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鼓動  作者: 吉川明人
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生き物


「美術品に興味は?」

 店の奥に続く長い廊下歩きながら、磐拝君が犬澤君に話しかけてた。

「ううん。今のところはあまり詳しくないよ」

「茶器を選んだ基準は?」

「なんとなくね。見た目で感じたのと実際触れてみたのじゃ、ぜんぜん違ってたからね」

「……最初のは、いい物だけどほかの物にはおよばない。次のは県の重要文化財。最後の2つは国の重要文化財と国宝に指定される直前の預かりもの。選んだのは国宝直前のほう」

「好みで選んだだけなんだけど」

 なんてことないみたいに答えてるけど……。

「ひとつても少しは芸術的センスがあればいいのに。修仁の爪でも煎じて飲みなさい」

「うるせぇ舞貴。それに爪じゃなくて、爪の垢だろうが」

「なんだ、あんた垢のほうがいいの?」

 2人は騒ぎながら歩いてく。

 廊下通りすぎて自宅通って、日本風の広い庭も通り抜けると、離れ……にしては大きな平屋建ての小屋みたいなとこに案内された。

 ココが道場なんだろうな。

 お祖父さんと磐拝君が一礼して中に入るの、みんな真似して入るのちょっとおかしい。あたしもするけど。

 履物は入り口で脱いで、今は裸足。足のウラにひんやり冷えた畳の感触が伝わってくる。

 正面の神棚のすぐ下にある小さな開き戸から、細長い木箱が取り出される。蓋閉じてたひもがほどかれ、磐拝君が大事そうに布に包まれた物、2人の前にさし出した。

「どうぞ」

 犬澤君と祝鎮さんがお互いに顔見合わせて、犬澤君がなんか目で合図。

 祝鎮さんが受け取ってそっと布が開かれると、表面に細かい模様が彫りつけられた、あたしが見てもスゴく古い物なのわかるなぎが出てきた。

「では失礼します。修仁くん、記録してくれないか」

 鞄から道具取り出してる。

「全長3028mm、最大径20・6mm、最小径15・5mm。材質は……なんだろうな。分かるか?」

「うーん、さっきから考えているんですけど、こんな年輪これまで見たことないですね…でも目的としての材質から考えれば、杉、檜、松……」


「桜……じゃないかな?」

 首ひねってる2人の後ろから、神流原さんが遠慮がちにいった。

「うむ。真実かどうかは分からぬが、古文書に曰く『4000年の齢を経たさくらの大木、丸ごと1本を神力によって一振りの薙にし……』と残されておる」

「スゴイ! 神流原さんって見ただけで分かるの」

 ちいが大声で驚くと、彼女は恥ずかしそうにうつむく。

「これほど圧縮された年輪なんてどうすれば……でも、そっちとしての目的か。神考木かんさぎの、なるほど」

 また1人で納得してる犬澤君。

「オレも触れてみていいですか?」

 待ち切れなくなった犬澤君が、祝鎮さんから薙受け取ったとたん目見開いたまま金縛りになったように動かなくなる。

「お、おい修仁くん?」

「どうしたの?」

 どうしたんだろう?

「……ふふ、ふふふ」

 いつもより多い、あの笑い…。

「さっき、国宝の茶器で試された意味が解かりましたよ」

 どういうことだろう?

「これ、玉は入っていませんがレプリカなんかじゃなくて、本物のヤツカノノフルナギですよね」

「本物だって?」

 祝鎮さんが犬澤君のにぎってる薙じっと見る。

「やはり気づきおったか」

「総師範……」

「本人が気づいたんじゃ、まあええじゃろう順崇。たしかに彼のいう通り、玉は入っておらぬが、贋物であるとの記録はどこにもない。公に認められてはおらんが本物であると信じておる。しかし、よく分かったな」

 嬉しそうに目細めながら、お祖父さんは犬澤君しげしげ見る顔は、磐拝君とそっくり。

「見ていただけでは解かりませんでしたけど、触れるとすぐ解かりましたよ。薙から神話と同じ鼓動を感じるんです」

「そうか? 気づかなかったけれど」

 祝鎮さんが薙に触れながら首ひねってる。

「たぶんこの中で今、鼓動を感じ取れるのは、さっきのことがあるから、あまり勧められないんだけど、本多さん。それと、磐拝くんに天凪くんかな」

「へ? 俺?」

 フイ突かれたような天凪君の声。

「どう天凪君、触れてみない?」

「やめておくぜ。俺は高価なモンとか、骨董品には近づいたり触ったりしないようにしているんだ」

 そうか、だからココでも1人……神流原さんと一緒にみんなと離れたとこ座ってるんだ。

「そんなこといって、さっきの佳那みたいになるのがコワイんじゃないの!」

 諏訪内さんが、からかう。

「おうコワイぜ。佳那みたいになるのもコワいが、大事なもんうっかり壊しでもしたらって考えるとコワくて触れねぇぜ」

「舞貴ちゃん、ゴメンね。仁狼ちゃん本当にそんなのには近づかないんだよ」

 困った顔で、笑いながら神流原さんがいった。

「やった! ひとつての弱点発見!」

「うるせぇ!」

「……薙から鼓動じゃと? それは膿もこれまで気づかなかったが、順崇、気づいておったか?」

「そういうものだと……」

 うなずく磐拝君に、お祖父さんは犬澤君から受け取った薙、じっと両手で持って鼓動感じようとしてる。

「やはりなにも感じぬが……本多さんというのは、どなたかな?」

 とうとう声かかった。うぅ……。

「あ、あたしです……」

「お前さんは、彼のいう通りなにか感じるかね」

 

お祖父さんがあたしに薙さし出すの断れなくて、前に進んで受け取った。

 犬澤君が不安そうに見てる。


 ……あ。感じる……かすかな鼓動。

 生き物に触れてるみたいな……だんだん強くなって、ハッキリわかる。


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