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鼓動  作者: 吉川明人
28/42

過程


「犬澤君はおまんじゅう何回くらい作ったことあるの?」

「ないよ、今日が初めて」

「え?」

 そんなふうに見えないけど……。

「昔ね、見たことあるんだよ。まんじゅう作りの職人さんの作業を。見よう見まねかな」

 見よう見まねって……簡単そうに笑ってるけど、それがどれだけ難しいことなのかなんて、考えるまでもない。

「ほら、そろそろ沸騰してきたよ」

 犬澤君の言葉に、いつもなら聞き逃さない沸騰直前のお鍋の音にあせる。こんなにわかすとダメ。もっと弱火でじっくり煮込まないと……。

 ちょっとお水足して、焦げつかさず、小豆のかたち崩さないよう注意しながらヘラでそっとかき混ぜる。お鍋の中でクツクツ音立てて煮詰められる小豆の音にしばらく静かな時がすぎる。

 それぞれの作業に集中してて会話はないけど、犬澤君とは会話しなくても重苦しい感じはない。


 この調子ならまだ2〜3時間はかかりそう。

そうなるとでき上がりは8時近くになるかも。それから生地に包んでから蒸して……夜中の12時頃が食べ頃かもしれない。

「今日はまだ完成させようと思ってないよ。ふつうは醗酵しすぎるんだけど、この生地ももう一晩寝かせたほうがいいように調整しておいたから。今日は下ごしらえの次の中ごしらえかな」

 心読んだような言葉……まあ、この状況からすればそうなんだけど。

「じゃあでき上がりは明日ね」

「そうなるね。今日は成型前までが目標だよ。

 まあ、オレはこの過程が楽しいけど、本多さんはどう? まんじゅう作りは楽しくない?」

「それは、そんなことないけど……」

 おまんじゅうは何度か挑戦したことあるけど、これだけ手間暇かけて作ったことない……これはこれで楽しくないわけじゃないけど……。

 目の前で次々作られてくお団子状にならべられた生地が、5個ずつ7列と2個……37個できたとこで生地が終わる。

 でき上がった全部の大きさがピタッとそろってるから、成りゆきで作ったとは思えない。

「うん。ピッタリだ」

「おせんべは作んないの」

「ゴメン、今日はまんじゅうのぶんしか用意できなかったんだ。準備でき次第作るよ」

 残念。あたしとしてはおせんべのほうが嬉しかったんだけど。

 そうしてるうちに、外からパタパタにぎやかな靴音が響いて、ドアが勢いよく開いた。


「「ただいまー!」」

 ピッタリ同時に2人ぶんの声が響いた。

「あー! お兄ちゃんが彼女連れてきてる」

「あー! 本当だ! 初めてだあ!」

 キッチンに飛び込むと同時に、赤いランドセル背負った2人があたし指さす……彼女って……それにこの2人……。

「おかえり。いのり、みのり。帰ったら先に手を洗う。話はそれから」

「「はーい!」」

 同時に返事して、洗面所に駆けてく。

「驚いた? そっくりだろう」

「うん。驚いた」

 犬澤君の妹はふたご……それだけならめずらしくないけど、完全に鏡に写ってるかのような対照的な動きしてて、服の色が同じだったら見わけつかなかった。

「左にいた黄色系の服を着てたのが、みのり。右の赤系の服を着てたのが、いのりなんだ。ふたごの中でも完璧に近い一卵性双生児だと思うよ」

「うん」

「「ねえ、お姉ちゃん。お兄ちゃんのどこ気に入ったの?」」

 戻ってきた2人同時に聞かれても、べつに気に入ったとかそんなこと……。

「勘違いするなよ、本多さんは彼女じゃないよ。昨日いったろ、スゴくおいしいまんじゅうを教えてくれた人で、今日はわざわざ手伝いにきてくれたんだよ」

 う〜ん、それも違うような。

「「なーんだ、お兄ちゃんその歳になって、やっと彼女ができたのかと思ったのに」」

 おんなじポーズでガッカリしてる。すごい。

「ゴメン、本多さん。2人ともまだ小学生だけど、すっかりそんなことに詳しいんだ」

「ううん、最近のコはみんなそうだから。それより犬澤君、女のコうちに呼んだの初めてなんだ」

「これまでべつに家に招く用がなかったからね。本多さんはやのよろしのまんじゅう作りの過程知りたいだろうと思って」

 前に電車の中で『興味ないから』っていったの、ほんとに興味ないんだ?

「「ねえ、お姉ちゃん。お兄ちゃんのことよろしくね!」」

 また2人同時にいって、パタパタ走ってく。よろしくっていわれても……。

「にぎやかだろう、いつもああなんだよ」

「うん。でも犬澤君に妹いるなんて、ちょっと意外。それも小学生なんて」

「まあね、5歳も離れてるからいろいろ面倒みてるよ。それじゃ小豆ゆでるのは時間に任せて今日のところはこのくらいにしておこうか。送っていくよ、明日も手伝ってくれる?」

「いいけど……なんか、あたしぜんぜん役にたってないみたい」

「そんなことないよ。きてくれる?」

「うん」

「できれば田中さんも誘っておいてほしいんだけど、お願いできるかな」

「うん、明日の朝、電車の中でいっとく」


 空は薄暗い黄昏時の空に変わってきてる中、駅まで送ってくれた。

「ただいま」

「あ、お姉ちゃんお帰りー。どうしたの? こんなに遅くなるなんて」

「どこかで寄り道してたんでしょ。だめよ、連絡くらいしないと。お父さんまだだからいいけど、心配するでしょ」

「ゴメンなさい。クラスのコのうちでお料理作るの誘われて作りにいってたの」

 男のコのっていうのはやめておく。

 あたしは気にしないのにお母さんや紗弥はすっごく気にするから。それにお父さんまで気を使わせることになるし。

「それで、明日も続きしようってことになったんだけど、いい?」

「いいわ。また遅くなるのなら、駅から電話しなさい」

 鼻歌まじりに夕ご飯の準備続けながら許してくれる。ちょうどお父さんも帰ってきた。

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