もうすぐ
「い、犬澤君?」
ほんとにほんとの熟練の職人さんのように、みるみる餡が生地の中に埋め込まれ、流れ作業のように次々でき上がってくおまんじゅう……。
昨日37個用意してたおまんじゅうの皮にほんの数分でピッタリ同じ量の餡が埋め込まれ、同時に餡もなくなる。まるで計算してたみたい。
「うん、ピッタリ」
満足そうに笑ってる……結局あたしはヘラ持ったままじっとしてただけ。
「……い、犬澤くん。あんたがスゴイのは分かるけど、少しはかなぼ〜のいいとこも見てあげなさいよ」
「え? あ、ゴメン。やりはじめると集中して周りが見えなくなるんだ」
恥ずかしそうに頬かいてる。
「ったくー、そりゃあ妹も心配するわ」
「……ゴメン」
ちいの言葉に、頭かしげながら繰り返してる。
とにかくセイロにでき上がった物ならべてガスコンロの上に積む。
「残念だけど蒸す火力が違うから味は落ちると思うよ。一般家庭じゃそこまで贅沢できないからね」
「うん。しょうがないね」
それでもわかすお水は浄水機通した物だし、お水の中には備長炭が入ってる。
「とにかくあとはできあがるだけね、こんなにたくさん食べられるなんて、楽しみだわ」
嬉しそうなちい。やのよろしだと買う以前に個数がかぎられてる。いっそ犬澤君がやのよろし手伝ってくれればもっとたくさんできるんじゃないかな。
「ゴメン田中さん、せっかくだけど1人につき3個の計算なんだ」
「ええ〜! たった3個? どーして? これだけあるのにぃ!」
「みんなのぶん、数えるとこの数なんだ」
「みんなって誰よ?」
「この前いっしょにまんじゅう食べたみんな。
東弥栄高の天凪くんたちと、祝鎮さん、本多さんの妹とオレの姉妹、まだ姉さんがいるんだ。
合わせて13人に分けるとなるとそうなるんだよ。天凪くんたちには昨日連絡してあるから、でき上がり次第待ち合わせることになってるんだ」
「ぶうー。せっかく目一杯おまんじゅう食べられるかと思ってたのに」
スゴく残念そうなちい。
「でも田中さんの場合、祝鎮さんのぶんを含めると6個あるんだ。たぶん3個全て渡すつもりないよね?」
犬澤君の言葉にちいはピクッと反応。
「あたりまえっしょ! 当然よ。兄キが食べてもこの価値が分からないんだから、食べさせてもムダよムダ。1個で充分よ」
「だと思った」
胸なで下ろす犬澤君。
「どーゆーイミよ!」
「い、いや、なんでもない」
あわてて否定してる。
おまんじゅうは、まだ見たことない犬澤君のお姉さん含めた13人に1人3個ずつ、あれ? 割り切れない。
「13人に3個だと2個足りないんじゃ…」
「あ、オレは1個あればいいんだ」
「え、1個? でも犬澤君、たった1個なんて」
「ひとくち食べれば味は記憶できるし、もともとそんなに多く食べられないから」
笑って答えてる。
「犬澤くん! あんたは1個でいいかもしれないけど、ちゃんと3個作っておけばそのぶんわたしが食べてあげたのに!」
「解かったよ。今度作る時はそうする」
犬澤君責めながら、蒸し上がったおまんじゅう最初にひとくち食べたちいは、『あの甘かったの、どうなったの?』って、やのよろしとほとんど変わんない味に驚いてる。
おまんじゅうって餡だけじゃなくて皮と一緒に食べるってこと。餡だけでちょうどいい味つけにすると皮と一緒に食べた時、ぼやけた味になるの、ちいは気づいてない。
駅前の広場に集まってた天凪君たちにおまんじゅう渡して、まだ湯気が出てるの諏訪内さんがまっ先にほおばって喜んでくれた。
ガスコンロ使ってる分はでき立て度合いから考えて、やっと対等くらいだけど、わざわざ集まってくれたみんなはスゴく満足してくれて良かった。
紗弥にもらったおまんじゅうはお父さんとお母さんにも1個ずつ。おいしいって喜んでくれた。お父さんは『手伝ってくれた』のが犬澤君だっていうと、不思議そうな顔して『犬澤修仁……』と繰り返して、なんか思いだしたみたいだから、なんなのかきいてみると、『古い知り合いと同じ名前だ』って教えてくれた。
ふーん、犬澤君と同じ名前……どんな人なんだろう。
あたしはあんまり苦労してないけど、とにかく良かったことにする。今日は気持ちよく眠れそう。眠る前はスゴく良かった。
でも……。
……いつものように、だんだん気分が遠くなって、平衡感覚や手や足の感覚がなくなりはじめ、頭の中はだんだん霧が立ちこめるようにまっ白になってく。
いつもならココで叫ぶ。でも今日は叫ばないで、替わりに声がした。
《モウスグダネ》
背中がスゴイ汗で濡れてた。最後の声は、ハッキリ耳に残ってる。
……もうすぐ?
もうすぐ……どうなるの……?
コワイ。
あたしどうなるんだろう。もうすぐどうなるんだろう……。
からだが震えてるのは冷えてるだけじゃない。お布団頭からかぶって、からだ折って膝抱えても震えは止んない。
それから一睡もできなかった。




