ポカン
「おはよちい。今日午後あけられる?」
電車に乗り込んできたばかりの、クラブあるのわかってるちい誘ってみる。
「なになに? なにかあるの? あけるわ」
なんなのかいってないのに、うなずいてるけど……いいのかな。
「前に犬澤君とおまんじゅう再現するのやってみようかっていってたの昨日やったの。今日でき上がるから、ちいも呼んでって」
「ほんと! やった! 食べ放題ね」
「食べ放題かどうかは……」
「絶対いくわ! 期待してるから」
ものスゴく嬉しそう……でもそんなに期待されると、ほんとに再現できてるか不安になる。あたしがやったのは小豆に味つけただけだし、まだ最終的な微調整も済んでない。せっかく作ったのに違ってたんじゃちいがガッカリするし……。
とにかく放課後、ちいとはいつも通り下駄箱のとこで待ち合わせ。
「遅いぞー! かなぼ〜!」
クラブに出る時よりも張り切ってるちいが待ってた。
「それで犬澤くんとは、どこで待ち合わせ?」
あ。そういえば決めてない。どうしよう。
「……ゴメン、決めてなかった」
「またあ〜! このコは〜! 教室には残ってなかった?」
「うん。何人かは残ってたけど、いなかったよ」
「しょーがないわね。昨日どんな約束したの?」
「うーーんと、明日もきてって」
「だったらしょーがないわ。直接いくしかないっしょ。ほら案内しなさい」
肩押されながら門くぐる。おまんじゅうって目的のおかげで、ちいは普段の強引さがいっそう増してるようだ。
ちょっとドキドキしながら電車降りるあたしと、ワクワクしながらついてくるちいが、犬澤君の住んでるマンションに向かって歩いてると、スッと影のようにならんで歩く人の気配あった。
「あ、犬澤君……」
いつの間にかあたしの隣歩いてた。
「やあ、田中さんと一緒だったら特に待ち合わせしなくてもくると思ってたよ」
「なによ! また忍者みたいに。それが分かってるんだったら最初にいっときなさい。あんたがよくても相手がとまどうっしょ!」
「そうだね、ゴメン」
「い〜え、その顔は謝ってないっしょ」
ちいが犬澤君のぞき込んだけど、ただニコニコしてる。
マンションに着くと、今日はもう鍵が開いてて、玄関には女のコ物の靴がならんでる。妹の2人、先に帰ってるんだ。
「ただいま」
「「おかえりー!」」
パタパタ足音響かせて中から2人が走ってくる。
「おっじゃましまーす! 智恵でーええ?」
いつものように叫ぶちいが……やっぱり驚いてる。
「「ああーー! 今日はまた新しい彼女連れてきてる。お兄ちゃんどうしたの? 大事件の前ぶれかなにか?」」
鏡に映したように、ちい見て驚いてる。
「あんたたち、犬澤くんの妹? スッゴイ! そっくりじゃない。かくし芸の時なんか便利っしょ?」
うーん。2人の肩軽く叩きながら、いきなり困らせてる。
「「ねえ、昨日きた本多さんが彼女じゃないんだったら、お姉ちゃんが彼女なの?」」
「わたし? 違うわよ。わたしはおまんじゅう食べにきたの」
胸張って答えてる姿に、犬澤君は笑ってる。
「「なーんだ。やっぱりお兄ちゃんぜんぜんモテないんだ。だからおまんじゅうなんかで気を引こうとしてるんだ、お兄ちゃんの本命はどっち?」」
「だから違うって……」
「はは〜ん。さてはあんたたち、本当はお兄ちゃんがモテモテだってこと知らないんしょ?
女子のあいだでは有名だぞ。ところが誰に告られても見向きもしてくれないってんで、もういっそホモじゃないかと疑われてるくらいなんだぞえ」
「「ええっ〜〜〜! うそっ! モテモテなの?」」
「あれ、喰いつくのそっち?」
ちいの時代がかった口調のウソにのってこないので、肩すかしされたみたいにがっかりしてる。
「それより、昨日の続きしないと今日おまんじゅう食べられなくなるよ」
「ハッ、そうよ! まんじゅうだわ。早くして!」
あたしが助け舟出すとちいは力強く叫ぶ。
昨日と同じに手洗って完全装備。『わたしに料理なんてできるはずないっしょ』のひと言で、ちいは見てるだけなの決定。
昨日丸めた生地取り出して、あたしが煮込んでた小豆、お箸でひとつぶつまんで味見する犬澤君……できればあたしが先にしたかった……。
「ふーん」
……うぅ、どうなんだろう。
「やっぱり頼んで正解だったね。はい」
小皿にひとつぶ乗せてさし出してくれる。見た目はちょうどいい。予想通り。味は……。
「わたしにも味見させて」
嬉しそうなちいもひとつぶ味見。
「……確かにおいしいけど、やのよろしのより甘くない?」
ちいの言葉にもっと安心。犬澤君もそれ聞いて笑ってる。
「なになに? わたしの舌間違ってる?」
「田中さんの舌は間違ってないよ。たしかにこのあいだ食べた物より甘いと思うよ」
「でしょ? だったらなおさないと」
「いいよ、このまま作るから」
「なんで? どーして? かなぼ〜教えなさい!」
「う、うん。それは……」
「どうかな、あとほんの1時間もあれば食べられるから、できてからのお楽しみってことで」
「ま、まあいいわ。それくらい待つのも悪くないから」
半分は裏ごしして餡の用意。犬澤君は小さな伸ばし棒使って器用に皮広げてく。ほんとにおまんじゅう作るの初めてなのかな……。
でき上がったおまんじゅう置いてく台が用意されて、いよいよ餡詰める。これは慣れてないととてもできない作業。あたしにできるかな……。
緊張しながらヘラ手にしたとたん、あっけにとられて金縛り……ちいもポカンと犬澤君見てる。




