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鼓動  作者: 吉川明人
21/42

価値


「ほれ鈴乃、好きなやつ選べ」

「う、うん。どれでもいいんだけど」

 神流原さんは『もう少しマシなのにしろ』っていう天凪君の言葉気にしないで、1番安い小学生の上履きみたいなの選んだ。天凪君は『俺がムリに買わせたんだ』っていって、替わりにお金払ってる。

 こうして見ると、神流原さんも含めて御小波さんや諏訪内さんは同年代のコたちに比べて、ぜんぜんオシャレ……流行りのカッコしてない。あたしや、ちいもそうなんだけど、めずらしいな。


 電車に乗る前に天凪君がみんなのぶんのお茶買ってきてくれて、車内はあたしたちだけだったのいいことに、まだ食べてなかったおせんべとおまんじゅう分けることにした。驚いたことに天凪君はうちと一緒で、朝と夜しかご飯食べないからって、お茶だけ飲んでる。

 犬澤君は『いくつあるの?』って尋ねるから、数答えると『オレもいらない』って天凪君のほうにいく。


 え〜っと……おせんべ12枚におまんじゅう6個だから……そうか、割り切れないんだ。

「磐拝くん! 半分ずつしよう!」

 祝鎮さんも理解して磐拝君に力強くいってる。

「いえ、どうぞ」

「違うんだ。たしかに買ってきた本人が食べられないのは悔しいんだけど、こんな高校生の女のコばかりに囲まれるのは緊張するんだ。頼むから君だけでも残っていてくれ」

「分かりました」

「あははは! お兄さんてけっこうカワイイ!」

 諏訪内さんが大笑いする。

「でしょ? 好きなだけカワイがっていいわよ」

 ちいも一緒になって笑ってる。

 ほんと、この2人似てる。

「……これ、おいしい!」

 先にひとくちおせんべかじった神流原さんが驚きの声あげた。

「え? 本当」

 諏訪内さんと御小波さんもあわてて食べる。

「きゃあ! なにコレ? スゴくおいしい!」

 2人とも歓声あげてる。やっぱりこのおせんべは最高なんだ。

「このおまんじゅうもおいしい! そんなに甘くないのに、スゴく奥行きがある!」

「ねえ、これどこで買ったの? わたしも買いにいきたい! 教えて!」

 す、諏訪内さんの目が輝いてる。

「うちの高校の近くにある、やのよろしってお店のなんだけど、他にもいろいろあってどれもおいしいんだけど……」

「よーし、今度買いにいくわよー!」

 ちいがやのよろしの営業時間とか、方針なんか教えてあげると、彼女は力強く拳固めてる。

「仁狼ちゃん、スゴくおいしいよ。食べてみて」

 神流原さんがおせんべとおまんじゅう半分に割ってさし出してる。

「そうだな、そんなにうまいんなら少しもらおうか。修仁、半分やるぜ」

 天凪君は自分がもらったの半分にして、犬澤君に渡そうとしてる。もともとそんな大きくないサイズだから、ひとくちぶんもない。

「……あ、あたしので良かったら、犬澤君あげる」

 どっちも半分に割ってさし出す。

「ありがとう。せっかくだからもらうよ」

 ……ちょっと惜しいけど、しょうがない。

「おう! こりゃうまいぜ。おまえの料理もうまいけど、コレも大したモンだな」

 ニヤッと笑いながら神流原さんに向かって親指立てると、また赤くなってうつむく。けど、なんかいいたそう……?


「ふ〜ん」

 しばらく匂いかいでた犬澤君はどっちともいわないで、ひとくちかじったおまんじゅうながめてる。

「おいしくない?」

 心配になって聞いてみた。

「え? ううん。スゴくおいしいよ。こんな方法があったんだなって驚いてね」

「こんな方法?」

「うん。卵や乳製品、化学調味料も使われてないし、ふつうのものよりコクがあって甘みが深いのにあっさりしてるよね」

「う、うん」

 深いっていわれても、これが、やのよろしのおまんじゅうの味だから……。

「精白糖じゃなくて、純粋な黒砂糖が使ってある。それにこの皮、天然酵母で発酵させてあるよね。

 ふつうよく使われるのは干しぶどうで、これにも使われてるんだけど、もう1つ別の味がブレンドされてる。そうかクコだ。クコの酵母なんて初めてだよ」

「犬澤君……材料になに使ってるかわかるの?」

 これまで、いくら考えてもわかんなかった材料、ひとくち食べただけで見抜くなんて……。

「うん。1度でも食べたり匂いをかいだりしことのあるものなら、なんなのか解かるよ」

 信じられない。

「だったら、おせんべはわかる?」

 わかるんだったらスゴく知りたい。

「どうかな」

 そっと匂いかいでひとくち食べた。

「うん、おいしいね」

 なんか慎重に舌の上で分析してるみたいだけど……お願い! 分析して!

「うん。香ばしさを出すために、煎った玄米を挽いたものにキビが加えてあるね。

 醤油は大豆と塩だけで添加物や醸造アルコールは使われてない。味の統一のために玄米と同じ土地で造られた醤油だね。

 それに、ほんのり最後に上がってくる自然な甘みと苦みは大豆を軽く煎ってからきな粉にして、タレと馴染ませてあるよ」

 そうかキビときな粉だったんだ。長年の……って、2年間の謎がやっと解けた。

 ふと周り見ると、みんなポカンとして犬澤君の説明聞いてた。

「犬澤くん、あんたなに者よ。ほんと、かなぼ〜に似てるわね。ひょっとして、料理とか自分でするわけ?」

 あきれ顔のちい。

「うん、するよ。おかしいかな?」

「おかしくはないけど、どうしてそこまで分かるのよ?」

 諏訪内さんもあきれてる。

「いいじゃない……あたし、やっとわかってスゴく良かったよ」

「じゃあ今度かなぼ〜んちいったら作ってくれるの期待してるからね」

「材料だけ解かっても、なかなか難しいんじゃないかな。

 まんじゅうの蒸し加減や、せんべいの焼きかたやタレをつけるタイミングなんて、長年の経験がないとできないことだからね」

 そう! 犬澤君のいう通り。

「だったら犬澤くんとかなぼ〜が2人で協力すれば再現できるんじゃないの? やってみてよ」

「ちい〜そんなの勝手に決めないで」

「あはは! 冗談よ冗談」

 冗談っていってるけど、半分本気でいってる。

「まあ、この味なら試してみる価値はあるけど」

 犬澤君は小さくつぶやいてた。


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