための特別な言葉のことだよ」

「うわあ、犬澤くんてそんなのまで知ってるんだ。悪人の上にアブナイんだ」

 ちいがそんなこといっても気にする様子ない。

「呼び出そうとしてるモノは、以前から解かってたんだけど、どうも本多さんの夢とつながらなかったから、いろいろ考えてたんだけど……もっと早く呪文のこと聞いておけば良かった」

「どういうこと?」

「ちょっと言葉だけでは説明しづらいんだ。今日にでもオレのうちにきてくれないかな。感応してる状態がやっと目で確認できるようになったからね」

「それはいいけど……」

 なんだかわかんないけど、あたしに見せたいものがあるらしい。


「あ! わたしだめ。今日からしばらくのあいだ、強化特訓がはじまるからこれまでみたいに簡単に抜け出せないのよ」

「だったらしょうがないよ、ちいはクラブのほうにいって」

「インターハイ出場をかけた試合近いんだよね、こっちはオレにまかせて田中さんは自分のことに専念すればいいよ」

「ゴメンね……って、わたし自身興味あるんだけど、やっぱりバスケも大事だから」

「うん。ちいはそうでないと。がんばってね」

 あたしは1人で犬澤君のうちにいくことになった。放課後、約束どおり直接うちにいく。


「……本多さんの感応してる状態だけどね」

 いのりちゃんの机の椅子借りて、リンゴマークの入ったコンピュータの電源入れる犬澤君の説明聞く。

「ただの波長共鳴とはちょっと様子が違うんだよ」

 よくわかんない。

「祝鎮さんの研究グループが協力してくれて、遺跡から検出される鼓動のデータをリアルタイムでこっちに送ってもらえるようになったんだけど……」

 いくつかの画面開いていって、ちょうど病院の心電図みたいな波が出てる画面が現われた。

「届くまでにほんのちょっと時間がかかって、多少のズレはあるんだけど、なにか気づかない?」

 なんかっていわれても……しばらくながめてたけど、思いつかない。

「……やっぱり、わかんない」

「あくまでオレの仮説にすぎないけど、たぶん当たってると思う。自分じゃ解かりにくいと思うよ。これ、本多さんの心臓の動きと同じじゃないかな」


 …………これ! そうだ、これ、あたしの!

 心臓がドキドキしはじめると、画面の中の波も同じように早まる。コンピュータとあたしはどこもつながってないし、こんなイタズラやるはずない。

「まだコワがらないで。偶然の一致の可能性もあるから」


 でも、こんな偶然の一致なんて……。


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