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鼓動  作者: 吉川明人
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 電車は駅に止るごとに人が乗り込んできて、満員とまでいかないけど、そこそこ混みはじめる。一緒に行動してたはずのみんなは、今はバラバラになってる。なんだか不思議な集団。

 磐拝君は立つ人が出はじめた時から釣り輪持って立ってるし、天凪君はお年寄りの夫婦が乗ってくるとあたりまえみたいに大声で呼び寄せて、犬澤君と一緒に席譲った。

 いいことのはずなのに、それが堂々とできないあたしは恥ずかしくなった。

 ちいはやっぱり諏訪内さんと気が合うみたいで、隣で神流原さんと御小波さん巻き込んで4人でうるさくない程度に騒いでる。

 犬澤君と離れた祝鎮さんはカバンからメモ取り出してなんか書いてる。

 いつの間にかあたし1人取り残されたけど、しょうがない。なんとなく取り残されるのはいつものこと。

 だけど、この場所のおかげで犬澤君と天凪君が小声で話す内容が聞こえてくる。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、あたしのことも入ってたから、つい聞いてしまった。


「……なあ修仁、さっきおまえが佳那運んだ時だけど」

「ん?」

「あれはふつうの動きじゃないぜ。ひょっとするとおまえも人の何倍も力が出せるんじゃねぇか?」

「うん、そうだよ。短時間だけならオレは自分の意思で筋肉の抑止力。つまりリミッターを解除することができるんだ。さっき見せてもらったけど天凪君もだね?」

「短時間だけか? いつでも抑えてるわけじゃねぇのか」

「そうだけど……ふふ」

 あ、なんか思いついた笑い。

「なんだよ顔見て笑うな、気持ち悪い」

「ゴメン。だとすると、君は常に力を抑えてるってことだよね?」

「そんなこと誰もいってねぇぞ」

「そう? ちなみにオレもそれに近いことができるっていうのは自分で訓練したんだ。いろいろやって、今のところ幾つかの脳内ホルモンは意識的に分泌させることができるよ」

 どうすれば、そんなことできるんだろう。

「でも天凪君にそれができるとなると、オレのように訓練したわけでもなさそうだし」

 天凪君は黙って犬澤君の話し聞いてる。

「それができるようになったきっかけは、そうだね、幼い頃の高熱が原因。3歳か4歳までの頃じゃないかな」

 犬澤君がいったとたん天凪君がポカンとくち開ける。あっけに取られるって顔、こんなにハッキリ見たの初めて。

「修仁……おまえ、やっぱりなにモンだ。なんでそんなことまで分かるんだ?」

「人間の脳の発達には年齢によるいくつかの段階があるんだ。例えば七五三詣りってあるけど、あれは子どもの死亡率が高かった時代の名残りじゃなくて、ちゃんとその段階と関係してる。

 それとオレは生まれつき音に敏感でね。会話の中の微妙な変化を聞きとれるんだ。それに加えて表情、目配り、仕草といった、相手から発せられる氷山の一角を読み取るんだよ。海上に見えてるのはほんの一部分にすぎないからね」

「それがどういう……」

「それが解かってる上で氷山を見ると、一角しか見えない海面下の実際の大きさが想像できるんだ」

「だったら俺のことどれだけ分かったんだ?」

 天凪君がニヤッと笑いながら尋ねる。

「そうだね、目に見えてる一角のこちら側までなら。

 反対側、裏側までは確証がないよ、ウラが取れない、想像でしかないってところまで」

「なんだよズルイぜ」

 そういったけど、それ以上尋ねない。

 ふ〜ん。犬澤君は自分で訓練して運動神経高めたのか、それで天凪君は発熱で……それより、犬澤君って話から相手のことわかるんだ。うう、あたし変なこといってなかったかな。


「おまえなら、ひょっとして見えるんじゃねぇか」

 しばらくして、天凪君がさっきよりもっと小さな声で自分の左肩指しながら犬澤君に話してる。

 なんだろう? なんにも見えないけど、なんかあるのかな?

「ふふ、なるほど。残念だけど今はまだ見えないよ。そのコが光に関係してる女のコ?」

「ほ、ほんとは見えているんじゃねぇのか?」

「そうだとおもしろいんだけど。そのコが見えるのは君と神流原さん、それに磐拝君も微妙に反応があったから、3人だけだね」

「……俺と鈴乃以外に、しかも初対面で順崇の表情読めたやつなんてはじめてだ。なんでそこまで分かるんだ?」

「それより、今そこにいるコは代役として存在してるだけで、いずれちゃんとした生身の姿で会うことになるよ」

「ヘ? こいつが人間になるのか?」

「そうじゃないよ。そこにいるコを存在させてる実在の人物がいるはずなんだ。心当りはない?」

「いや……考えつかねぇな」

「じゃあまだ会ってないんだね。だけど相手は君のことをよく知ってるはずだよ」

「うおう、なんか気味悪いな」

「肩にいるコから感じるイメージは悪い? それともいい?」

「いいぜ。信じられねぇくらい、いいやつだ」

「だったら心配ないよ」

「……よく分かんねぇ。おまえなら、いっそそいつが誰なのか分かるんじゃねぇか? 名前とか」

「現実に存在してる人物のほうは、うん、出会ってからのお楽しみってことにして。

 そこにいる光に関係してるコなら……ふふ、どっちも意味合い的にはあてはまるし一致してる。全ての意味を含めるのなら、例えば頭文字を取ってエル……」

 そこまで聞こえたけど、降りる駅に到着する車内アナウンスに遮られて、最後までハッキリ聞こえなかった。


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