部屋
……次の日、だんだん日課になってきた早朝の夢で1日がはじまる。慣れてきたせいか、今日はちゃんと起きれた。
「おはよ。お母さん、紗弥」
「おはよう。今日は大丈夫だったみたいね」
「お姉ちゃん治ったんだ」
「違うよ、夢まだ見るけど、だんだん慣れてきたのかな。寝なおすコツわかってきたみたい」
「そんなの分かっても自慢にならないわよ。根本的に原因を治さないと」
お母さんにはモンゴルの遺跡の話ししてない。本人が理解してないのにほかの人に理解させるなんてできるはずない。
「ほらお姉ちゃん急がないと!」
「あ、うん。いただきます」
紗弥には昨日の晩、話してみた。このコはあたし以上に興味持ったみたい。『ミステリーみたい、面白そう』と笑ってた。
勉強のじゃまになんない程度に同じ夢見るコいないか調査してくれることになった……面白半分だけど。
「おっす、かなぼ〜今日はどう?」
久しぶりに気持ち良くうち出て、いつものようにちいが電車に飛び乗ってきた。
「だんだんコツがわかってきたみたい。今日はそれほど眠くないよ」
「みたいだね。昨日よりボ〜っとしてないし」
「それより紗弥が中学であたしの夢と同じの見てる人いないか探してくれるって」
「やったじゃない。紗弥ちゃんなら動き早いよ」
「うん」
学校に着くと犬澤君はもうきてて、図形の描かれたコピー、奈絵に渡しながらなんか話してた。
「……で、この遺跡から発せられる特殊な周波数の波長に共鳴して、だいたい朝の4時頃こんな遺跡のある風景の夢を見ることになるんだけど、どれくらいの人が見てるのかを知りたいんだ。新鳥さんならそんな個人情報に詳しいからね」
「うむ、たしかに……できるだけがんばってみることにしよう」
「ありがとう、助かるよ」
犬澤君が満面の笑顔浮かべて奈絵見ると、視線そらして赤い顔してる。
……それから1週間がすぎた。寝なおすコツがわかってから、夢のことはあんまり苦痛に感じなくなってきてる。でも、からだは楽になったんだけど、それとは逆に心配なことがジワジワ高まってく。
それは……感応してる人が見つかんない。奈絵の情報網にも、祝鎮さんの聞き込みにも、犬澤君のHPやFacebook、Twitterにも。もちろん紗弥の中学でも。
「もともとすぐに見つけられるなんて考えてなかったから、焦らないでじっくりやるさ」と祝鎮さんはいってくれるけど、だんだん感応してるのって、あたし1人しかいないんじゃないかと考えてしまう。
もしそうなら……あたしはどうなるんだろう。夢そのものよりも、そっちの不安のほうが大きくなってきて、逆に眠れなくなってきてる……。
クラブにいくちい見送って駅に向かう途中で犬澤君が話しかけてきた。
「本多さん。今日、時間空いてる?」
「うん……今日は特に用ないけど」
「ちょっとオレの家にこない? ようやく完成したんだ。ブドウとクコの酵母」
「ひょっとして、ほんとに作ろうと思ってたの」
「うん。おもしろそうだったからね。どう?」
干しブドウから酵母作るには1週間以上かかるから、『試してみる価値はある』って本気だったんだ。
それに『どう?』って尋ねる顔は、初めて会った時に本勧めた嬉しそうな顔。異端の学説と同じくらい、お料理が好きなのかな。
「いってみようかな……?」
「それに、たぶん実際に使われてる材料に近いと思える物もそろえられたからね」
ひとくちかじっただけで、そんなものまで用意できるなんて……。
いつもの駅より1つ手前の、ちいのうちがある駅で降りる。
犬澤君に案内されたのは、あたしのうちとあんまり変わんないマンションで、年数はこっちのほうがちょっと古いかな。
「うちは6階なんだ。日本のハシゴ車は7階までしか届かないから、なにかあった時はギリギリだね」
そんなコワイこといいながらエレベータの横にある階段登ろうとしてる。
「あれ、エレベータ使わないの?」
「あ、そうか。ゴメン。いつものクセで」
「……いつも6階まで階段で登ってるの?」
「うん。エレベーターやエスカレーターなんかはできるだけ使わないようにしてるんだ」
「鍛えてるんだ?」
「違うよ、趣味かな」
「……ふ〜ん」
よくわかんないけど、そうなんだろう。
「わあ、久しぶり。7年前の新築の時に比べるとやっぱりかなり汚れてるな」
マジマジとエレベータの中見渡す姿は、どっかおかしい……自宅のあるマンションのエレベータに乗るの、7年ぶりなんて。
「まだ誰も帰ってなくて静かだけど、すぐにぎやかになるよ」
ドアの鍵開けながら笑ってるけど……なんだろう? お客さんでもくるのかな。
「おじゃまします」
「使うのキッチンだけど、カバンと上着はオレの部屋に置いておく?」
「……うん」
「あまり綺麗じゃないから、少し恥ずかしいんだけどね」
キッチンから奥に入った部屋に案内され、開かれたドアの中に広がる光景に驚いた。
本、本、本……。
壁一面が市販の物じゃない棚……たぶん手作りだろうけど、スゴく綺麗に仕上げてある棚に、ずらっとならんでる。その隙間にコンピュータ2台ならべてあって、反対側にはどう見ても女のコの物としか思えない学習机が2個置いてある。
3段式のベッドにも、女のコ用のキャラクターがプリントされたお布団……。
「部屋が少なくて妹と相部屋なんだ。極端な部屋だね?」
ちょっと恥ずかしそうに頬かいてる。
「うん……ちょっと驚いた」
「まあともかく、まんじゅうの再現をしようか」
荷物置いて、キッチンに戻る。
「昨日のうちに、手間のかかる仕込みは済ませておいたんだ。手順は書いてる通り」
さし出されたノートにはビッシリ文字が埋まってる。いつもはこれまでの経験とカンと気分頼りにやってるだけだから、こんなこと……分量や正確な時間なんて考えながらお料理なんてしたことない。
「普段はカンで料理してると思うけど、今回は再現が目的だから記録したんだ」
イヤがってるのわかるんだ……あ、やっぱり声でわかるのかな。




