お茶碗
磐拝君のお祖父さんがやってるってお店に着いた。古美術商っていってたから、古くさいイメージあったけど、綺麗なビルで中も清潔な感じ。
あたしにはなにがいいのかわかんない骨董品とかお皿とかならんでる。磐拝君と一緒にいるから、お店の人はあたしたちになにもいわない。
磐拝君がさきに店の奥に入ってく。
「仁狼ちゃん、気をつけてね……」
神流原さんが入り口あたりから中に入ってこようとしない天凪君に振り返る。
「分かってるぜ。俺はココにきたら動かねぇようにしているんだ」
「ひとつて! あんたお皿割るとかなにかやったんでしょ?」
「皿じゃねぇよ、壷だ」
「やっぱり割ってるんじゃないの。あはは!」
諏訪内さんが、思いっきり指さして笑ってる。
「舞貴ちゃん、お店の中だし……もう少し静かにしようよ」
御小波さんが恥ずかしそうに袖引っ張りながら注意。
うん、あたしもそう思ってた。
「いらっしゃい」
奥から磐拝君とお祖父さんが出てくる。あ、なんか人間国宝みたいな雰囲気。この人が総師範なんだろうな。
「ヤツカノノフルナギをご覧になりたいというのは、どういうことですかな? あれは瑞帋流にとって神器の1つ。失礼じゃが、興味本位でのことならお断わりしますぞ」
うぅ、ていねいだけど、キッパリいわれた。
「興味本位ではありません。ご存じでしょうか、現在日本とモンゴルで発掘調査が進められている……」
祝鎮さんが自分の立場と調査の状況、それに関連したクグラの神話説明する。昨日からの犬澤君の思いつきがほとんどだけど……。
「なるほど。事情は承知しましたが、しかし余りにも……犬澤君といったかね、彼の仮説に重きを置きすぎているように思えるのじゃが」
「ええ、そうです。可能性のあることは、完全に否定できるまでは否定しないのがモットーです。今は彼の説にとても興味と信憑性を感じていますから、調べられるかぎりのことは知っておきたいんです。
見せて頂けるのに人数を限定されるのであれば、現段階なら彼だけにでもお願いします」
犬澤君は恥ずかしそうに頬かいてる。
「その前に、見ていただきたい物がある」
お祖父さんが、店の奥からいくつかの木箱と何枚かの写真持ってきた。
「お2人とも、これがなにか分かりますかな?」
なんか模様の写った写真取り出して見せてる。なんか変な模様……線対称のかたち。
「饕餮文ですね。中国殷周時代の。この文様からすると……」
「これが前期、こっちが中期。そして後期の文様ですよね」
「間違いないな」
初めて聞く『とうてつもん』って名前の模様、それも見ただけで年代までなんでもないことのように2人が同時に答えてる。
「うむ正解じゃ。ではこれは分かりますかな」
もう1枚、写真取り出してさし出す。
「……この3枚の物より年代的に古いのはたしかだが」
「……ふふっ」
祝鎮さんは首ひねってるけど犬澤君は笑ってる。なんか知ってるみたい。
「君は分かるのかね?」
気配察したお祖父さんが促す。
「ええ、よく気づかれましたね」
「とうぜんじゃ、儂もこの道は長い」
「修仁くんどういうことなんだ? 饕餮文はいろいろ見てきたが、それは見たことがない。説明してくれないか」
「これは中国の物じゃないんですよ」
「しかし饕餮文だろう。だったらいったい」
「メキシコ中部の、あるピラミッドの中にある像の彫刻です。部分的なものですけどね」
「メキシコ? 海の向こうじゃないか」
「そうなんですけど、饕餮文の意味はいろいろな説があってハッキリしてませんが、動物文であることだけは一致してますよね。
オレ自身は文字の字体・形態の観念から、1番ポピュラーな龍だとする説を支持してます。ある説のようにキリ龍かどうかはべつにして」
「たしかに龍説は信憑性と支持は高いが」
「この文様が彫られている像は、西暦10世紀前後に中南米で栄えたトルテカ帝国で崇拝されてたケツアルコアトルなんですよ。今でいう風鳥ケツアールのことじゃなくて伝説上の生物、翼ある蛇のことなんです」
翼あるヘビ……つまりは空飛ぶヘビ……龍のこと。
「2つの文様から、離れた地域の関連性を探るのもなかなか面白そうだな。
もともと交流があったのか、民族が分化したか、海流を伝うか、パンゲアまで遡るか。あるいはヴィマナと関連づけるか、とすると天の浮船との関連性も……」
なんか思いついた笑いしながら、よくわかんないことつぶやいてる。
「次に、これを見てもらおう」
今度は木箱開けて、茶道なんかで使うようなお茶碗が4つならべられた。
「犬澤君。この中で1つだけ選べといわれたなら、君はどれを選ぶかね」
あたしにはどれも同じように見える。
「総師範」
磐拝君がちょっとあわててる。
「分かっておる。その上でのことじゃ」
犬澤君が前に出て、じっとお茶碗見比べる。
「どれも立派な物ですけど、まず、この中でならこれは選びませんね」
中の1つよける。
「次にこれも外します」
残る2つ。
「触ってもかまいませんか?」
「構わんよ。君なら割らんじゃろう」
お祖父さんがちょっと楽しそうに、チラッと視線外しながら答える視線の先には天凪君がいる。
「もう割らねぇって!」
入り口から動こうとせずに叫んだ。
「どちらかに優劣をつけることは難しいですが、単純に好みでいうなら……」
左のお茶碗指す。
「こっちを選びます」
とたんにお祖父さんの顔がほころんだ。
「ヤツカノノフルナギ、喜んでお見せしよう」




